木枯らしにもやもや(2)

 コナラの木から降ってくるのは枯れ葉だけではない。


 どんぐり(団栗)が盛大に飛んでくる。どうやら今年は豊作の年らしい。地面がどんぐりだらけになる。決して誇張などではない。本当に足の踏み場が無いほど埋め尽くされる。


 しかし、こんなすぐ近くに我が実を大量にばらまいて、このコナラさんはこれで満足しているのだろうか。




 どんぐりが豊作と凶作を繰り返すのは、二つの理由があるらしい。


 一つには、大豊作になると木がどんぐり作りでとことん疲れ果て、我が身を回復するのに時間がかかる。だから、翌年の結実量が激減するのだそう。

 なぜそんなに限界まで頑張るのか。きたる年のことは考えないのだろうか。そうプログラムされているのかしら。


 そして、もう一つは、これがどんぐりの木が未来永劫えいごう繁栄するための戦略であるというもの。

 凶作になれば、どんぐりをたくさん食べる動物が生き延びられずに激減する。その翌年に豊作になり大量のどんぐりを作れば、どんぐり自体の生存率が増すのだそうな。


 これを、どんぐりの戦略だと説明されると、底知れぬ畏怖を感じてしまうのは私だけではないはず。

 そう言われると、おお、そうなのか、すごいな、と感動してしまう。


 それでもしばらくたって、待てよ、と考え始める。樹木自らそういう戦略を立てて実行するに至ったわけではなく、結果的にそうなるように進化してきた。いや、そうなったものだけが生き延びてきたのであるから、原因と結果は逆なのではないか。

 それを繁殖の戦略と言われると神秘を感じてしまう私は単純である。




 別に戦術を考えたのではなく、生き延びてきた遺伝子にとってそうなるのが結果的に有利だったから。そう考えるのが自然。

 しかし、そうであったとしても、遺伝の変異が積み重なってこういう変化が起きたのは事実。そこに生あるものの神秘をやはり感じるのである。


 たとえば、食虫植物。養分が少ない地に生息するから他の手段で不足分を補うようになったと言われる。

 そうだとしても、どうしてあれほどすさまじく独創的な形態、各部が計ったかのように洗練された機能を持ち、また対象物に特化された仕組みを作りうるのか。

 どのような過程を踏めばそう進化するのか。そもそもこれは進化なのか。考え始めると眠れなくなる。


 遺伝子が変異して性質や形が変わるのはわかる。それが生存や繁殖に有利であるなら次世代に受け継がれ、そうでなければ淘汰とうたされる。

 言葉では分かっても、じゃあどう変化していけば、最終的にあの姿になるのか。まったく想像の域を超えている。


 進化途中の段階が無数にあるはずである。最終形になっていない状態が特に生存と繁殖に有利であるとは想像できない。どうして、中途半端な形態がうまい具合に次世代に受け継がれたのか。

 ハリ・セルダンの予測と対処法のように最初の一押しで以後の道筋が決定されていたのか。集団としてのみ意味のあることで個々を見てはいけないのか。それともやはりこれは遺伝子の意志による戦略なのか。堂々巡りでいつまでたっても、もやもやが治まらないのである。




 ちなみに地面に散らばる大量のどんぐりであるが、いつの間にか減っている。虫が食べるのかねずみ栗鼠りすなのかあるいは鳥なのか、一度も現場を目撃する機会には恵まれていないが、確実にどこかに消えている。

 そのうち幾ばくかは食べられた後どこかで吐き出され、あるいは遠い地に運ばれ埋められているのだろうか。


 それでもまだそこら中に残っている。

 これらのすべてが根付いて翌春にいっせいに芽を出して成長したりしたら大変なことになるに違いない。

 どんぐりから根が出ているのを見たことがないから、ここはどんぐりの生育環境には適していないのだろうか。


 あるいは、遠くに運ばれたものだけが根を出し、やがて芽を伸ばすような仕組みがあるのかしら。

 いまだかつて緑地の空き地にコナラの新木がにょきにょき伸びるのはおろか実生みしょうすら見たように思えない。


 本当に遺伝子の戦略と豊作凶作の原理が働いているのか、ちょっと気にはなる。 (よる)

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