目覚めた実咲



「っ・・・」


 交通事故で死んだ後、死後の世界にある霊魂管理局という役所的なところの役人的な神から、かつての戦友達がごっそり転生したという世界の話を聞いた大日本国国防総省海軍長官の林実咲は、一旦また闇の世界に落とされ、何か体に衝撃を感じて目を覚ました。その衝撃から死後の世界とか霊魂管理局とか全て夢で事故の瞬間に戻ったのかと実咲は思ったが、どうやら車には乗っていないらしい。起き上がってみると、自分は確かに日本海軍の軍服、士官服らしきものを着ていたが、そもそも海軍長官になった時点で軍服は着なくなったし、そもそもその軍服にどうも何か違和感があった。2050年の時代には博物館にあるような古めかしい軍装、それに肩章を確認したらこの世界の自分らしき人は海軍少佐らしかった。それで何かないかと手当り次第に探し、懐にあった身分証を見ると、この世界でも自分は林実咲という名の女らしい。で、改めて現在地を確認しようと辺りを見ると、何か前世でも見慣れた港とその周辺の造船所のドックなどの施設が眼下に見えた。


「おお、呉か!・・・つってもこれは?」


 どうやらここが海軍のお膝元、広島の呉市周辺らしい事は前世でも仕事として何回も訪れていたから分かったが、それにしても港に出入りする艦船があまり見慣れない。というより前世では1996年生まれの実咲の、その生まれた頃よりもだいぶ昔の時代に来たらしかった。ここから見えた海軍艦艇や下の呉市街の景色、瀬戸内海の海岸線の形から察するに恐らく1930年代前半くらいだろうかと推測したはいいが、だとしたらなぜ戦友達は皆この世界に転生してきているのだろうと疑問が残る。そうしてしばし考えたが、あまり考えても明確な答えには辿り着けず、とりあえず今いる名前も分からない山から降りて、鎮守府に向かった。


「おお林、戻ったか!」


 鎮守府の建物に入った実咲を待ってたぞ!と笑顔で迎えたのは、どうやらこの世界の実咲の直の上司に当たるらしい呉鎮守府情報部長という肩書きの山村康二大佐だった。その姓を聞いて、実咲はもしやと思った。彼女には前世で長らく腹心として傍に置いていた山村梨花という士官がいた。実咲が海軍長官になった時も副長官は彼女だった。それで、彼女はおかしくなったと思われるのも承知で思いきって聞いてみたが、は梨花の転生体ではなかった。よくよく考えたらそれも当たり前だ、前世で実咲が死んだ時点で彼女は生きていたのだから。


「なるほど、その山村梨花少将は違う世界の私の子孫とかなのかもな」


「部長はこんな話を信じるのですか?」


「まあ、何でもありえないと突っぱねるより信じてみたら面白いだろ」


 そう言って笑う山村康二に、なんとなしに山村梨花の面影を重ねる実咲。或いは本当にこの人が、この世界で後の世に生まれるはずの梨花の曾祖母ではないかと実咲は思う。と、実咲は転生しているであろう戦友達の事を聞こうと思ったが、その前に何よりも気になった事を康二に聞く。


「部長、この呉基地には女だけなのですか?」


 そう、山を降りてここに来るまでに見かけた海軍人や水兵の中にも、鎮守府に入る前に見た作業中の艦船クルーにも比喩ではなく本当に全く、男子がいなかったのだ。しかし、康二は逆に何言ってんの?という顔で実咲を見る。


「この呉っていうか海軍だけじゃなくて、陸軍も軍人兵士はみんな女だろ、男の体力じゃきついし」


「え?逆じゃないですか?だって体力的には我々女が男に勝てるのは子供の頃くらいで・・・」


「いやいやそれこそ逆でしょ、まあ英国なんかだと先の欧州大戦から男性軍人もいるみたいだけど、前線に出るなんて事はなかったし」


「はぁ・・・(ここは男女の立場が逆転した世界なんか)」


「林の前世の世界では逆だったの?」


「はい、まあ私の場合はこちらの世界とあまり変わりませんでしたがね」


「へー、ちょっとそっちの世界も見てみたいなあ」


「なかなか面白い世界でしたよ。こういう別の世界の人との交流もありましたし、外国からは「日本は不思議の国だ」なんて言われて」


「不思議の国かぁ、いいねえ。なら林はそっちで転生したいと思わなかったの?」


「その思いもどこかにありましたけど、こっちの世界に前世の戦友達が皆転生したって聞いて・・・そういや、他にも私みたいな話をする軍人、或いは政治家とかいます?」


「私は分からんなあ、あ、でもなんか・・・ちょっと待ってて」


 そう言ってどこかへ消えて、すぐに戻ってくる康二。彼女の手には、ある新聞が握られていた。


「この記事、不思議に思ってたんだけど今の林なら分かるかも、見てみて」


 康二が見せてきた新聞記事には、棟田真紘という若手議員が「私は別世界から来た」という発言をしたという内容が載っていた。棟田真紘、それは前世では弱冠20代で北大西洋のポルトガル領マデイラ諸島沖に散った実咲の戦友の名前だ。実咲自身がそうであるように、彼女もまたこの世界の彼女自身として転生しているのだろう。また、記事をよく読むともう1人、真紘と同じ発言をしている議員がいた。


「そっか、真紘と菜生は政治家に・・・向いてるもんな」


「知り合い?」


「この発言的におそらく・・・2人とも私の大事な仲間です」


「会いに行きたいよな?」


「え、しかし・・・」


「大丈夫、我々情報部なんか基本暇だからな。汽車の切符も手配してやるから何も心配はいらんぞ」


「いや、ですが・・・」


「・・・どこの世界の貴様も仕事熱心ぶりは変わらんわけだな。だったらこうしよう、貴様に帝都での情報収集の命令を出す、だから貴様はあくまで仕事として東京に行くだけだ、それならいいだろう」


「はっ!そういう事でしたら謹んで命令を受領いたします!」


「よし、決まりだな」


 というわけで、上官の計らいで転生した仲間に会いに東京へ出かけた実咲。そして再会を果たしたその仲間達から、彼女はとんでもない事を聞かされる・・・・・・








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