第38話 番外編 没落寸前の令嬢(ステラ視点)ルイスサイド
__貧乏男爵令嬢。遺物持ちでないメルフィーナ男爵家は、没落寸前だった。
そんなある日。メルフィーナ男爵邸へと、王都からわざわざ王太子殿下であるルイス・アルドウィン様が訪ねてきた。
見目麗しいルイス殿下は、噂通りの外見だった。その彼が、私に婚約を申し込んできたのだ。
「私を婚約者にですか!?」
驚きしかない私と違って、ルイス殿下は落ち着いていた。金髪碧眼に、整った顔。確かに、見目麗しいと言う言葉が似合う。でも、雰囲気は冷たかった。
「そうだ。結婚してくれるのなら、借金はこちらですべて片付けよう。他にも要望があれば聞き入れる」
「よ、要望ですか……」
あまりの突然のことに驚きは隠せない。ロマンチックな結婚の申し込みではない。しかし、この家の惨状を見れば、断るなど選択肢はない。借金すらキレイにしてくれるというのだ。
私が結婚すれば、メルフィーナ男爵家は没落ではなくなる。そうすれば、弟たちも肩身の狭い思いをすることなく、学校へと行けるのだ。
ルイス様を見れば、美しい絵画になりそうな方だ。そんな方がこんな貧乏令嬢と、しかも、男爵程度の令嬢と結婚する。あり得るのだろうか。疑問しかなかった。でも、それもすぐに理由がわかる。
「何も要望がないのなら、こちらの要望を伝える」
「ど、どうぞ」
「結婚しても、君を好きになることはない。噂は知っていると思うが……彼女が何よりも大事だ。そのために後宮を持つ。そのつもりでいて欲しい」
「う、噂ですか……」
貧乏男爵家のせいで、夜会に出ることのなかったステラはルイスの噂を知らずに、戸惑ってしまうと、ルイスが驚いたように目を見開いた。
「……噂を知らないのか?」
「も、申し訳ありません。なにぶん、見ての通りの没落寸前気味でして……」
驚いたルイスが、無言の空気でステラを見ていた。いたたまれない。
「ですので、私を婚約者にするのは……」
「いいや。ステラ。君にする。だから、後宮をもつことを受け入れて欲しい。夫としての責も果たす。どうだ?」
「メルフィーナ男爵家を救って下さるなら、私に異論はありません」
「では、よろしく頼む」
「は、はい! こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」
目の前のソファーで足を組んでいるルイスに向かって立ち上がり深々とお辞儀した。
そうして、ルイス・アルドウィン殿下の婚約者になり、王都で暮らすことになっていた。
♢
私は王城に部屋を用意されて、部屋にはルイス様が用意したたくさんのドレスに宝石に家具にと……驚くほどの待遇だった。
「すごい……」
「これはまた……」
一緒に王城まで付き添ってくれたメルフィーナ男爵である父親までもが驚きを隠せない。
「お父様。すごいですね。さすが王族は違います」
お金持ちだなぁと思う。
「しかし、本当にいいのか? ステラ」
「ここまで準備されて何を言っているんですか? もうあとには引けませんよ?」
「そ、それはそうだが……ルイス殿下には、想い人が……」
お父様も、ルイス様の噂を知っていた。彼には忘れられない令嬢がいて、無理やり別れさせられたのだと……だから、私の結婚にも素直に頷けないのだろう。だけど……私に後悔はない。
「お父様。ルイス様の事情を知っているのでしたら、口を閉ざしましょう。触れない方がいいことだってあります。それに、ルイス様は約束を守ってくださっています。私たちが没落寸前の貧乏男爵家でなくなったのは、ルイス様のおかげですよ? 弟たちが立派な学校へと行けることになったのも、すべてルイス様のおかげです」
「確かにそうだが……」
「それに、この部屋を見てください。ルイス様は、想い人がいると言って私を蔑ろにする方ではないのは明白です」
そういう約束を交わした。そして、ルイス様はすぐにメルフィーナ男爵家を救ってくれた。
彼は自分の都合で、約束を反故にする人ではなかったのだ。
そもそも、私とルイス様は恋人でも何でもない。ただの政略結婚と同じだ。そこに愛を求めようとは思わない。
「失礼する」
突然やって来たのは、アルドウィン王国の将軍であるチェスター・レーバセルス様だった。
「これはレーバセルス将軍。お会いできて光栄です」
「ああ、楽にしてくれ。貴殿がメルフィーナ男爵か?」
「お初にお目にかかります」
「ルイス殿下に代わり、メルフィーナ男爵家には感謝申し上げる」
チェスター様が胸に手を当てて頭を下げた。思わず、緊張する。
「して、ステラ嬢。何か、足りないものはないか、とルイス様より承ってきた」
「足りないものですか?」
むしろ、有り余るほどのドレスなどの数々に、なにが足りないのかすらわからない。貧乏生活が長すぎたせいもあるだろう。お父様ですら、足りないものはないかと、分からずに悩んでいる。
「遠慮なく言いなさい。すぐに準備させる」
「遠慮では……私たちはこれで十分です。お気遣いいただきありがとうございます。ルイス殿下にもどうぞよろしくお伝えください」
「そうか……では、何かあればいつでも伝えてほしい」
「はい。ありがとうございます。レーバセルス将軍様」
「私のことはチェスターでよい。では、私はこれで……」
仕事が忙しいのか、チェスター様が急いで去っていった。
「すごい威厳のある将軍様でしたね」
「レーバセルス将軍は人格者としても有名な方だ。決して、ご迷惑をおかけしないように」
「はい。お父様」
そうして、お父様はメルフィーナ男爵領に帰り、私は家族と離れて城で暮らすことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます