第25話
「久しぶり。ゆっくりしてって。デザートサービスするから」
固まった私の様子を気にしていないようにそう言ってから、にっこり笑ったリョウちゃんは、チラリと神白くんを見た後、淡々と一通りお店の紹介をして、またにっこり笑ってそのまま奥へ下がっていった。
何?
何が起こったの?
放心状態を抜け出せない私の頭の中は忙しい。
「店長さんと、知り合い?」
神白くんの一言で、ようやく呪縛が解かれたように口を開けるようになる。
「あ……う、うん。ちょっと」
「かっこいい店長さんだなぁ。俺とどっちがイケメンかなぁ? なーんて……ハハ」
「……」
何も言えずに俯く私に気を遣ったのか、神白くんは何も言わなくなった。
気まずい空気が流れる。
駄目。
神白くんが気を悪くしちゃう。
リョウちゃんのことは気にしないようにしないと、と必死に自分に言い聞かせる。
それでも、バクバクと高鳴る心臓は止められない。
あの姿を見ただけで、数年前の記憶が急速に蘇ってしまう。
「さ、冷めないうちに、食べよっか」
この空気を変えようとするように、神白くんが明るく言う。
だから私もそれに乗っかって「うん」と無理矢理笑顔を作って、リゾットを食べ始めた。
スプーンを持つ手が震えてしまっているけど。
食べている間、私たちはどちらも無言で、神白くんは私の様子がおかしいと気付いて、気を遣ってくれているんだろうなと思った。
(すごく申し訳ない。……まさかリョウちゃん本人に会うとは夢にも思わなかったんだけど……。今日は神白くんに失礼なことばっかりしてる)
映画館でのことがあった直後に、またやらかしてしまったことを反省する。
料理を食べ終わる絶妙なタイミングで、さっきの店員がデザートを持って来た。
「店長からのサービスです。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
神白くんが店員にお礼を言う。
金髪の店員は、何故か私のことをチラチラ見ては、にっこり笑いかけてくる。
(……何だろう)
不思議に思いながらも、店員がくるりと踵を返して行ってしまったので、デザートの方に目をやる。さっきよりは少し気分が落ち着いてきた。
一口サイズのチーズケーキとチョコケーキに、ミントの乗った紫色のベリー系シャーベットが一つのガラスプレートに可愛く乗っている。
(これ……リョウちゃんが……?)
“店長”と言っていた。
リョウちゃんが、店長。
どういう経緯でそうなったのか分からないけれど、元気そうだったのでそれは良かったと思う。
連絡が取れなくなって、すごく心配していたから。
デザートまで美味しくいただいて、満腹になった私たちは早々と席を立った。
「一緒で」
神白くんが先にレジへ行って、私の分も払おうとするので、慌てて止める。
「自分の分はちゃんと払うから」
「ううん、奢らせて。デートなんだから」
私たちのやり取りを、さっきの店員がにこにこしながら見ている。
結局、神白くんに押し切られてしまって、奢られることになってしまった。
ここでもまた、高校生の時、リョウちゃんと行ったファミレスで奢ってもらったことを思い出してしまって、慌てて忘れようとする。
(もう。今日はリョウちゃんのことばっかり考えてる。だから本人に会っちゃったのかな)
レジを後にして、扉を出る間際に店の奥に目をやったけど、リョウちゃんの姿はない。
「ありがとうございましたー」
金髪の店員の元気な声が耳に残ったまま、私たちは店を後にした。
「やー、良いお店だったね!」
「う、うん。料理も美味しかったね……」
「……」
「……」
少し間が空いて、私が何か話さないとと思っていると、神白くんが急に立ち止まる。
「ほ、本郷さん!」
「え!?」
そして振り向きざまに呼ばれる。
「ごめん! どうしても気になって。……あの店長さんと、何かあったのかな!?」
神白くんの真剣な顔を見て、これは言ってもいいのかどうなのか、どちらが誠実な対応なのだろうと迷ってしまう。
でも、やっぱり隠してるのは何だかいけないような気がして、リョウちゃんとのことを大まかに話してしまった。
「そ、そっか……そうなんだね」
話し終わった後、少し元気をなくしたようになった神白くんを見て、私は慌てて言う。
「で、でも、もう振られてるから。偶然会っちゃったけど、別に何も変わらないよ」
「そうなの?」
神白くんが顔を上げる。
その目は少し元気を取り戻したように見える。
「う、うん」
リョウちゃんに出会っても、もう関係ない。あの時に、私たちの関係は終わった。
リョウちゃんは、ハッキリと私に『さよなら』と言ったのだから――――。
私は改めて自分に言い聞かせるように、気持ちを整理する。
「じゃあ、本郷さん」
神白くんが、少し躊躇ってから、こちらを見る。
目が合って、ドキリとした。
神白くんの目があまりにも真剣だったから――――。
「俺と付き合ってくれないかな?」
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