消えるラブコメ

須田原道則

第1話 彼女の名前を検索しても出てこない

 骨茱灯命ほねぐみとうめいとは。

 いつもニコニコと笑顔を作って、当たり障りなのない言葉で、会話を受け流し、どこの集団に所属していても八方美人。悪く言えば、いてもいなくてもいい人間である。



 第三者から見れば、そう捉えられる。



 八方美人には八通り以内で済む型がある。一つは、周りから嫌われない為。翻せばそれは、自分が、如何に傷つかずに済むかを考えている、臆病で卑怯な型。



 一つは、他人を信用していない。誰にも信頼を寄せずに、自分だけを確立したい自己愛陶酔型。円グラフで大半を占めるのは、この二つだと分析結果がどこかのネットの海に落ちているのではなかろうか。



 では彼女、骨茱は、それらの型のどれに当てはまるかを当てよう。



 骨茱は、全部乗せである。朝食バイキングで食べられないくらいに、更に盛って、気分が悪くなるくらい、全部乗せだ。

 もちろん、周りにいる人間は良くはない。それはそれは、気分が悪い。

 つまり、人を信用せず、自分が傷つきたくなく、主張はせずに、流れに身を任せる。



 だから骨茱には親友と言える親友はいない。



 人間関係は、この通り一般女性としては、打算的で、普遍的なのかもしれない。



 では見た目はどうであろうか。決して目を引く美人ではないとは言える。

 綺麗か、可愛いかと言われれば、可愛いと言われる部類である。ただ同年代の女子たちよりは、化粧や手入れを、少し、していない。



 背丈も、体重も平均的で、周りから抜きんでるものは一切なく、特技、特徴も、特筆することはない。敢えて特徴を捻りだすなら、右肩甲骨にほくろがあるくらいだ。



 しかし。特別な。もとい特殊な病気は患っている。



 だからと言って、儚げな彼女、病弱な日焼けしていない白い肌、不幸感を振りまく女などではない。その特殊な病気以外は、ただの嫌な八方美人なだけだ。



 いやはや、だからこそなのかもしれないが。そこは骨茱自身が、どう自分を捉えているかだ。



 当事者ではない私は、ほとほと分からない。 



 結局、人の名前を検索して理解できるのは、概要くらいなのだ。



 何故私は、彼女の、骨茱灯命の説明をしているのかを説明しよう。聞き手の皆様に、説明する責任が私にはあるから。



 私はストーリーテラー。日本語に直すと、物語の語り手だから。



 これから私は、骨茱灯命を主人公にした、物語を語らせてもらう。



 その為に、皆様方には、この主人公とは思えない浅ましい性格、ましてや、病弱ヒロインとも言えない特殊なキャラクターをした彼女を知ってもらいたい。



 実を言うと、私と彼女は、親友とは呼べない親友の間柄でね。少しでも、彼女を多くの人の記憶に残しておきたかったんだよ。



 あぁ、ネタバレをしておくが、私は黒幕ではない。ただの親切な語り手だ。



 嘘じゃない。嘘は嫌いでね。



 では、この特に変哲のない、性格に難あり、容姿に難ありの、骨茱灯命の恋愛コメディーになる物語をお楽しみください。


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