第28話
相手の男は少し間をあけて答える。
「……別に? 邪魔したってゆーか、そっちのが迷惑行為だったと思うよ? 一般的に」
それは確かに。否定出来ない。正論だ。が、何となくはぐらかされたような感もある。
「……あなたとのことは聞いています。瑠夏さんのことを、どう思っているんですか? 答えによっては、俺はあなたと戦わなければならない」
単刀直入に切り込んだ。
俺の質問に、男はカリカリと後頭部を掻きながら答える。
「……あー、俺を警戒してるわけか。なら安心して。俺、結婚願望とかゼロだから。恋愛は一生その場限りの軽いやつだけのつもりだし。ルカはそーゆータイプじゃないから。君の方がルカを幸せに出来るよ。がんばってね」
予想外の返答に一瞬呆然としてしまった。
「……待ってください。それは本音ですか?」
「あーしつこ。じゃーなんて言ったら納得するワケ? あんましつこくするとルカにも嫌われるよ?」
「……」
「じゃね。ルカに、また店に顔出してねって言っといて」
「……言いませんよ」
「……あっそ」
それだけ言って、“あの人”はさっさと行ってしまった。
……分からない。
ならなぜ昨日、邪魔をしたのか。
邪魔する気がないなら、あのタイミングで声をかける必要なんてなかったはずだ。
全く本音が読めなかった。
本当に偶然居合わせただけなのか。
本郷さんを恋愛対象として見るつもりはないというような発言をしていたが、本当なのか。
複雑な気持ちを抱いたまま、俺はアパートを後にしたのだった。
◇◇◇
「それは意味深ね〜」
大学の帰り、綾音に最近の出来事について電話すると、すぐに会おうと言われ、大学近くのカフェまで来てくれたのだ。
リョウちゃんに再会したことは前に話してたんだけど、綾音はリョウちゃんにまだ怒っているようだし、綾音が忙しかったのもあってその時は直接会ってまでは話さなかった。
「……そう、かな」
「だあってさ、よりによってキスの直前に出て来ることないじゃない。タイミング見計らって登場したのよ、リョウさんは」
「なんでそんなこと……」
「そりゃあ面白くなかったからでしょうよ。かつて自分のモノになりそうだった女の子が、よその男にキスされそうになってんだから」
「……そういうもん?」
「そーゆーモン。男ってのは。今カノがいても、元カノに彼氏が出来ると嫉妬すんのよ。身勝手よねー、ったく。なら別れなきゃいいのに」
「……」
「まあでもさ」
綾音は紅茶を飲んで、ソーサーの上にコトリと置く。
「今思い出しても腹は立つけど、リョウさんとしては仕方なかった状況だったわけじゃない? 瑠夏に別れを告げて東京に旅立ったこと。リョウさんは覚悟してんのよ。その時に。瑠夏と一生恋人同士にならないことを」
「……」
それは、分かってる。
もしその気があったなら、リョウちゃんはあんな選択をしなかったはずだから。
「だから今回は、あくまで他人目線から注意するに留めたんだと思うの。でも、黙ってはいられなかったってこと。結果、まだ瑠夏に気があると彼氏くんに思われちゃったのね〜」
綾音は頬杖をつきながら言う。
「本当に勝手だ……」
ポツリと本音が出る。
自分からさよならと言って離れたクセに。
リョウちゃんのバカ。
紛らわしいことしないでよ。
考えれば考えるほど、腹が立ってくる。
「それにしてもさー、運命のいたずらってゆうか、偶然にしては出来すぎてない? って思うよねぇ。この巡り合わせ。この広い東京で、偶然出会ったり、同じアパートに住んでたり」
そうなんだよね。
離れたいのに、もう会っちゃいけないのに、神様は私たちを出会わせようとするように、偶然が重なる。
きっぱりとリョウちゃんのことを忘れられれば、神様は私を解放してくれるんだろうか。
「そういえばさ、リョウさんのお店ってこの近くだったよね?」
「え? うん」
「前からちょっと気になってたんだよねぇ。あの不良だったリョウさんが開いたお店がどんなのか。確かLuminous(ルミナス)……だったよね。意味は『光り輝く』、かな? “ブライツ”と重なるね」
言われてハッとした。
ほんとだ。
「サヤカさんが作ったブライツと、重ね合わせてるのかな?」
――――サヤカさん。
……そっか。
リョウちゃんはサヤカさんのことを、今でも大切に想っているんだ。
そんな気がして、ちょっとだけ胸が痛んだ。
「ね、今から偵察に行ってみない?」
「は……?」
綾音がまたとんでもないことを言い出す。
「お店を見るだけ! ね? それならリョウさんと会うこともないし!」
なんだか聞いたことのあるセリフ。
高校生の時、綾音とリョウちゃんの家の団地の植え込みに隠れていたのを、リョウちゃんに目撃されて慌てて逃げた苦い思い出が蘇る。
「やだ! 絶対に駄目! リョウちゃんは鋭いから絶対に気付くよ」
「だあいじょうぶだって! 調べたらかなり人気店になってるよ! オープンしたばっかなのに! ほらっ」
綾音はスマホを素早く操作して、食べ◯グの評価ページを私に見せてくる。
……確かに、まだオープンしたてのわりに、かなりの数の口コミが。
評価も高めだ。
「だから私たちが近付いたところで気付くわけないって! これ、やーっぱり口コミほとんど女の人だ。絶対リョウさん目当てで店行ってるじゃん(笑)」
「え? そうなの?」
「普通に考えてそうでしょ。あの国宝級イケメンを東京の女が放っとくわけないって」
なるほど。
だからこんなに口コミが。
てことは、リョウちゃんどんだけモテるの!?
無意識にフルフルと体が震えてくる。
「善は急げ! さ、行くわよ!」
「え!? ちょっと。行かないよ!」
意気揚々とカフェのレジに向かう綾音を何とか止める。
「なんで?」
「なんでって……もし万が一見つかったら大変だし、今は私、神白くんがいるからそんな軽率な行動取れないよ!」
綾音は私の言葉を聞いて僅かに目を見開く。
「……ふーん、彼が大切なんだ」
「当たり前でしょ!?」
「リョウさんよりも?」
「……そうだよ」
綾音が何かを探るように、じーっと私の顔を見て来るので、少しドキッとする。
「……分かった分かった。じゃあ私一人の時に偵察行ってくるわ」
ポンポンと私の肩を叩きながら、綾音は仕方ないなぁという顔をする。
(偵察は行くんだ)
そしてそのままレジでお会計をして、私たちは大人しくそれぞれの家へ帰った。
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