三つ編み眼鏡の文学少女好きな俺の前に理想の女子が現れた! と思ったけどなんか違う

uruu

第1話 初日

 高校生活初日、俺は友人の木山航平きやまこうへいと、教室へ向かっていた。


「どんなクラスメイトが居るんだろうなあ」


 木山はテンションが高い。


「さあな」


 俺はあまりクラスメイトにも興味を持てないタイプだ。


「可愛い子がいればいいなあ、俺は高校では絶対彼女を作る!」


 こいつは中学時代も同じ事を言っていた気がする。俺と同じで結局出来なかったけど。


「可愛い子はお前を相手にしないだろ」


「そんなこと言うなよ。夢は抱かせてくれ」


「夢を抱くような可愛い子が居ればいいな」


 そう言って教室に入った。すると、その中央に人だかりが出来ている。よくわからないまま、俺たちは自分の席を探して座った。名前が近いから俺たちの席は前後で連番だ。


「おい、見ろよ」


 木山が人だかりの方を見ている。良く見るとその中心に一人の女子が居た。


「すげえ、美人だな」


「確かに……」


 木山が見惚れるだけはある。綺麗な茶髪に長いまつげ。人形のような顔だ。その少女と仲良くなろうと女子や男子が周りに集まっているのか。そんな風に見ていると、突然後ろから声を掛けられた。


「お前らも本城ほんじょうさんに釘付けか?」


 その声に振り向くと俺の隣の席の男子だった。がっしりとした体でいかにもスポーツをやってそうなやつだ。そいつが自己紹介をした。


「あ、俺は高平雄大たかひらゆうだい。よろしくな」


 それに木山が応える。


「おう、よろしく。俺は木山航平きやまこうへいだ……あの大人気の女子、本城さんというのか?」


「ああ。本城真凛ほんじょうまりん、というらしい」


「なんだ、お前もよく知らないのかよ」


「まあな、名前だけチェックした。しかし、美人だよなあ」


「マジでな……」


「そうだな」


 俺だけは気のない返事をした。


「ん? お前はたいして興味なさそうだな」


 高平が俺に言う。


「正直言ってあんまり興味ないな」


「あー、こいつは好きなタイプがちょっと違うから」


 木山が言った。


「へぇー、どういうタイプだよ」


「こいつは地味な子が好きだから。眼鏡で三つ編みの文学少女といつも言ってるぜ」


「お、お前言うなよ」


 木山が俺の性癖をバラしやがった。


「なんだ、どこにでも居そうだよな」


「そう思うだろ。居ないんだよ、実際は……」


 そう、眼鏡で三つ編みの大人しそうな文学少女はステレオタイプだが、現実にはなかなか居ない。中学の時も出会わなかったし、この教室にもやはり居なかった。


「言われてみれば……確かに俺も知り合いに居ないわ」


「だろ? 今時貴重なんだよ、そういう存在は」


「そうかもしれんな。じゃあ、お前の青春は始まりようが無いな」


「まったくだよ……」


 そのとき、木山が教室の入り口の方を見た。


「お、おい……」


「「ん?」」


 俺と高平が振り返る。すると、そこには一人の少女が居た。眼鏡に三つ編み、絵に描いたような文学少女……


「居たじゃねえか」


 高平が俺の背中を叩く。


「痛てえな」


「ハハ、良かったな。お前の青春も始まるぞ」


「た、確かに居たけど……だからって俺が関われるかどうか」


「貴重な存在なんだろ。積極的に行けよ」


「そ、そうだな……あの子、名前なんて言うんだろ」


「何だろうな、っていうかお前の名前も聞いてないけど」


 高平が言う。


「あ、そうか。俺は川端直樹かわばたなおきだ」


「よろしくな。お! あの子、こっちにきたぞ」


 いったん窓際まで行った文学少女はこちらに戻ってきた。そして、木山の後ろの席に座った。それを見て高平がすぐに声を掛ける。


「おはよう、俺は高平雄大。こっちが木山航平で、こっちが川端……なんだっけ?」


「直樹だよ、今言ったろ」


「……お、おはよう。私は小峯佳奈子こみねかなこです」


 その文学少女が答えた。大人しい感じ、イメージ通りだ。


「よろしくな」


「よ、よろしく……」


 その様子を見て高平が俺たちに小声で言う。


「意外に可愛いな」


「意外ってなんだよ。お前、狙うんじゃ無いぞ」


 俺は高平に釘を刺した。


「わかってるよ、でもよかったな」


「ま、まあな……」


 あの子と仲良くなりたい、俺はもうそう思っていた。


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