慣れてきて、浮かれてしまう愚か者

「なぁなぁ、サトシはどの子が好みよ?」


 職業訓練が始まって1週間が過ぎた。訓練内容は初日に敷島教官が宣言したように、装備を身につけてとにかく走って走って走り続けるものが大半だった。



「俺はやっぱエリナちゃんかなぁ、、、サトシも漢ならわかんだろ?たまんねぇよなぁ」



 不思議なもので3日目まであれだけ辛かった訓練も、1週間が過ぎる頃にはゲボを吐かないで、なんとかこなせる様になっていた。



「あのちっこい体からドーン!ってよ!最高かよ!気付かれないように楽しむのが、あのクソみてえな訓練中の癒しだよなぁ」



 1週間が過ぎてようやくきた初めての休日。週休2日と聞いていたが、訓練期間は除外されるらしい。

 その日は昼前まで泥のように眠り、何とか起きてシャワーを浴び、男子寮から食堂をやってきて、小盛りの和定食をのそのそと食べようとした時に、隣室のユウキがやってきた。


「いやいや、他の3人が悪いとかじゃねえよ?3人とも顔いいしな?でも、俺はやっぱエリナちゃんだよなぁ、、、金貯めて会社作ってパチスロ演者になって、あんな子と結婚してえなぁ」



 サトシと違いたっぷりと盛られた朝定食を頬張りながら、25歳の元自称パチプロだったユウキは、将来の夢と訓練仲間の女性たちについて語り続ける。



「ユウキ、、、エリナさんには気付かれていると思うよ。昨日、訓練終わりに胸ばっかみて気持ち悪いって、何故か僕が八つ当たりされたから、、、」



え?と固まった後、慌てるユウキ



「嘘だろ?チラ見だぜ?チラ見?そんなガン見してねえって!は?え?バレてんの?ダメじゃんよ!嫌われてんじゃん!」



 20代も半ばを過ぎたというのに、話す内容は中学生男子レベルだが、絶望的に落ち込んでいるユウキの姿は何故か愛嬌があった。歳は離れているが、あまりコミュニュケーションが得意でないサトシでも、厳しい訓練で助け合う中、気負わず話せる関係になっていた。


「まあ、あと1週間だし向こうでも一緒になるとは限らないから、、、」


「いーや!俺には分かるね!エリナちゃんと俺は同じ部隊に配属されて、助け合う内に芽生える信頼と愛!カァーッ!俺、主人公になっちまうな!5年の任期終えたら、プロポーズしようと思うんだ!」


 語り続けるユウキの背後を見て、真っ青になるサトシ


「あの、、、ユウキ、、、」



 食事のトレイを持ち近づいている4人に、夢想に夢中なユウキは気がつかない


「まあ俺の話を聞け!知ってっか!?この人工島じゃ一夫多妻や一妻多夫なんてのも法的イケるらしいぜ!エリナちゃん以外の3人も頼んでくるなら、俺のハーレムに入れてやっても」


「あはは、ほんとバカだよねーユウキは」


 朝から朗らかに笑うジュリア


「なにがハーレムだバカ」


 辛辣に吐き捨てるサキ


「まじキモすぎてムリなんだけど〜」


間伸びした独特の口調のセイラ


「貴方とお付き合いするなら、チンパンジーを選びます」


腐った生ゴミを見るような目のエリナ


 少し離れたテーブルに座った4人は、ユウキをボロクソに貶し、何故かサトシも巻き込まれ、賑やかに朝食を平らげていく。


 母以外とこんなに話をして、一緒に食事を摂るなんて何年ぶりだろうかと、晴れやかな気持ちになるサトシ。

 食事を終え、休日の午後を堪能しようて食堂を出て行く4人を見つめながら、恨めしげなユウキ。



「なんで、、、なんでなんや、、、なんで後ろにいるって教えてくれなかったんや、、、」


 

 大好きなエリナにチンパンジー以下認定をされたショックが大きかったのか、怪しげな関西弁になっていた。


「教えようとしたら、止めたのはユウキでしょ、、、」


 少しの間、俯いていたが気を持ち直したのか


「よーし!俺たちも出かけようぜ!近くのショッピングモールなら行ってもいいって、教官も言っていたしな!偶然を装って、あの4人とハーレムデートに持ち込もう!なぁに俺に任せとけサトシ!エリナちゃん以外は譲ってやっから!」


 その言葉に呆れながらも、その雰囲気に釣られて自然と笑顔になるサトシ。


「無理だと思うけど、気晴らしに行こうかな」



 この1日が6人で過ごせた、最後の休暇になることを愚か者は想像すらしていなかった。

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