去る袖を掴めたら

揺月モエ

去る袖を掴めたら

「私、親の仕事で海外に引っ越すんだ」


その言葉に俺は目を見開いた。


「え?帰ってこないの?」


「うん、暫くね」


「でも、いつか会えるんだろ?」


すると美穂は告げる。


「それでね…私達終わりにしていいと思うんだ」


「な、なんで…」


終わりに…していい…?


美しい夜景がモノクロになる。


すると彼女は悲しげに笑い


「だって会えなくなるなんてきっと苦しいよ。本当は私も瑠偉と離れたくない…でも瑠偉を苦しめるのはもっと嫌」


そう言った。


「俺は」


「ごめん…私の事は忘れていい人見つけてね。私は幸せだったよ。ありがとう瑠偉」


「美穂…」


「別れたくない…遠距離恋愛でも構わない」


「ごめん…諦めて、これはあなたの為でもあるの」


「そんな…俺は」


俺は離れてても愛してる…


でも言葉が出ない。


引き止められない。


だから


「分かった…別れよう…俺も幸せだった。

ありがとう、美穂」


そして最後のキスをする。


これでいいんだ。粘っても彼女が苦しむだけだ。


「じゃあね、瑠偉」


「またね、美穂」


本当は俺は去りゆく袖を掴みたい…


でも…


俺には…出来ない…


ごめんな…美穂、そしてこんな弱くて情けない俺と居てくれてありがとう…。


目に雫が伝う。


モノクロだった夜景は悲しげに輝いた。




「貴方、ご飯出来てるわよ」


「おしごといってるパパのためにママと、

ごはんつくったの!」


数年後、俺は家庭を築いていた。


結局、美穂とは別れたきりで別の女性と結婚した。


俺は未だあの日の事を夢に見る。


今でもあの日、彼女を引き止めなかったのは正解か分からない。


でも、断言できる事はある。


"今も"幸せだということ。

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去る袖を掴めたら 揺月モエ @nakamoe0429

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