第2話 シャンプーは燃えるゴミで捨てましょう
シャンプー怪人に向かって走る俺。走り出したは良いものの、この姿は何ができるんだ?
何も分からないまま戦いを挑んでしまったことを少し後悔する。
どうしようか、とりあえずなんか殴るだけ殴ってみるか。
「食らえ怪人!!」
思いっきり怪人を殴ると、俺の拳が雷のようなものを纏っていることに気づく。
雷?俺の能力は雷を操ることなのか?
「うわあっ!!なんだこれ!!」
シャンプー怪人はもろに拳を食らい、後ろへ吹っ飛んでいく。
なんだこれは俺のセリフだよ。すげえパワーだなおい。
まあこれぐらいパワーがあった方が都合がいい。このまま倒しきってやる!
ていうかこれ、武器とか無いのかな?あるとめっちゃ助かるんだけど。
すると腰のベルトが光り出し、両刃の長剣が出現した。
「おっこりゃいいな!使わせてもらうぜ!」
長剣に雷を纏わせ、俺は再び走り出す。
シャンプー怪人は俺に向かってポンプを押してくる。なんとか転がって躱し、少しずつ怪人に近づいていく。野球で培った動体視力が役に立ってるな。
「なんだ!!なんなんだお前!!」
「うるせえよ!だから俺も知らねえっつってんだろうが!!」
怪人の言葉と体をぶった斬る。すると怪人は真っ二つになり、これで一件落着……じゃなさそうだな。
真っ二つになったボトルから中身のシャンプーらしきものがどんどん溢れ出て、人々の方へ向かっていく。
どうやらこいつの本体はボトルじゃなくて中身の方だったようだ。
ええ……でもこんなんどうやって倒せばいいんだよ……。
「なはははは!馬鹿め!!俺様をボトルから解放したことが運の尽きだったなあ!!」
おいまじか、やっちゃったぞこれ。どうすればいいんだ……。
いや、ちょっと待て。確か昨日調べた中にシャンプーの捨て方が載ってたはずだ。シャンプーは牛乳パックなんかに詰めた紙や布に吸わせて、燃えるゴミとして出せる。ということは、シャンプーそのものは燃えるはずだ!
俺の能力は雷。火花を使って火を付けることは出来る。なら、後は牛乳パックと紙か布を探すだけだ!
「ちょっとすみません、牛乳お借りしますね!後で弁償します!」
俺は油を吸われて干からびかけているおばちゃんの買い物袋から牛乳を取り出し、中身を全て捨てる。
そのまま電柱に付いていた迷い猫の張り紙を何枚か剥がし、空いた牛乳パックに詰める。
ごめんな。迷い猫はいつか俺が探し出してやるから。多分だけど。
そして俺は流れていくシャンプーを必死で追いかけ、内野守備で仕込んだ腰の低さでシャンプーを吸い取っていく。
「おいお前!!何をするつもりだ!!」
「黙っとけ!!お前は倒されるから知る必要はねえよ!!」
シャンプーを吸い取り終わった俺は、思いっきりジャンプして上空へ跳び上がる。
うおっなんかめっちゃ跳んだな。まあこの方が都合がいい。
そのままシャンプーを吸い取った牛乳パックを放り投げ、牛乳パックの方に剣を向け、叫んだ。
「ライトニングスパークル!!」
すると剣先から電光が走り、バチバチと火花を起こしながら牛乳パックへ引火し大爆発。
俺はそのまま地上へ戻り、ベルトから櫛を取り出して変身を解除する。
「ふう〜、なんとか勝てた……」
周りを見ると、干からびかけていた人々にどんどん生気が戻っていく。
良かった、ちゃんと倒したら人々は元に戻るみたいだ。
シャンプー怪人の周りにいた黒タイツみたいな戦闘員たちは逃げて行ったようでもういない。しまったなあ、あいつらから倒すべきだったか。大体のヒーロー番組でも戦闘員から倒してるもんな。
「しかし……なんなんだこの怪人は?クロゾーメ軍団とか言ってたけど……それにしてもだっせえな名前」
ブツブツと一人言を呟く。
いやでも考えている場合じゃない!とにかく、美容室に戻って金森さんに詳しく話を聞かないと!
俺は踵を返し、来た道を早足で戻って行った。
だが俺はこの時まだ知らなかった。クロゾーメ軍団との戦いが、これからも長く続いていくということを。
「ちょっとどういうことですか金森さん!!」
「あらお早いお帰りね染谷くん。もう出会っちゃったのね?」
全てを察したように話す金森さん。その通りだよ!美容室を出てまだ一時間も経ってないのになんだこの人生の変わりようは!?
「ボランティアってあのヒーロー活動のことですか!?結構がっつりヒーローしてましたけど!?」
「そうよ。だから最初に聞いたじゃない。ヒーローに興味はあるかって」
「そりゃ聞かれましたけど……まさか本当に怪人と戦うなんて思ってないですよ!!」
「まあそうよね。半分騙したことは認めてあげるわ」
認めちゃうのかよ!!詐欺で警察に話してもいいんだぞこっちは!?
いやでも警察が信じてくれるかなあ。俺が変身して見せればいいのかな。
「ていうかなんなんですあのクロゾーメ軍団とかいうの?あんな怪人今まで見たこと無かったですよ!!」
「クロゾーメ軍団は簡単に言うと悪の組織よ。世界征服を目論んでいるわ」
「ざっくりしてんな!!もっとちゃんと説明してください!!」
「めんどくさい人ね君。まあいいわ、これからもうちを贔屓にしてもらうわけだし、ちゃんと話してあげる」
それから金森さんはクロゾーメ軍団について詳しく話してくれた。
なんでも、社会に出て働くには黒髪じゃないといけないと凝り固まった考えをする会社があって、その会社の思想が強くなりすぎて怪人化したのがクロゾーメ軍団だそうだ。
最初は街で見かける黒髪以外の人に黒染めを強要する程度の悪事を働いていたらしいが、段々とエスカレートして怪人の力を使い、世界を黒髪だけで埋めつくそうと考えるようになったらしい。
……なんだそりゃ!?敵の動機も目的もしょうもねえな!!
「ということで、クロゾーメ軍団は私たち美容師の大敵。でも私たちは施術することしかできない。だから、その施術を研究して特殊な技術を身につけ、ヒーローの素質があるお客さんを待っていたの。その素質があるのが君だったってわけ」
なんかそう言われると悪い気はしないな。
俺がヒーローか……。敵がしょうもないけど、世界が危機に晒されることには違いない。俺に立ち向かう力があるなら、立ち向かうだけだ。
「あ、言い忘れてたけど君の力は髪が伸びてきて黒髪部分が増えると弱くなっていくからね。できるだけ短いスパンでリタッチに来るのよ」
「え!?そうなんですか!?」
「そう。お代はいらないから、ちゃんと世界の為に戦ってね」
「分かりました……他に何か言い忘れてることとかありません?」
「ああ、そういえばあったわ。君の能力は君の髪色によって変わるの。私が施術しないと能力は変わらないから、他の美容師に染めてもらったりセルフカラーしても意味は無いわ。もし敵の能力によって自分も能力を変えたい時は私に言ってね」
「え、それ間に合わなくないですか?」
「いいからいいから、その時はその時よ。じゃ、またのご利用をお待ちしてます」
そう言って金森さんは再び俺の背中を押して店から出す。
「ええ、このヒーロー活動、大丈夫かなあ?」
釈然としないまま帰路に着く俺の後ろに黒い影が着いて来ていることに、この時の俺は気づいていなかった。
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