第4話 記憶を未来へつなぐ語り部たち
小学生の頃、紗和は学校で行われた「戦争を知る会」に参加したことがあった。その時、一人の女性が語る空襲の話を聞いた記憶がある。白髪混じりのその女性は、当時まだ10歳の少女だったという。
「姫路の空が真っ赤になったあの夜、私は家族と一緒に防空壕に逃げ込みました。でも、壕の中にも熱気が入ってきて、息ができないほどでした。外に出ると、家も学校もすべてが燃えていました」
静かに語る女性の声には、当時の恐怖や悲しみが滲んでいた。
紗和は当時、戦争がどれほど残酷なものかを初めて知った気がした。家族や友人を失った悲しみ、その中で生き抜かなければならなかった人々の気持ちを想像すると、胸が苦しくなった。それ以来、戦争の話を聞くたびに「忘れてはいけない」という気持ちが強くなった。
語り継ぐことの意味
今、大人になった紗和は、再びその女性の話を聞く機会を得た。地元の図書館で開かれた平和講演会にその女性が登壇するという知らせを目にし、足を運ぶことにしたのだ。
「当時の私たちは、生きることで精一杯でした。だけど、子どもだったからこそ、『なぜこんなことが起きたのか』を理解できなかった。だから今、こうして話すことで、次の世代に考えてもらいたいんです」
女性は、語り部として活動を始めた理由をそう語った。
「語り継ぐって、簡単じゃないんだな」と紗和は思った。自分のつらい経験を思い出し、それを多くの人の前で話すのは勇気がいることだ。それでも語り部たちは、戦争の記憶が風化することを恐れ、未来に伝えるために活動を続けている。
風化させてはならない理由
講演の最後に、女性はこう締めくくった。
「戦争の記憶は、年々薄れていきます。それでも私たちは、二度と同じことを繰り返さないために、これを伝えなければならないんです。あなたたちが次の語り部になるんです」
その言葉に紗和は心を打たれた。自分たちがこうして平和な生活を送れているのは、語り部たちのような人々が記憶を伝え続けてきたからだ。彼らの声がなくなってしまったら、どうなるのだろう?記憶が消えてしまえば、同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。
紗和は決意した。
「私も何かできることをしよう。記憶を受け継ぐ一人になろう」
記憶を未来へつなぐ架け橋
語り部たちの活動を支えるのは、聞く人々の存在だ。話を聞き、それを心に留め、次に伝える人がいなければ、記憶は途絶えてしまう。紗和は、自分がその架け橋になることができるかもしれないと感じた。
「私が伝えることで、誰かが何かを考えるきっかけになれば、それが次の未来を作る力になる」
紗和はその思いを胸に抱き、次に自分ができることを探し始めた。
次回は、紗和が語り部たちから学んだことを元に、未来に何を伝え、どう行動していくかを考える最終章です。
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