【TS】その硝煙は流れる髪のよう~TS美少女ボディガードが学校を襲撃してきたテロリストからクラスメートを守って、クラスの美少女と一緒にプールにランデブーするまでの散々な一日~【短編】

たけすぃ@追放された侯爵令嬢と行く冒険者

第1話 君はそれを引き金と言う

 何年前だか覚えてないが、馬鹿が馬鹿な事を考えた。

 異性間の不和は、互いの性を知らないからだ。


 だったら男を女に、女を男にすればお互いの気持ちが分かるはずだ、と。

 首を傾げそうになった君。気持ちは分かる。


 だが傾げるのはちょっと待った方が良い。

 余裕がなくなるから。


 馬鹿は、そのとびきりの馬鹿は、馬鹿だったが恐ろしい事に天才だった。

 その馬鹿な考えを、なんとたった一人で実現してしまったのだ。


 ほら? 首を傾げるのを我慢して正解だったろ?


 *


 (マジでこれを着けなければならないのか……)

 俺は手に持ったチョーカーを見て、顔が真顔になっている事を自覚する。


 俺の立場からするとあまり良くない表情だ。

 教室でそんな顔をして、この性転換TSチョーカーを見ているのは俺ぐらいだからだ。


 クラスメート達がワイワイと騒ぎながら、躊躇なくTSチョーカーを着けていく姿に戦慄する。

 そのクソ度胸はどこから出てくるんだ?


 敵地に侵入する為に、成層圏からダイブした時より怖いんだが?

 TSチョーカーを前に真顔になる俺をしり目に、クラスメート達が続々と性転換TSしていく。


 本当にやらなければならないのか?

 俺が躊躇していると、隣の席に座るクラスメートが話しかけてきた。


「なんか、ちょっと緊張しちゃうね?」


 俺にそう話しかけてきたのはクラスでも目立つ存在の立花 南だった。

 柔らかい笑みを浮かべる彼女は、俺と同じようにTSチョーカーを前に躊躇しているようだった。


 断言できるが彼女の反応の方が人として正常なはずだ。

 間違っても「畜生!巨乳じゃなかった!」と嘆く奴は頭がオカシイと思う。


「でも意外だな」


 俺が「うるせぇ!貧乳になりたかった俺に喧嘩を売ってるのか!?」と正気を疑うようないさかいを始めたクラスメートを呆れた目で眺めていると、立花が妙な事を言い出した。


「ガクト君はそういうの平気な顔をしてやりそうだと思ってた」


 お前は俺を何だと思っているんだ?

 俺は表情を殺して首を傾げて仕草だけで問い直す。


 どういう事かと。

 返答によっては決闘も辞さない。


「だって何でも躊躇なくやってたじゃない」


 立花の言うそれは、まぁ確かにその通りだった。

 この学校に”潜入”して、慣れぬ学生生活で最初はちょっとやり過ぎたのだ。


 友人の冗談を真に受けて校舎の二階から飛び降りたり、科学実験室にある材料だけで爆弾を作ったりと。

 一瞬だけ、どう答えたものかと考えてから無難な言葉を引っ張り出す。


「生まれてから16年、ずっと男だったからな」


 俺の返答の何が嬉しいのか。

 立花が「ねー」と言いながら首を傾げるような角度で頷く。


「ホント、変な試験だよね。性別を変えるなんて」


 いやまったくその通りだと思う。

 未成年の内にTSを体験すべし、こんな事を考えた奴はマジで頭がオカシイと思う。


 独裁国家の元首でも、もう少しまともな神経をしてるぞ。

 いや駄目だ、別の意味でまともじゃない。


 俺と立花がTSチョーカーを前に躊躇している間にも、クラスメートたちはどんどんとTSしていく。

 試験が始まって五分も経っていないのに、既に九割の生徒がTS済みだ。そのクソ度胸は(以下略)


 もう一度TSチョーカーに視線を落とす。

 思わず出た溜息に、立花が苦笑を浮かべたのが気配で分かった。


 躊躇していても仕方がないか。

 俺がTSチョーカーを首に持っていくのに合わせて立花の手も動く。


 何故か目があってお互いに頷き合った。

 俺は初めて銃を撃った時の事を思い出しながら、TSチョーカーを首に装着する。


 自分が引いてはいけない引き金トリガーに指をかけている、そんな気持ちに襲われながら。

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