13-鈴木-歩道橋の話
夜の歩道橋って怖くない?
あたしが高所怖いってのもあるけど、子供の時に見たアニメかなんかで歩道橋から落とされる怖い話見たからってのが原因だと思うんだけどけどさ。微妙にトラウマなのよ。絶対ってほどじゃないけど極力避けたいって感じの苦手意識がある。
だからバイト終わってからも少し遠回りになっても絶対歩道橋通らないようにしてるの。絶対。だって怖いから。
そんな話をどんな流れだったか忘れたけど、バイト先の後輩にしたらさ、めっちゃバカにしてくるわけ。「先輩そういうの信じちゃう感じのですか~??かわいい~!!」って。あれよ。かわいいって褒めるときに言う感じのじゃなくて、語尾伸ばしてからかうってか馬鹿にしてるよね?って感じの言い方してくる。仲悪くないからギリ許すけど知らん奴がしてきたら手出るぐらいにはイラっとした。
それで売り言葉に買い言葉で今日の帰りはそこ通るからって言ったのよ。でも怖いから、通った証拠見せるから帰る間通話繋ぐぞってことにして約束取り付けた。たぶんあいつは気づいてない。だって気づいてたらからかってきそうだから。
バイト先出て、そんときも「一人で帰れますか~?無理しなくてもいいんですけど~??」ってめっちゃ煽ってくるからもう頭に血上ってて、もう怖いとかなんもなくてズンズン進む。歩道橋の近くまで来たから約束通り電話かけてビデオ通話にして、正面にカメラ向けて階段上がってったわけ。早足になるとビビってるみたいだしゆっくりすぎるとそれもビビってそうだからなるべくいつも通りぐらいの歩幅で階段上った。
あたしのバイトがだいたい夜の十一時とかに終わるから流石に人気もなくて、恐る恐る見た歩道橋の先には誰もいなかった。内心かなりほっとして歩いていって、同じようにしてまた降りてく。途中で振り返ってカメラ向けても結局誰もいない。拍子抜けって言うか我ながらビビってたことが逆に恥ずかしくなってきて、照れ隠しに後輩になんもなかったなって話しかけようとして、耳に当てたらさ。
「走って!!先輩走って!!早く!!」って。
さっきみたいに語尾伸ばしてからかう感じもなくて必死だったから、とりあえずめっちゃ走ったよ。人いるところまで行ってっていうからコンビニまで走って、息切らしながら開きかけの自動ドアの間に身体ねじ込むみたいに入って店員の人に不審な目で見られながら、商品見繕うふりして小声で話しかけたわけ。
「なに?なんかいたの?不審者?」って聞いたら。
「いや、違いますけど、違うのかな。少なくとも、人じゃないです」って。
後輩曰く、歩道橋の階段上がったら上下どっちも黒でダウンジャケットとズボンの男の背中が見えて、最初はあたしたちみたいに今から帰る人かなって思ったけど、あたしが何の反応もしてないどころか「誰もいないね」みたいなこと言うから明らかにおかしいと思ったんだって。
その男はずっと突っ立ってるからその横をあたしがすれ違う時に「ちがうちがうちがうちがうちがうちがう」って低い声で聞こえたからやばいと思ってあたしを呼んだんだけど気づいてないみたいで、歩道橋を降りてもう一回階段の上にカメラ向けたらさ。
またダウンジャケットの背中が見えて。
なのに、つま先はこっち向いてて。
腕と首が変に弄ったフィギュアみたいに折れ曲がって固まってる状態で階段を一段ずつ降りてきたから必死で走ってって叫んだらしい。
でもあたしにはなんも見えてないのよ。
だからあたしが先輩に行かせちゃったせいだとか泣く後輩宥めながら、ストーカーとかに追われてる感じですか?って心配して聞いてくる店員に事情話したり、一応怖いから金もったいないけどタクシー呼んだりとか色々大変ではあったけど、まあ怖いことはなかった。ついでに言えばその後もなんにもなかった。後輩がめっちゃ心配するからなおさら歩道橋近づかなくなったしね。
ただ、それが怖いって言えば怖いかな。
明らかに現実的に考えておかしいのがそこにいて、危害を加えてくるかはともかくこっちに向かってきていて、それを自分は知覚できてないって、怖くない?
見えてないだけで、もしかしたらその後も、今も、そいつ、あたしの近くにいるかもしれないって考えると、怖くない?
……って言っても実体験したからこそそんな風に考えて言ってるだけで、客観的には夜道でただ走っただけの話だから怖くはないかな。オチもないよ。だって、なんもないからね。その後。祟りも曰くもなんもない。
というわけで話は終わり。
三年、鈴木。歩道橋の話でした。
次の人、どうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます