お粥が食べたい病人VSどうしてもキムチをぶっ込みたい幼なじみ

遥 述ベル

お粥が食べたい病人VSどうしてもキムチをぶっ込みたい幼なじみ

「あぁ、39.0℃か。また上がってる。マジきつい」


 中道華奈なかみちかな。大学生。

 彼女は大風邪を引いていた。病院に行って薬は貰ったので後は安静にするしかない。

 彼女は今、一人暮らしをしているので、心細い思いをしていた。


「ひとりってこんなに寂しかったっけ」


 彼女には仲がいいとは言えない幼なじみがいたが、今は彼でもいいから誰かそばに居て欲しいと思っていた。


「お粥食べたいな。でも動くのもしんどいし」


 華奈はこのまま水分だけ取って寝ようとした。

 そこで、インターホンが鳴る。


「今は出れないよ。誰だろ」

 今の彼女は来客を迎える余裕がなく、ひとりであることも受け入れるつもりでいた。


 ガチャッ、ガチャガチャ──ガチャン


「え?」

 無理やり鍵を開ける音。華奈は恐怖を感じていた。


「華奈、大丈夫か?」

 そこに現れたのは幼なじみの南蒼空みなみそらだった。


「蒼空!? どうやって開けたの?ていうかなんで来たの!?」

 蒼空は華奈が住んでいるアパートの近くには住んでいないし、彼女は彼に風邪を引いたことなど伝えていなかった。


「鍵は俺の技術で。なんで来たかは華奈のお母さんから聞いた」

「ママなんで言うのよ」

 さっきまで蒼空でもいいから誰か居て欲しいと思っていた華奈だったが、いざ現れるとウンザリした気持ちになっていた。


「ということでお見舞い」

「いらない」


「キッチン借りる」

 華奈は抵抗する気力が尽きて、流れに従うことにした。


 数分後、蒼空がお盆に何かを乗せてベッドへとやってきた。


「はい、キムチ」

「あんたバカなの?」

「大真面目だけど?」

 華奈は知っていた。蒼空がこういうやつだということを。


「ほら、あーん」

「いらない」

 華奈の言葉を無視して、スプーンが華奈の口にぶっ込まれる。


「コホッコホッ」

「大丈夫?」

「心配するならお粥作ってよ」

「どうしてもキムチがいいなって」

「意味わかんない」

 蒼空はこうやって嫌がらせをする。それは華奈にだけで、彼女はいつも迷惑していた。


「冷ませばいいのか?」

「ちーがーう」


「じゃあ、こうしよう。口開けて」

「なんで?」

「なんでも」

 華奈は早く帰って欲しいので反論する気がだんだんと薄れてきていた。それに彼女はまた普通にキムチをぶっ込まれるだけだろうと思っていた。

 気持ちの準備さえ出来れば意外となんとかなるものだと彼女は経験則から学んでいる。


「おらあ!」

「ぐもっ」

 華奈の口の中にはキムチが摘まれた蒼空の指が入っていた。彼女の想定の範疇を超える行為。


 そこで華奈に衝撃が走った。

 彼女の歯には蒼空の鍛えたゴツゴツとした指が入っている。

 歯根膜しこんまくから神経へとその食感の情報が伝達され脳へと行き渡る。

 また味蕾みらいから味覚神経を通じて味を知覚する。

 その指の食感、味が絶妙だったのだ。

 コリコリした部分とふにゃっと柔らかい部分があり、飽きない噛みごたえにほのかな塩味。


 幼少期に咥えていた指とは大違いで彼女は蒼空が男であることを認識した。


「どう?」

 蒼空は指を引き戻す。キムチはそのまま掴んでいる。


「美味しい」


「……じゃあ、付き合う?」


「うん」



 キムチはそのまま賞味期限を迎えることとなった。




(完)





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お粥が食べたい病人VSどうしてもキムチをぶっ込みたい幼なじみ 遥 述ベル @haruka_noberunovel

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