命の危険がある仕事だと、ようやく気づく愚か者
休日明けの月曜日。
午前中にいつも通り、装備を担いだランニングを終えた後に座学があった。それまで、異世界の風習や禁忌とされる行為、気候や歴史について学んでいたが、この日はデーモンについての講義だった。
座学が終わり、食堂に来た6人の内、サトシとユウキの落ち込みは凄まじかった。
簡単な警備と思っていたサトシは機関銃ですら的確に急所を狙わないと倒せない化け物との戦闘があるとようやく認識し、ユウキに至っては単なる雑用と思っていたのが、極めて危険な仕事だと理解したからだ。
「終わったわ、、、俺とエリナちゃんのラブラブライフ計画終わったわ、、、生まれ変わったら、俺、、、エリナちゃんの赤ちゃんになるんだ、、、」
巨大なロースカツ定食と特盛ご飯を完食したユウキは、珈琲を啜りながらブツブツと呟いていた。
「ほんとに気持ち悪いですね、、、いい加減にしてください」
何故か、ユウキではなくサトシを睨みつけるエリナに反論する。
「エリナさん、、、ユウキに言ってよ、、、僕、関係ないでしょう、、、」
「コレに言っても無駄だから、貴方に言っているんでしょ!友人として何とかしなさい!貴方、最年長でしょう!」
怖いので小さな声で抵抗を試みたが、さらに睨みつけながら怒鳴られた。
「、、、はい、すみません」
これ以上、怒鳴られないように謝ったサトシの態度が気に入らなかったのか、舌打ちをして食堂を出て行くエリナ。
「てかさ〜こんな破格のお金貰える仕事が〜まともなわけないよね〜」
デザートのプリンを美味しそうにちびちびと食べながら、綺麗な金髪をかき上げて苦笑いするセイラにサキは同調する。
「少し調べたら分かるだろバカどもが、、、何の実績も経験もないわたしみたいな小娘が、月に手取り30万だぞ。命懸けに決まっている」
悲観的な空気を吹き飛ばすような明るい笑い声が響く。
「あはは!大丈夫!大丈夫!デミやレッサーなんて何匹いても、ボクの敵じゃないよ!グレーターも10匹までなら余裕だからさ!みんな、ボクが守るよ!」
3杯目の特盛カツ丼を平らげながら、ジュリアが宣言する。
「そっか、、、そうだよな、、、デーモンとやらをぶっ倒しまくって英雄になりゃ、エリナちゃんをママに出来る可能性あるよな、、、よし!俺はやるぜ!午後から気合い入れて訓練だ!」
ジュリアの言葉を励ましと受け止めたユウキは気合いを入れ直し、珈琲を飲み干す。
「そうそう!ユウキはバカなんだから悩まない!そのまま突っ走れ!」
「でも〜告白すらせずにさ〜結婚うんぬんはキモイよね〜」
「ほんとキモすぎる」
3人の言葉も聞き流し、トレイを返しに立ち上がるユウキ。
「俺は!必ず英雄になってチーレムを築く!そん時にすがってきてもおせーからな!おめーら!あ、サトシは別な!俺の嫌いなピーマン食べてくれるし!」
すごいなと思う。
4人の女の子は10代なのに、ちゃんと現実を受け止めて覚悟を決めてこの場所にいる。職安の立花さんがよく考えるように、何度も何度も言ってくれた事を思い出し、申し訳なかったなぁと後悔する。
自分はいつも間違えてばかりだ。
病院に入っている母の足の傷は少しづつだが良くなっていると看護師さんから連絡があった。しかし、血尿が止まらずに不安になって夜に泣いている事もあるそうで、心理的負担にならないようにと忠告を受けた。
また、間違えたのかと思う。
シェルターに入っている猫の桃は、見守りカメラと連動しているアプリを開いて話しかけると、いつも喉を鳴らしてカメラに頭を擦りつけて、甘えた声で鳴く。
間違えたんだろうなと思う。
それでも、だからこそ
「僕は5年間、必ず生き延びる」
逃げて逃げて逃げ続けた愚か者が、人生で初めて決意した日となった。
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