第14話 好きな人

 午後からの眠い授業。五時限目が終わっての休み時間。ふと隣を見ると、高平が珍しく机に突っ伏してため息をはいている。


「高平、どうした?」


「いや、昼休みのが気になってな……」


「宮内さんか」


「ああ。好きな人が居るなんて……誰だよまったく」


「確かにな……」


 そこに木山が口を挟んできた。


「高平も川端も鈍いなあ」


「あ? なんだよ」


 高平が喧嘩口調だ。


「わかんないのかよ。宮内さんが好きな人」


「わかるかよ。お前、知ってるのなら教えろよ」


「知らないけどさあ。でも、お前じゃねえの?」


「は?」


「宮内さんの好きな人。そういう流れだったろ」


「え? いや……そんなわけ……」


 そう言いながら高平の顔はみるみる笑顔になっていく。


「お前、顔がにやけてるぞ」


「な! いや、大丈夫だ。そんなわけないだろうし……」


「そうか? なあ、小峯さん。宮内さんの好きな人って――」


 木山が振り向いて小峯さんに聞くが、すぐさま小峯さんは言った。


「ノーコメント」


「いや、少しは――」


「ノーコメントで」


 とりつく島も無いが、それ自体が答えなような気がする。


「小峯さん、言わなくていいよ。望みがあるならがんばるだけだ」


 高平、宮内さんのことがやっぱり……しかし、それが知られたらクラスの女子や本城真凛が黙って居なさそうだな。宮内さん、大丈夫だろうか。少し心配だ。


◇◇◇


 放課後になると、また高平は部活ですぐに居なくなった。


「よし、帰るか」


 木山が俺と小峯さんに言い、いつものように帰り出す。そこにいつもとは違う人が来た。


「あ、佳奈子。今日は私も一緒に帰っていいかな」


 本城真凛が近寄ってきた。


「え、嫌だ」


 小峯さんがあっさり拒絶した。


「えー!!」


「じゃあね、真凛」


 そう言って小峯さんは教室を出て行く。俺たちも付いていった。


「ちょっと! 今日は逃がさないし」


 そう言って本城さんは追いかけてくる。結局俺たち4人は一緒に校舎を出た。


「はぁ……何の用よ」


 小峯さんは冷たく言う。


「別に……たまには親友と一緒に帰りたいなって」


「元親友でしょ」


「そうだっけ?」


「自分で言ったくせに」


「まあそんなことはいいでしょ。それよりも……木山君、川端君、よろしく!」


 本城さんは俺たちに笑顔を向けた。


「よ、よろしく! 本城さん!」


 木山は緊張しているようだ。


「あー、よろしくな」


 俺は軽く言った。少しでも気があるように思われたくない。


「ふうん……確かにそんな感じなんだ」


 本城さんは俺に近づいてきた。


「木山君はいいけど、川端君、なんか私に冷たい感じじゃ無かった?」


「別に……」


「もっと仲良くなりたいんだけどなあ」


 そう言って、俺の目の前で上目遣いに見て来る。確かに可愛いが、タイプじゃ無いし、何より俺の悪口を陰で言ってたのも聞いている。


「俺はそうでも無いけど」


 無視して脇をすり抜けていった。


「ちょ、ちょっと! もう……」


「本城さん、こいつは小峯さん一筋だから気にしないで」


 木山がフォローしようとしているが、逆効果のようだ。再び俺の前に来て上目遣いで言う。


「なに? こっちの地味な子がいいわけ? 私の方がかわいくない?」


「いや、全然。小峯さんの方が可愛い」


「な!?」


 はっきり言った俺に、本城さんが唖然として立ち止まった。


「アハハ、はっきり言われちゃったねえ、真凛」


 小峯さんが真凛に言う。


「私の方が可愛いってさ。そういうことなんで、バイバイ」


 立ち止まった本城さんを置いて俺と木山と小峯さんはいつものようにバスセンターに向かった。


「あー、気持ちよかった。ありがとね、川端君」


 二階のテラスの席に座り、俺たちはマックで買ったポテトを食べていた。


「いや、別に。ただほんとのことを言っただけだから」


「いいね、いいねえ。そういうとこ好きよ」


「えっ!?」


「あー、人間として、友達としてね」


 ごまかすように小峯さんは言った。


「う、うん……」


「お前ら、いい加減に付き合え」


 小峯さんの向こう側に座る木山が言う。


「俺はそうしたいけど……」


「だから、私は川端君が好きな清純な子じゃ無いって。今の見たでしょ。私、性格悪いから。真凛のこと、ざまあみろって思ってるし」


「それを見ても付き合いたいって言ってるんだけど」


「だからダメだって……」


 うーん、小峯さんの壁は厳しいな。


「それより、木山君は真凛のことどう思った?」


「本城さんか……確かに可愛いけどなあ。性格には難がありそうだね」


「そう? 今のは私に対抗心燃やしてただけだからね」


「でも、なんか恐そう」


「アハハ、恐そうか。確かに怒ると恐いけど、でも、それは私もだよ。そういうところもまだ見せてないし」


 小峯さんと本城さんは大喧嘩したんだったよな。


「真凛はほんとは良い子だから。私に対する態度だけで判断しないでね」


「そうかもな……わかった」


 木山は言った。


 でも、小峯さんにとって本城さんは喧嘩してる相手で今日も仲悪そうだったけど、影では良い子だって言ってたりする。本当は小峯さんも本城さんと仲直りしたいんだろうな。


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