第一話「ザ・ワンパウンダー 24/25」
師走の寒風が吹き抜ける渋谷。
クルツは大手IT企業との商談を終え、オフィスビルを後にしていた。
時刻は午後7時。
今日の商談は機械学習モデルの最適化について、かなり突っ込んだ議論となり、
頭も心も疲れ果てていた。
「今日は何か肉々しいものが食べたいな…」
そう呟きながら、駅前の雑踏を歩いていると、
ふと目に入ったのは赤と黄色の看板。
バーガーキングだ。
普段なら素通りするファストフード店だが、今日は違った。
店頭に飾られた「ザ・ワンパウンダー 24/25」の写真が、
クルツの目を捉えて離さない。
年末年始限定メニュー。約450グラムの100%ビーフパティを使用したという、
その圧倒的な存在感。疲れた脳にも、これは特別な何かを予感させた。
クルツは普段、健康を考えて食事を選ぶタイプだ。
しかし今日は一年の締めくくり。
たまには羽目を外してもいいだろう。
店内に入ると、カウンターで注文を済ませ、番号札を受け取る。
座席に着き、スマートフォンでメールをチェックしていると、
程なくして注文したバーガーが運ばれてきた。
「なんという…存在感だ」
トレイの上に鎮座するバーガーは、まさに圧巻の一言。
両手で持ち上げても安定感があるほどの重量感。
包み紙をそっと開くと、ふんわりとしたバンズの間から、
分厚いビーフパティとチーズ、野菜が顔を覗かせる。
まずは全体像を確認。
バンズは適度な弾力があり、パティから染み出た肉汁を吸収しつつも、
崩れることはない。
レタスやトマトなどの野菜は新鮮で、シャキシャキとした食感を保っている。
ピクルスの酸味が全体の味を引き締め、バランスを整えている。
そして、メインの主役であるビーフパティ。
一口かじると、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。
450グラムという重量級のパティは、しっかりとした肉の旨味が凝縮されており、
スパイスの効いた味付けが絶妙だ。
「これは…」
普段は淡々と料理を解説するクルツだが、
このときばかりは感情を抑えきれない。
「ウマーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!!」
店内にいた数少ないお客さんが振り向くほどの大声だったが、
気にする様子もない。
むしろ、その反応に共感するかのように、
隣のテーブルの客が小さくうなずいているのが見えた。
驚きだったのは、パティだけでなくチーズの存在感。
溶けたチーズがパティを包み込み、まろやかな風味を加えている。
バンズとパティの間に挟まれたチーズは、ただの脇役ではなく、
しっかりと主張を持った存在感を放っている。
「デカーーーーーーーイ!!!」
両手で持ち続けるのも一苦労なサイズだが、
一口また一口と、クルツは夢中で食べ進めていく。
普段のプログラミングやモデリングでは味わえない、
原始的な満足感が全身を包み込んでいく。
食べ進めるにつれ、クルツの頭の中では、
この味わいを機械学習の言葉で表現しようとする思考が始まっていた。
「この味の複雑さは、多層ニューラルネットワークのようだ。バンズ、パティ、チーズ、野菜、それぞれが独立した層を形成し、噛むたびに新たな味の組み合わせが生まれる。まるで、入力層から出力層に至る過程で、様々な特徴量が抽出されていくかのようだ」
しかし、そんな分析的思考も、次の一口で吹き飛ばされる。
「意外と中に入ってるチーズもボリューミーでかつ旨い!!!!」
最後の一口まで、その美味しさは衰えることはなかった。
完食したクルツは、深いため息をつきながら椅子に深く腰かけた。
「たまには、こういう贅沢もいいものだ」
トレイを下げ、店を出るクルツの表情には、
満足感と共に明日への活力が宿っていた。
寒風も、もう気にならない。
外に出ると、すっかり夜の街になっていた。
イルミネーションに彩られた街並みを眺めながら、
クルツは今日の体験を反芻する。
「機械学習の世界では、常に最適解を求め続ける。でも、人生にはそういう明確な答えがあるわけじゃない。時には、こうして予定外の選択をすることで、思わぬ発見があるのかもしれない」
ふと、明日の仕事のアイデアが頭に浮かぶ。
「そうか、あのアルゴリズムの問題、こうすれば解決できるかもしれない」
クルツは足早に駅へ向かった。
明日は早起きして、新しいアイデアを試してみよう。
そんな決意と共に、彼の背中には満腹感と充実感が宿っていた。
この夜、クルツは久しぶりに深い眠りにつくことができた。
明日への期待と、今日の満足感が、心地よい余韻となって彼を包み込んでいた。
【めしどき!】『孤高のクルツ~A Culinary Journey~』 だみんちゃん @daminchan
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