第四話「消えた手品のお菓子の謎」

レディム帝国の集会室は、いつもの穏やかな午後の雰囲気に包まれていた。

大きな窓から差し込む柔らかな陽光の中、ハンモックでくつろぐねこどすの耳に、

困惑した声が飛び込んできた。


「あれ?おかしいな...どうしてだろう...」


声の主はふゆきさん。

両手を合わせて拍手をするも、いつもなら出てくるはずのお菓子が現れない。

何度も試すものの、状況は変わらない。

隣でいずみみさんが心配そうに見守っている。


「どうしたニャ?」ねこどすは、ハンモックから身を乗り出した。

その仕草は、まるで麻雀の決定的な一打を見逃すまいとするかのようだった。


「実は...」ふゆきさんは困った表情で説明を始めた。

「いつもなら拍手をすると手からお菓子が出るんですけど、急に出なくなってしまって...みんなに振る舞おうと思ってたのに」


「ム!!!」部屋の片隅からひくおさんの声が響く。

「手品は単なる技ではない。それは魂の表現であり、観る者の心を癒すものなのだ。これは重大な事態だ。」


ねこどすは探偵モードに切り替わった。

まるで麻雀の手牌を読むように、状況を慎重に分析し始める。

「最後にお菓子が出たのはいつニャ?状況を詳しく教えてほしいニャ」


「さっきまで普通に出てたんです」

ふゆきさんは再度拍手を試みるが、やはり何も起こらない。

「お昼過ぎまではちゃんと出てたのに...」


部屋にはしくらいさん、だみんちゃんもいた。

しくらいさんはスマートフォンでVRChatの画面を確認し、

だみんちゃんは配信機材の準備をしている。

部屋の隅では、いつものようにBirdが静かに佇んでいる。


「ふむ」ねこどすは部屋を歩き回り始めた。

「手品の仕掛けに異常はないニャ?普段と違う点はなかったニャ?」


いずみみさんが

「私も一緒に確認したんですけど、特に変わったところは見当たらなくて...」

と言いかける。


その時、ねこどすの鋭い目が、床に落ちている小さな包み紙に気づいた。

「これは...」


「アリバイを確認させてほしいニャ」ねこどすは部屋にいる全員に尋ねた。


しくらいさんは

「さっきまでVRChatで新しい世界を探索してました。ログで確認できます」

と言い、だみんちゃんは

「配信の準備をしてました。機材のセッティングに集中してて...」と証言する。


ねこどすは突然、勝負師のような表情を浮かべた。

「分かったニャ!」


部屋の隅でBirdが小さく動く。

ねこどすの目が光る。


「実は簡単なことニャ」ねこどすは優しく微笑んだ。

「ふゆきさん、お菓子を補充し忘れていただけじゃないニャ?この包み紙は最後のお菓子のものだと思うニャ」


ふゆきさんは「あっ!」と声を上げ、慌ててポケットを確認した。

確かにお菓子の在庫が切れていた。

いつも仕込んでおくポケットが空っぽになっていたのだ。


「ム!!!」ひくおさんが深く頷く。

「手品もまた、準備が大切なのだ。それは料理と同じく、下準備あってこその芸術なのだ。」


いずみみさんは安心したように笑顔を見せた。

「よかった、大したことなくて。私が近くのコンビニまでお菓子を買いに行ってきます!」


「待つニャ」ねこどすは静かに言った。

「実は私のハンモックの下に、非常用のお菓子を置いてあるニャ。みんなで分けようニャ」


ねこどすがハンモックから取り出した色とりどりのお菓子を見て、

部屋中が明るい空気に包まれた。


「さすが名探偵ねこどす!」

だみんちゃんが感心したように言った。


「これぞおもてなしの心だ」ひくおさんも満足げに頷いた。


ふゆきさんは新しいお菓子を補充し、見事な手品を披露。

拍手と共に、カラフルなお菓子が空中に舞い、部屋は再び笑顔で満たされた。


ねこどすはハンモックに戻りながら、麻雀の手役のように解説した。

「時には単純な答えが、一番正しい答えニャ。でも、その先にある思いやりの心が大切なんだニャ」


しくらいさんは「これは配信のネタにもなりそうですね」

と笑いながら言った。


...そう、名探偵ねこどすの日常は、今日も小さな謎解きで彩られていくのだった。

時には単純な問題でも、みんなの心を温かくすることがある。

それはまるで、麻雀で平和役が最高の勝利を導くように。


部屋の隅のBirdは、この騒動をただ静かに見守っていた。

夕暮れの光の中、手品のお菓子が舞い、みんなの笑顔が輝いていた。

窓の外では夕日が沈みかけ、

新しい思い出が また一つ、レディム帝国の歴史に刻まれていった。


「ム!!!」ひくおさんの声が、幸せな余韻として静かに響いていた。


時には、謎解きよりも大切なものがある。

それは仲間との絆であり、分かち合う喜びなのかもしれない。

ねこどすはハンモックでゆらゆらしながら、そんなことを考えていた。

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