第11話
(――――リョウちゃん!!)
ボロボロに破壊されたドアから中に入ってきたのは、紛れもなくリョウちゃんだった。
「……ルカを返せ」
リョウちゃんは怒り心頭というわけでもなく、でも静かに怖い表情でサヤカさんに向かって言う。
「一人で……なわけないか。よく分かったね。目敏く監視してたのか。ちょうどいい。あたしらもお前らに用があったんだよ」
いつの間にか、さっきまで座っていた不良たちが全員立ち上がって臨戦態勢に入っている。
それと共に、リョウちゃんの後ろからゾロゾロと数人の男たちが、蹴破られたドアから中に入ってくる。
リョウちゃんも小さくない方だと思うけど、さらに体格が良くて背も高い人が数人いる。いかにも武闘派という感じ。
「ケンカしに来たんじゃない。ルカを返せって言ってんだ」
「の割には後ろがいきり立ってんじゃねーか」
「応じないなら力づくで奪い返す」
「はっ。お前ららしいな。仲間から奪い取るのがどうも好きらしい」
そう言いながら、サヤカさんは背後から私を腕で雁字搦めにする。
気付くと、首元に小さなナイフを当てられていた。
「珍しくやる気んなって、そんなにこの子が大事? ただの幼馴染だろ? お前が困ってる時に何一つ力になってくれなかった、役立たずの」
――『お前が困っていた時に、助けたのは自分』
サヤカさんの台詞からは、そう言っているように聞こえた。
「関係ない一般人を巻き込むのはルール違反だからな」
挑発するサヤカさんに対して、リョウちゃんの受け答えはとても冷静だ。声に揺らぎが全くない。
――――『関係ない一般人』
リョウちゃんのその言葉に、ズキリとする。
サヤカさんの『困ってる時に何一つ力になってくれなかった』という言葉にも、胸が痛む。
リョウちゃんのお母さんが出て行ってしまったこと、私は全然知らなかったから――――。
「テメェらのルールを押し付けんじゃねーよ! あたしらのカモは恵まれたヤツらなんだよ! テメェらが他のチームのヤツらをカモにしやがったせいで、あたしらが迷惑被ってんだよ!!」
サヤカさんは、リョウちゃんとは対照的に、感情を隠さず剥き出しにして喚く。
サヤカさんとリョウちゃんのやり取りを聞いて、二人の考えの違いに何となく気付く。
リョウちゃんは、サヤカさんとは違う考えを持っていて、だからグループは分裂したんだと察する。
そして、今その考えがぶつかって、分裂したグループ同士が喧嘩している。
もしかして、二人が別れたのもそれが原因なのかもしれない。
って、首にナイフ押し付けられた状態で何冷静に分析してんの、私――――。
首に当てられたナイフの刃が冷たくて、僅かにでも動いたら、これが私の肌を突き破ってしまうと想像すると、体が固まる。
「まあまあサヤカさん。言っても分かんない野郎はぶっ飛ばすしかないんじゃないスか?」
“藤田”が一歩前へ出て、拳をポキポキと鳴らす。
すると、直ぐ様スキンヘッドの“石島”が止めに入る。
「やめとけ、藤田。この人数じゃ分が
どうやら“藤田”を止めるのはこの人の役割らしい、というのが何となく分かってくる。
「まーた、石島さんはいっっつも保守的なんだからー。体格の持ち腐れっスよ?」
「あんたも今は引いとけ。確かにその女は関係ねぇ。放してやりな」
石島という人は、“藤田”を無視してサヤカさんの方を振り返って言う。
「石島さんは女の子に甘いんだから〜も〜! タダで放すなんて勿体ない。オッサン相手なら容赦ないクセに」
藤田が先頭でブツブツ文句を言う。
「サヤカさんやっちゃいましょうよ〜! コイツら絶対舐めてるでしょ」
“藤田”が声を発したところで、それに被せるようにサヤカさんが叫ぶ。
「うるせぇ!」
急に耳元で発された大声に、鼓膜がビリつく。
「うるせぇうるせぇうるせえ、うるせえんだよ!!!!」
気が触れてしまったのかというほどにヒステリックに、サヤカさんは続けて叫ぶ。
相当苛立っているのだろう、もう何をしでかしてもおかしくない精神状態に見える。この状況で、私にとってそれはかなりまずいと思う。
「サヤカさん? あら、ヒスっちゃった?」
“藤田”が若干引き気味に言う。
私の体を押さえるサヤカさんの腕が震えている。
「コイツみたいなノーテンキなヤツらのせいで、あたしらがどんだけ惨めな思いをしたか忘れたのかよ!! 恵まれたヤツから奪って何が悪い!? それこそ正義だろ!! 甘えんだよお前らみんな!! 腐った社会に一喝するのがあたしらの役目だろ!! 違うのかよ!!!!」
はぁはぁと荒く息を吐いて、サヤカさんは興奮気味に私の首元のナイフを持つ手も震わせる。
リョウちゃんは、そんなサヤカさんを真顔で見つめている。
「お前の考えは理解は出来る。でもルカは関係ない。ルカがお前に何をした? お前らがカモにしてる人間がお前らに何をしたんだ? お前らが恨んでるのは誰だ? 関係ない人間に復讐っていう
極めて冷静に、声を荒げることなくリョウちゃんはよく通る声で淡々と言う。
私といる時のリョウちゃんとは口調が違う。
いつもはもっと穏やかでユルい話し方なのに、それが私の中のリョウちゃんなのに、なんだか別の人を見ているようで、不思議な気分。
これが、不良グループにいる時のリョウちゃんなんだ――――。
その時。
サヤカさんの震える手で持つナイフの刃先が、僅かに私の首の皮を切り裂く。
「っいた」
思わず声が出て、私たちの方を見るリョウちゃんの目の色が少し変わった気がした。
「今すぐルカを離さないと全滅させる。脅しじゃない。全員病院送りにされたくないなら、どけ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます