試験の話

卯野ましろ

1.学生時代に受けた試験

 中学三年生になり、私は焦った。高校受験のことである。色々あって(まあ今思えば私が自分に甘く、我慢が足りなかったことも悪かったのだが)早退や欠席が多くなってしまった私。高校受験は当日の試験の点数だけではなく、内申書も大事だ。こんなに早退や欠席が多くては落ちてしまう。どうしよう、いくら安全圏でも危険だ。そんなとき、担任の先生がクラスで発した助言が、私を刺激した。


「資格を取っておくと、受験の役に立つよ。評価が上がります」


 その話を聞いた直後、私は「それだ!」と思った。ちなみに、その先生は私が中学校を卒業してから数年後、学年主任となったらしい。

 私は早速、英検3級と漢検三級の取得を目指した。英語と国語は(そこまで)苦手ではなかったので、どちらも同時に取ろうと決めた。

 しかし私は、検定二つの勉強だけではなく高校受験の勉強も、きちんとやらなくてはならない。やる気はあったが、決して要領は良くないのが私だ。勉強の仕方に手こずってしまっていた。なぜ私は、もっと上手くやれないんだ……と自分を情けなく感じてしまうことが多かった。けれど、私は諦めなかった。というか諦めたら検定料が無駄になるので、周囲が諦めることを許さないだろう。とにかく資格取得で少しでも欠席や早退の多さを何かでカバーしたかった私は、不器用ながらも勉強に励んだ。

 また、私は勉強だけではなく、他のことも頑張っていた。内申書には何かの受賞歴等も書けるので、表彰されるようなこともしようと決意した。しかし難しいことはせず、自分の趣味や特技を生かせることを進んでやるようにした。

 私は「何らかの賞には引っ掛かってくれっ!」と、夏休みの宿題でもあった作文を三作書き上げて、それぞれコンクールへ応募した。それに加えて、一年間で三十冊の本を読むと読書推進事業に表彰されることを聞いてからは、より読書をするようになった。

 夏休みの作文については、国語担当で学年主任でもあった先生に「ましろちゃん、作文三つも書いたの? すごいね!」と誉められた。国語のノートに「作文を三つも書いたあなたなら大丈夫。絶対にできる。」とコメントまで書かれた。その先生のコメントは、勉強で疲れていた私にとって最高の心の支えであった。こうして今でもはっきりと覚えている。

 その結果、私は読書感想文で賞をいただき、三十冊の本を読み上げて表彰された。二学期の終業式に大勢の生徒や先生の前で表彰された後、私はホッとした。これで私の内申書もマシになるだろう、と少し心が軽くなった。

 検定試験だが、漢検三級はギリギリで合格した。それでも受かってしまえば、もう安心である。問題は英検だ。英検は、一次試験は無事受かった。だが、まだ二次試験が待ち構えている。一次試験は筆記、二次試験は英語での質疑応答。緊張する受検者も少なくはないと思われる。

 そして、ついに英検3級の二次試験日。試験会場は自分が通っていない、別の中学校であった。この慣れない場所と空気が緊張を一層高めたことを、私は忘れていない。知らない場所ではあったが、同じ中学校に通う子もいて、少々緊張がほぐれた。「あ、ましろ!」と声を掛けてくれた友人もいた。

 受検者待機室に入ると、ほとんどの者が英検の参考書を読んでいた。緊張が戻ってきた。その中には知らない人もいて、怖くなった。友人の待機室は別の教室だったので、私は心細かった。

 私も他の受検者と同じく、参考書を開き、自分の番を待っていた。参考書を開いたものの、私は全然集中できなかった。


 ああ、できることなら終了後の時間にワープしてしまいたい……。というか、この後に塾の模擬試験があるとかマジしんどい……。しかも夜遅くに……。それなのに明日は学校だ……。日曜日が全然日曜日じゃない……。


 そう暗く悶々としているうちに、私は呼ばれた。「○番から△番の受検者の皆さん、どうぞ~」というような呼ばれ方だったので、私は他の受検者たちと共に移動した。そして、そのとき私は……。


 あれ? 

