『ふしぎ魔法のどうぶつカフェ』~まほうのドリンクをどうぞ~
ソコニ
第1話「最後の営業日」
もう六年も経つんだ。そう思いながら、私は最後の客を見送った。
「お疲れ様でした、碧野さん」
アルバイトの小鳥遊さんが、少し寂しそうな声で言う。彼女はここで3年、私と一緒に働いてくれた。保護猫や保護犬たちの世話を手伝ってくれて、本当に助かった。
「小鳥遊さんこそ、ありがとう。長い間お疲れ様」
Cat&Dog HAPPYの店内には、まだ温かな日差しが差し込んでいる。夕暮れ時のこの光が、私は一番好きだった。窓際のソファでは、茶トラの子猫のチャイが丸くなって眠っている。来週には新しい家族の元へ行くんだ。
「みんな、いい家族が見つかってよかったね」
小鳥遊さんが、ケージの中で寝ている猫たちを見ながら言った。確かに。この閉店までに、ほとんどの子たちの新しい居場所が決まった。最後の一匹も、明日には迎えが来る。
「碧野さんて、本当に動物の気持ちが分かるんですね。どの子も、すごく幸せそう」
「そんなことないよ」
照れ隠しに掃除を続けながら、私は苦笑いを浮かべた。ただ、一緒に過ごす時間を大切にしてきただけ。動物たちの気持ちに寄り添おうと、心がけてきただけ。
「でも、このカフェがなくなるの、寂しいです」
小鳥遊さんの言葉に、私も胸が締め付けられる。オーナーの体調不良による閉店。突然の出来事だった。でも、六年間、本当に充実していた。保護した動物たちが、新しい家族と出会える場所になれた。それだけでも、この仕事をしていて良かったと思う。
「碧野さんは、これからどうするんですか?」
その問いには、答えられなかった。二十八歳、独身、そして明日からは無職。実家に戻るつもりもない。正直、まだ何も決められていない。
「きっと、また素敵な出会いがありますよ」
小鳥遊さんは、そう言って優しく微笑んだ。
最後の片付けを終え、スタッフルームで制服を脱ぎ始めた時だった。チャイの鳴き声が聞こえた。いつもより少し切なげな声。見に行こうとドアに手をかけた瞬間、視界が真っ白に染まった。
まるで、柔らかな光に包まれるような――。
それが、私の人生の転機となった日の最後の記憶。
この時は知る由もなかった。この後、私がどんな不思議な冒険に巻き込まれるのか。そして、新しい形で動物たちと出会うことになるなんて。
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