第4話 復讐

「さて、復讐の始まりだ!」


 仕事部屋にて、俺は臨戦態勢をとる。


 3つのモニターがあるパソコンの前に座り、キーボードに手を置く。

 隣には通い妻と化した西城さいじょうが当たり前のようにいる。


「あんな渋っていた割にノリノリじゃない」

「100万だぞ、100万。あがるに決まってるだろ」

「金で動くなんて……あなたそれでも宮本みやもとさんの彼氏?」

「彼氏じゃねぇ」


「まぁ、確かに今はそうかもしれないわね」

「そういう意味じゃねぇよ」

「じゃあ、どういう意味よ」


「そのまんまの意味だ。告白してなければ、されてもない。勢いでそういう関係っぽくなっただけ。明澄華あすかはそんな俺に嫌気がさしたんだとさ」


「しっかりしなさいよ。それでも好きだったんでしょ」

「勝手に過去形にするなよ」


 胸の内に残る思いを抱き言い切る。


「今も、昔も、変わらず好きだ」

「こっぴどくフラれたのに?」


 グサッ!


「やっぱ止めるか」


 パソコンをシャットダウンする素振りをみせる。


「嘘! 嘘! きっと照れ隠しよ。本心では九条くじょうくんのこと好きなのよ」

「そうは見えなかったが?」


「隠してるんだから当然でしょ」

「そうか、隠してるのか」

「そう。――いろいろとね」

「?」


「こっちの話よ。さっ! ちゃちゃっとやってちょうだい」


 まぁ、秘密がまったくないと考える方が不自然だろう。


「そうだな。引き受けた以上はやるか。100万もらえるわけだしな。カッカッカ」


 1つの案件でこれだけの報酬額は笑える。

 しかも、やることはそんな難しくない。


いけ会長よ、頼むからなにかやらかしていてくれ」

「薄々、思っていたけど、あなた、いい性格しているわね」

「そう褒めるな」

「褒めてるわけではないのだけれど……まぁいいわ。なにかわかったら連絡ちょうだい。しばらく来ないから」


「通い妻じゃないのかよ」

「なってほしいのかしら?」

「別に」

「それじゃ、ここにいてもすることなさそうだし帰るわね」

「おう。……と、言いたいところだが、みつけたぞ」


 防犯カメラと顔認証システムにより、いけの野郎の映像を3つのモニターに映し出していく。


「早いわね」

「まぁな。にしても、何股かけてるんだ、こいつ」


 一緒にいる女が事あるごとに変わるさまは滑稽だった。


「数えてみたら?」

「ヤダよ。意味ないだろ」


 当然のことながら明澄華あすかといる映像だってある。俺がこっぴどくフラレた時のも。

 見たくはないが、仕事だからと割り切る。


 いくつもの映像を同時に映し出し、50を越えたあたりで手を止める。


 すべて別の女と映っている。

 最低でも50股ってことか?


 友達感覚で彼女作っていやがる。

 彼女100人できるかな、じゃないんだぞ。


「ありがとう。それじゃ、そのデータ貰える?」

「こんなデータどうするんだよ」


 人差し指を唇につけ、片目をつぶりながら言った。


「ふふ……秘密」

「まぁいい。報酬の100万、忘れるなよ」

「この程度で仕事を終えたつもり?」


「おい。他に何やらせようってんだよ」

「ウソよ。ちゃんと振り込んでおくわ」

「ったく」


 ただまぁこれで、被害者が増えることがなくなるのか。


 明澄華あすかは騙されていたことを知り、フリーになる。


 騙す方が悪い、か……。

 どうすっかな。


 明澄華あすかとの関係性に悩む日が来るとは思ってもみなかった。

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