僕らの道には標識がないから

aoiaoi

前編

 ゆいの鉛筆が、動きを止めた。


 公立高校受験、最終日。最後の教科。

 残り時間、5分。

 ここまでの段階で、ほぼ合格点を取れている手応えがある。


 けれど——。



 中学3年の春。

 ずっと好きだった同級生に、勇気を振り絞って告白した。

 彼は酷く恥ずかしがりつつも、その想いに応えてくれた。


 共に過ごした時間。

 共に勉強に励んだ。

 全ての時間が、幸せだった。


 彼と同じ高校を希望した。

 成績は同レベルだ。

 必ず一緒に合格できると思った。


 それが——

 受験1日目の昨日。

 彼は、大きく躓いた。

 急激な腹痛で、ほぼ点数を見込めない教科ができてしまったという。


「俺は、多分ダメだ。

 唯は、頑張れ」

 電話の奥の彼の声が、キリキリと胸に刺さる。


 同じ私立を滑り止めに選び、二人とも既に合格している。



 ——私が、もしここで失敗をすれば。


 そうすれば——



 唯は鉛筆を置き、消しゴムを握る。


 最後の5分。

 唯は、全ての解答の文字を消し去った。


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