大日本帝国宇宙軍 ~神魔大戦編~
朝日カヲル
第1話 宇宙へ
2039年1月
妻和美の墓標に別れを告げた後、高城蒼龍は迎えのリムジンに乗り込む。そして、茨城県の鹿島宇宙港に向かった。
「高城提督、リリエル様、お待ちしておりました」
「ご苦労、ロマノヴァ中尉」
「ヴィーシャ!久しぶりね!これから銀河中心核への侵攻、よろしく!」
鹿島宇宙港で高城達を出迎えたのは、ロシア国籍のヴィクトーリヤ・ロマノヴァ中尉だ。名前から解るとおり、アナスタシア皇帝の血を引く皇統に属する。ただし、ヴィクトーリヤの祖父の代で臣籍降下していて、一応侯爵の位はあるが名誉称号で法的な特権はない。
「高城提督、あの、私のことはヴィーシャと呼んでいただければと・・」
※ヴィクトーリヤの愛称がヴィーシャ
ロマノヴァ中尉は少し不満そうな顔で高城蒼龍を見上げる。濃い目のブラウンヘアと青い瞳、そして透き通るような白い肌はアナスタシアの血を引いていることを如実に語っていた。そして、ロマノヴァ中尉には他の人とは違った特徴があった。耳が少し長いのだ。
霊子力の解明によって、人間にも霊力のある者が存在することが確認された。そして、その遺伝子も特定されたのだ。
1990年頃から遺伝子工学によって、霊力の源となる遺伝子を組み込む実験がされた。しかし、そのほとんどは流産となってしまい生まれてくることは希であったのだが、成功する為の条件もだんだんと解ってきた。そして、適性のある母親の卵子に対して遺伝子を組み込むことで成功率は格段に上昇した。こうして生まれてきた子供たちは、みな霊力が強く高城蒼龍に憑依しているリリエルと会話も出来る。また、霊子キャタライザーによっていくつかの“魔法”を使うことも出来るのだ。
ただしその遺伝子操作による代償として、何故か耳が少し長くなってしまう。それ故、彼ら彼女らのことを人々は非公式にエルフと呼んでいた。
そして高城蒼龍の提督附武官として、高城に憑依している天使リリエルとも会話の出来るヴィクトーリヤが抜擢されたのだ。
「いいじゃない、ヴィーシャって呼んであげたら?他の人が居ないときならかまわないでしょ?それに、ヴィーシャはあんたのことが好きみたいよ?あんたの何処がいいのか解らないんだけど」
「う、リリエル様、私にも聞こえてますよ。勘弁してください」
ヴィクトーリヤは顔をまっ赤にして高城を睨んでいる。もう23歳になるので、適齢期と言えば適齢期なのだ。リリエルにそういうことを言われるとやはり恥ずかしい。
ヴィクトーリヤはリリエルと会話が出来ても姿を見ることは出来ない。そこは、魂が融合している者とそうでは無い者の違いだろう。だから、リリエルと会話をするときも、まっすぐに高城の方を見ているので変な違和感があるのだ。
高城蒼龍は姿こそ30代前半だが、この世界での実年齢は138歳。さらに前世の年齢を加えると170歳になる。もはや妖怪と言って過言ではない。そんな老人に好意を寄せてもらっても正直困るのだ。
「わかったよヴィーシャ。誰も居ないときだけだからな」
「ありがとうございます!高城提督!」
ヴィーシャは本当に嬉しそうな笑顔を向けてくる。その笑顔は、アナスタシアが有馬勝巳に向けていた笑顔にそっくりだった。
“しかし、もしヴィーシャとそう言う仲になったとして、リリエルとヴィーシャはどういうつきあい方をするんだ?お互いに会話が出来るんだから困ることもあるんじゃないか?”
