第9話
「蓮くん・・・」
振り返れば、そこには蓮くんが居た。
大きな大きなエコバッグを下げて。
蓮くんだ。
久しぶりだった。
麻也もそうだけど、蓮くんと顔を合わせるのは久しぶりだった。
ずっとあたしの朝ごはんを作るのを手伝ってくれてた蓮くんは料理にハマり。
今、海斗さんから知り合いの小料理屋さんを紹介してもらって、絶賛修行中見習いの身だ。
住み込みで、ここから二時間はかかるそのお店だから会えるのは1ヶ月に1回だったり、なかったり。
大人になり悪人顔は変わらないが、雰囲気がとても穏やかになった。
元来の面倒見の良さも相まって、今やお店で男女共にモテモテなんだとか。
良いことだ。
しかし
「どうしたの・・・?」
聞く。
この時間はまだ仕事中のはず。
「八雲から連絡があった」
「八雲さん・・・?」
「チビネが無理してるみたいだから、手が空いたらでいーから様子を見に行ってくれないかってな」
・・・八雲さん。
あたしの様子がおかしいの、気付いてくれてたんだ。
それだけで、さっきまで感じてた疲れも吹き飛んでしまう。
そしてその話を聞いた蓮くんの師匠さんは、早退させてくれたんだそうだ。
海斗さんの娘さんなんだろう?
俺も心配だ。
行くと良い。って。
「この様子だと見に来て正解だったみたいだな」
あたしを見て、へにょりと微笑んだ蓮くんが両手を広げた。
「ふっぐぐ・・・」
「おふっっ!?」
迷わず蓮くんの胸に頭突きをしてから飛び込んだ。
「ハハッ‼母親になっても変わらねぇなぁチビネは」
「んーなこと・・・」
ないもん。
そう言おうとした。
けど出てくるのは嗚咽ばかり。
ギュッと蓮くんの背中に回した手に力を入れれば、それ以上の力で抱き返してくれる。
「一人で頑張ったんだな。偉かった」
優しい声でそんなことを言ってくれるもんだから。
麻也も居て蓮くんも居て、安心したあたしは蓮くんの腕の中で泣きながらチビ達のことを話した。
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