 そういえば、どうして……。

 まあいっか。そういうルールなんだよね。


 とある疑問が生じたが、別に気にしなかった。とにかく無事に終わってくれ。そう思いながら前へ進んだ。

 一同、目的地に到着。案内係と最初の受検者以外の者たちは、その教室の前に準備されていた椅子に座った。一緒にいるメンバーの中で、私の順番は後ろの方だった。

 いよいよ二次試験が始まった。そして私は、やっと気づいたのであった。


 コンコンコン。

 May I come in?


 ドアをノックしながら英語を話す受検者を見て、私は顔面蒼白になった。


 ……えっ?

 嘘でしょ?


 そう。実は私は、英検の二次試験が英会話による面接だということを、このときまで知らなかったのである。順番を決め、待っていた場所とは別の部屋で試験を受けることについて、先ほどまで疑問を持っていた私。これでやっと分かった。


 ええー……。

 どうしよう。

 もう無理じゃん。

 練習なんて全っ然していない……。


 二次試験も、一次試験と似たような筆記だろう。今までのように勉強しておけば問題ない! そう思っていた私だったが、実際には問題大有りであった。

 ふと私は思い出した。同じクラスの男子が、英検を受けない私の友人に「英検、これで受かるかな~」と言いながら英会話の練習をしていたことを。そのとき私は「まあ~英会話の練習までするとは……熱心だねぇ」と実に呑気そうにその様子を眺めていた。

 私は本当にアホマヌケだった。しかし後悔しても仕方がない。ここまで来てしまったのだから、もう逃げられない。

 そして、とうとう私の番となった。まず、今までの受検者たちと同じようにドアをノックし、「……めーあいかむいん?」とガチガチで英語を話した。

 その後、部屋から声が聞こえ、私は入室した。そこで待っていたのは、厳しそうな男性であった。彼を見て、私は思った。


 ああ、もう終わった……。

 英検も、高校受験も……。


 地獄のような時間は嵐のように去っていった。しかし私の心の中は、しばらく嵐が続いていた。そして退室するまで怖い顔だった彼の顔は、長い間私のトラウマとなった。


 二次試験終了後、私は友人たちと再会し、話をした。「緊張したね」「もう絶対に落ちるってぇ~」「結果が怖いなー」とそれぞれの言葉に次々に「うんうん」と頷き合う中、私は言った。「二次試験が、こんなんだとは思わなかった……」と。当たり前だが、誰一人そのコメントを聞いて、首を縦に振らなかった。

 英検が終わり、私は暗い気持ちで結果を待った。何てことをしたのだろう。せっかく、一次試験を通過したというのにダメではないか。ああ失敗した。絶対不合格だろう……。

 そして、とうとう英検の結果通知が私の元に届いた。恐る恐る手元の紙を見ると、そこには「合格」と書かれていた。しかも私の成績は合格点と、一点差であった。恐らく私の運は、この件で相当使われていることだろう。奇跡の結果であった。

 合格後、時効となったその失敗を私は胸を張って、まるで武勇伝の如く周囲の仲間に語り始めた。みんなは結構驚いていたが、「でも良かったね、おめでとう」と言ってくれた。

 「二兎を追う者は一兎をも得ず」という言葉はあるが、見事に二つの資格取得に成功した私。その調子で高校受験も合格した。

 私は高校入学後も、英検での失敗談を新しい友人たちに楽しく語った。その話を聞いて私に「バカだろ」と言った友人もいる。それについて、私は「うん、バカでしょ」と素直に答えた。その友人は数学のテストで0点を取り、半泣きで先生にお願いして3点おまけしてもらった。私となかなか良い勝負の偉業を成し遂げている。

 そして高校生になり、私は英検準2級を受検した。結果は合格。あの失敗について深く反省したからか、ギリギリ合格ではなかった。また、中学時代の欠席や早退についても反省した私は、高校時代に皆勤賞をいただいたのである。

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