「試験」:道具の準備の重要性

千瑛路音

試験:道具の準備の重要性

 カツカツカツっと鉛筆の音が鳴る。すでに開始から30分は経過した。答案用紙は真っ白だ。シャープペンシルしか筆箱に入っていなかった。そのシャープペンシルの芯が根詰まりを起こしているのだ。シャープペンシルの分解は得意だった。


なぜかシャープペンシルの分解を始めるときは気分が高揚する。まずペン先の円錐を人差し指と親指で挟んでぐっと力を入れると頭のスイッチが入る。モードがあるのだ。特に今回は時間との勝負だ。失敗は許されない。カチカチカチと、日頃鍛えた時間の感覚を時計の音が頭の中で確認する。準備はオーケーだ。


慎重にクルクルと回して本体から外し、置き場所を決めて整然と部品を並べる準備をする。まず机の向こう側の右端、縁から最低でも15センチは離さなければならない。其処から手前に向け3センチほど等間隔で部品を置く。出てきた。あのロボットの手の様に三つに分かれる小さな部位が。矢張りいつもそこに芯が詰まっているのだ。慎重に爪先を使い芯を取る。ノックを押すことでゆっくりとロボットの手を開く。外科手術のような洗練された技術で詰まっている芯を取り除く。


整然と並べられた部品を今度は逆に本体へと組み立てていく。何も問題なかった。最後に芯を入れる部位のキャップを机の上から取ろうとした。その時だった。視界の端に消しゴムが置かれていることに気が付くことに遅れた。肘にあたってその消しゴムは椅子と椅子の彼方へと転がっていった。もはや失敗は許されない状況となってしまった。                エンド


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