元限界OL。異世界で美少女になったらなぜか姫騎士に溺愛される

イチゴオレ

限界OL、異世界で姫騎士に出会う

ブラック企業で働き詰めだった桜井さくら(23歳)


早朝から満員電車に揺られ、残業の山に埋もれて机にかじりつき、気づけば終電間近──。上司から浴びせられる小言に耐え、夢も希望も尽き果てた心で、今日も帰宅した。


「あーあ、もう全部投げ出して、どこか違う世界にでも行きたいなぁ……」


薄暗い部屋でそんな弱音を呟いたのが、彼女の人生最後の記憶になるなんて、あのときのさくらには分かるはずもなかった。


次に目を覚ましたとき、目の前には眩しい光が広がっていた。


「え、何これ……天国? それとも夢?」


見知らぬ光景に困惑するさくらの前に、ふわふわと浮かぶ緑の髪の女神らしき存在が現れる。


「お疲れ様、桜井さくらさん! 突然だけど、異世界で第二の人生をプレゼントするわ!」


「……は?」


現実感のない状況に頭がついていかないさくらをよそに、女神はニコニコと笑みを浮かべながら話し続ける。


「ちょっとした手違いで寿命が短くなっちゃったの。そのお詫びに、異世界での新しい人生を用意しておいたから、安心してね!」


「いやいやいやいや、待って! 手違いで寿命が短くなるって、どういうこと!? それミスってレベルじゃないでしょ!」


思わず突っ込むさくらに、女神は申し訳なさそうに頭を下げた。


「うーん、そこは許して。代わりに、新しい名前と体も用意しておいたから! 

さあ、今日からあなたは──セレナよ!素敵な名前でしょ?」


「セレナ……って、急に名前変わってる!? いや、私の許可取ってないよね!?」


「大丈夫大丈夫、異世界での名前は雰囲気が大事なの! さあ、新しい人生を楽しんで!」


女神が軽く指を鳴らした瞬間、セレナの言葉は白い光にかき消された。


次に目を覚ますと、そこは見渡す限りの深い森だった。木々の香りや吹き抜ける風が肌に触れ、間違いなく「日本じゃない」と分かる。


「……これ、本当に異世界?」


自分の手を見下ろすと、スラリと細い指。髪を触れば、さらさらとした長い銀髪が流れる。


「これ……私? え、ちょっと待って、この美少女、私なの!?」


近くの湖に映った自分の姿を見て思わず悲鳴を上げる。長い睫毛に、大きな瞳。どう見ても絶世の美少女だが、明らかに若すぎる。


「なんでこんな無駄にスペック高い体に……!? それに……十代前半くらいに若返ってるし!」


自分の顔を指でつつきながら、セレナはさらに困惑する。


「これ絶対13歳とか14歳くらいだよね!? いやいや、私は23歳OLなんだけど!」


自分の変化に戸惑うセレナだったが、背後の草むらがガサガサと音を立てた。


「何の音……?」


振り返ると、赤い目の巨大な狼のような生物が唸り声を上げながらこちらに迫っていた。


「いやいやいや、何これ!? こんなの聞いてないんですけど女神様!?またあなたとお会いする事になりそうなんですけど!?」


叫びながら後ずさるセレナ。狼がよだれを垂らし、牙を剥き出しにして飛びかかろうとしたその瞬間──。


「そこまでだ!」


鋭い声と共に、銀色の閃光が狼を一刀両断した。


セレナの前に現れたのは、金髪と甲冑を纏った女性──美しい顔立ちに凛とした瞳を持つ、まさに「姫騎士」のような人だった。


「大丈夫か?」


彼女は剣を収め、優しい声でセレナに問いかける。


「あ、ありがとうございます……」


思わずお礼を言うセレナに、姫騎士は堂々と名乗りを上げた。


「私はフィリア・グラディエンス。王国に仕える姫騎士だ」


彼女の声にはどこか優しさがあり、セレナは目を奪われてしまう。だが、すぐに我に返って問いかけた。


「えっと、その、どうして私を助けてくれたんですか?」


すると、フィリアはふっと微笑み、真剣な眼差しでこう言い切った。


「君を守ることが、私の使命だからだ」


「え……? えっと、初対面なんですけど!?」


セレナが困惑している間も、フィリアは手を差し伸べて続ける。


「何も心配しなくていい。君のような美しい人を、この私が見捨てるわけがないだろう?」


(いや知りませんけど!? で、でも助けてくれたのは事実か……)


驚きながらその手を取ると、フィリアはさらに真剣な表情で言った。


「これから、君の安全は全て私が責任を持つ。よし、一緒に行こう」


(え、なんかすごい勢いで話が進んでるんですけど!?)


セレナは戸惑いながらも、姫騎士フィリアの手に引かれていくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る