そんな益体のないことを考えていると、
「あら、そうなったら私もヴィーシャと一緒に奉仕してあげるわよ!あんたの“コト”全部知ってるんだから、ヴィーシャにも教えてあげないとね!ね?」
「このクソビッチ天使!」
「えっと、リリエル様、全部聞こえてます」
ヴィーシャは顔をまっ赤にしてプルプルと震えていた。
――――
世界中に12基建設された軌道エレベーターの一つが、ここ鹿島宇宙港にあった。軌道エレベーターと言えば、普通はまっすぐ空に向かって伸びる柱のような物をイメージするだろう。しかし、この世界線で建造された軌道エレベーターはロープウェイのような姿をしている。ここ鹿島にある軌道エレベーターも、地上の固定部から高強度カーボンナノチューブで編まれた直径5メートルのロープが南の空に向かって2本斜めに伸びていた。そして、そのロープは高度36000kmにある静止宇宙ステーション「ハイチャリティ」に固定され、さらに、バランスをとるためその外側にも伸びているのだ。
宇宙に上がるためには、このロープをくるむように取り付けられている「リニアシャトル」に乗る。このリニアシャトルは長さ300メートルにもなる巨大な物で、核融合炉が搭載されている。そこで生み出される電力によって、リニアモータートレインのようにロープを駆け上がっていくのだ。そして、ハイチャリティに到着したリニアシャトルは、下りのロープに取り付けられて地球に戻ることになる。
リニアシャトルの特別室に高城とヴィーシャは乗り込む。そしてヴィーシャが紅茶を入れてくれた。銘柄は、高城蒼龍お気に入りの江雲渭樹だ。これは、中華民国総統の宋慶齢との思い出の紅茶だ。
「ハイチャリティまで7時間ほどかかります。あちらに到着したらドレーク参謀総長との打ち合わせの後、最高戦争指導会議になります」
ヴィーシャは今後のスケジュールを高城蒼龍に説明する。もちろん、地球を立つ前にメールで受け取っているので確認済みだ。
「あ、失礼しました。高城提督は“天使の智恵”が使えるので、確認の必要はありませんでしたか」
「いや、ヴィーシャ。言ってくれるとありがたい。覚えてはいるんだが、改めて言ってもらえると優先順位の再確認になる。助かるよ」
「ありがとうございます。高城提督。もしよろしければ仮眠でもおとりになりますか?ハイチャリティに着いてからは、スケジュールがびっしりですので」
「そうだな、少し仮眠をとるか。何かあったらかまわず起こしてくれ」
高城蒼龍は上着を脱いでリクライニングチェアに腰をかける。それは航空機のファーストクラスにあるチェアと同じように、完全にベッド型になるものだ。そしてヴィーシャがカーテンを閉めてくれる。
“とうとうアルマゲドンが始まるのか・・・”
霊子力の解明によって、高城に憑依しているリリエルの存在が公開され、さらに、銀河中心のブラックホールの中に、巨大な霊子質量を持つ“何か”の存在も明らかになった。さらなる調査によって、おそらくこれが伝説の悪魔だろうという結論に達した。
また、カノープス星系での地球外文明“第二文明人”の発見の後、銀河の様々な場所で第六文明人までの“痕跡”が発見された。
しかし、文明の痕跡はあったが全て滅んでいて、現存する文明との接触には至っていない。さらに、文明のあった星に高城蒼龍が降り立ったときに、リリエルが「アルマゲドンの痕跡がある」と言ったのだ。天使と悪魔が激しく戦った痕跡があるのだという。
しかし、リリエルが誕生して18000年の間では、12000年前の地球におけるアルマゲドンしか知らない。ということは、18000年以上前に銀河の別の文明がアルマゲドンによって滅んでしまったと言うことなのだろう。
天使も悪魔も、人間の霊子力を集めてエネルギー源にしている。正と負の違いはあれど、人間がいないと存在できないはずだ。だが、これらの文明では知的生命体が滅んでいるのだ。アルマゲドンでは人間の支配権を巡って戦うという事だったが、別の可能性も考慮せざるを得なくなってしまった。つまり、天使か悪魔は、場合によっては人類を滅ぼしてしまうと言う可能性だ。
また、高城はプライベートな事ではあるが、前世で友人だった了司(りょうじ)飛鳥(あすか)がどのようになったかを調べた。すると、了司飛鳥の両親はこの世界線では結婚をしておらず、飛鳥も生まれていないことがわかったのだ。そして、自分自身“芦原蒼龍”について調べてみたが、芦原家には男子が生まれず“碧(あおい)”という名の女児が生まれていた。
“まあ、かなり歴史を改変したからな。そういうことが起こっても仕方がないか・・・”
そんな事を思っていると、高城蒼龍は眠りに落ちていった。
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