第2話
悠久なる星剣というライトノベルは現代をモデルとしたファンタジー作品であり、アニメ化もされた作品である。その人気はそこそこではあったが、二期三期と続き、四期で完結まで制作された。さらに数多くの魅力的なキャラクターも豊富なためスマホゲームにも展開したが、そっちはいまいち人気が出ずに静かにサービスが終了した。
さてそんなものがたりであるが主人公である日藤ホシトが桜羅学園高等部に入学するところから始まる。そしてそこで一番最初に彼に接触してきたのが旭野光葉であった。彼女も同じく高等部の新入生であった。しかしホシトは外部入学生。彼女は中等部からのエスカレーター組。彼女は滅多に外部生徒の入学を許さない高等部が取った珍しい生徒である彼に興味があって近付いた。そんなヒロインである光葉には実兄が一人いた。七歳も離れていた兄。彼は物語が始まる一年前に行方不明になっている。
「・・・・・おれはその行方不明になる兄に転生してしまったのか・・・・」
思わず右手で目を覆う。原作においても何故そのようになってしまったのかは書かれていなかった。それでも数少ない情報が作品の中には鏤められていた。
「・・・・・光芽と関わっていた奴はみんな言ってたよな・・・」
記憶の中にある旭野光芽の情報。其れを口に出す。
「旭野光芽は日本において最強の剣魔だった」
思い出すのはアニメでの光芽と関わっていたキャラクターの台詞。彼女も世界ではトップの実力をもっている魔法使いである。そんな彼女が日本において最強は光芽だったと断言した。それくらいの力を持った存在だったと作品では書かれていたキャラクター。それが旭野光芽という存在である。
「・・・・・・・たしかに・・・そうかなのかもな・・・」
今の光芽は漠然と納得しかできなかった。作品上では謎とされていたその力。今の彼は何がどうなればそのような評価になるのか理解出来てしまった。
「・・・・・ははっ! ・・・・荷がおもい・・・」
納得はしたが、未だに腑に落ちないこともある。まずは自分は死んでしまったと言う事が尤もだろう。だがそこは最早仕方が無い事だと言う事は理解していた。死ぬ前後の記憶はどうも朧気であることが腑に落ちてない理由である。だがあその記憶がったらあったで困るのは自分だと切替えた。だから今度は違う事を考え出す。
「・・・・・俺が光芽にね・・・・・」
旭野光芽というキャラクターには謎が多い。そもそも他人からの会話からしか出てこないキャラクターだった。謎と言うよりも全く分からないキャラである。だからこれから如何するべきなのか。どのような行動に出るべきなのか。それが分からない。悠久なる星剣には前日譚と呼べるようなスピンオフの作品がなかった。作者は前日譚もいずれ書きたいとは言っていたのだが、残念ながら前世の彼は其れが実現される前に死んでしまったから。
「・・・・・・今の俺はまだ十五歳。・・・・・ということは行方不明になるまであ
と六年後くらいか・・・・」
光芽と光葉は七歳の年の差がある。そして行方不明になるのは光葉が十五歳の一年前。そこから逆算して自分の姿が消えるのが六年後。
「・・・・・ゲームの中に入り込む作品は数多く読んできたが。・・・・・物語が始まる前。しかも始まったときには自分はいないのか。・・・・・幾ら原作を知っていたとしてもやれる事は少なそうだな・・・・」
スピンオフが無い状態で原作前が全く分かっていない。そんな状態でどう立ち回れば良いのかを頭を回す。
「・・・・・・出来る事は少ない。・・・・だけどそうだな」
だがそこで考えを改めることにした。
「・・・・とりあえずは妹を悲しませないために行方不明にならないように心がけるか・・・」
姿を消すということはおそらくはその命は無くなっているのだろう。光芽をよく知る者達は彼が死ぬはずがないと皆が口を揃えて行っていた。だがそれでも時折彼を語るとき。寂しそうな表情を見せていた。だから口ではそう言いつつも内心では悟っていたのだろう。光芽は何かしらで命を落とした。そして其れは光葉もそうおもっていた。だけど周りの大人達があくまで行方不明と言い続けていたため其れに合わせて彼女もそう言っていた。
「・・・・・・あの時の表情っつったら・・・・」
アニメでのそのシーンを思いだし、胸が痛む。
「・・・・・・俺としても。もう一度死ぬなんて嫌だからな・・・・」
一度死を経験してしまったから言えることだが、二度目も若くして死ぬなんて光芽は嫌で仕方が無い。前世では何も成せなかったまま死んでしまった。その後悔の念が今は強く残っている。だからこそ今世では。この光芽の体では長く生きていたい。そのチャンスを貰ったものと感じれた。其れがどれだけありがたい物かを噛みしめる。
「・・・妹にあんな顔をさせてたまるかよ」
決意を胸に起き上がり、そのまま立ち上がった。いつの間にか汗は引いていた。それでも大量の汗をかいたことで喉が乾いてしまい、床に倒れていたスポーツドリンクに口をつけて、一息つけると再び木刀を持って道場の真ん中に立つ。そして再び型稽古を始めた。死なないためにつは強くなるしかない。だからこそ稽古をおろそかにすることは許されない。
道場内では空気を切る音と床が鳴る音が響いていく。そのタイミングで朝日が道場を差した。
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