異世界メシレビュアーズ〜S級腹ペコクラン、記憶喪失の転移少女を拾う。せっかく異世界に来たんなら、異種族グルメ食べてけ!最強メンバーと少女は世界中を巡り、美食に出会い、その「美味しい!」をレビューする〜
☆ほしい
第1話 魔炎獣の極厚ステーキ
「よぉサクラ、腹減ってるか?」
陽気な声で呼びかけたのは、俺、グラード・バスターだ。S級冒険者クラン「デリシャス」のリーダーとして、今日も美味いものを求める旅を続けている。もっとも、今日は仲間と別行動中で、目の前の少女、サクラと二人きりだ。
「うん! 朝から動きっぱなしだから、お腹がペコペコだよ!」
サクラは天真爛漫な笑顔を浮かべながら、ポンポンとお腹を叩いてみせた。小柄な体格に似合わず、なかなかの食いしん坊だ。記憶喪失のサクラを保護してから、俺たちは彼女の「味を知らない」という驚きの事実に向き合い、世界中の美味しい料理を食べさせる旅をしている。今日もその一環ってわけだ。
今、俺たちがいるのは「ファイアリッジ」と呼ばれる灼熱の大地。地面は赤黒く焼け焦げ、ところどころで熱気が立ち上る。この危険地帯には、とあるモンスターが生息している。それが俺たちのお目当ての獲物、「魔炎獣」だ。
「グラード、魔炎獣ってどんなモンスターなの?」
サクラが首をかしげながら尋ねてくる。彼女の大きな瞳が好奇心でキラキラ輝いているのを見ると、なんだかほっとする。
「魔炎獣ってのは、火属性のモンスターで、全身が赤黒い炎に包まれてる。近寄るだけで熱くて、まともに戦おうとすりゃ骨が折れる強敵だ。でもな、そいつの肉がとにかく美味いって評判なんだよ。まるで灼熱の溶岩を食ってるみたいだってな!」
「えっ、溶岩を食べるの? ……熱そう!」
サクラは目を丸くして驚いている。俺は思わず笑いながら、彼女の頭を軽く撫でた。
「いやいや、比喩だよ。実際は噛めば噛むほど肉汁がジュワッと溢れて、特製の辛口ソースが絶妙に絡む最高の一品だってさ。冒険者仲間が口を揃えて絶賛してたんだ。今日はお前にも味わわせてやるよ。」
「へぇー、楽しみ! でも、どうやってその魔炎獣を見つけるの?」
「それがな、魔炎獣は縄張り意識が強くて、特定の場所にしか出ねぇんだ。この辺だと、溶岩の泉って呼ばれる場所があってな、そこで待ち伏せすれば……」
俺が説明を終える前に、遠くで地響きのような音がした。砂塵が舞い、空気がピリピリと熱を帯びる。
「おいおい、噂をすればだな……来たぜ、サクラ!」
俺は腰の剣に手を添えながら、彼女を背中に庇うように立ち上がった。
見渡す限りの荒野の中に、黒々と燃え上がる影が現れた。体長は馬車ほどもある巨体で、赤黒い毛並みが炎のように揺れている。目は燃えるようなオレンジ色で、見るだけで圧倒されるほどの迫力だ。
「わぁ……これが魔炎獣……!」
サクラが思わず息を呑むのが分かった。そりゃそうだ、こんなモンスター、普通の人間なら恐怖で逃げ出すレベルだ。それでも、俺はニヤリと笑いながら剣を抜いた。
「よし、見てろよ。これからこいつを仕留めて、お前に極上のステーキを食わせてやるからな!」
魔炎獣がこちらを睨みつけ、地を蹴る音が響いた。まるで燃え盛る嵐のように猛スピードで突っ込んでくる。それに合わせて、俺も地面を蹴り、剣を振りかざした。
「くらえッ!」
剣先が魔炎獣の炎を切り裂き、まばゆい火花が散る。魔炎獣の猛攻は苛烈だったが、俺は怯まない。鋭い爪をかわしながら反撃を加え、弱点を狙っていく。
「グラード、頑張れ!」
サクラの応援が背中を押してくれる。炎に焼かれそうになるたびに気合を入れ直し、ついに魔炎獣の喉元に渾身の一撃を叩き込んだ。
「やった……!」
魔炎獣が地面に崩れ落ちると、辺りは一瞬静寂に包まれる。俺は剣を納め、額の汗を拭いながらサクラに手を振った。
「ほら見ろ、約束通りだ!」
「すごい! グラード、めちゃくちゃかっこよかった!」
サクラが駆け寄り、無邪気な笑顔で手を振る。俺は照れ臭そうに肩をすくめた。
「さぁ、この魔炎獣の肉を切り出して、早速料理といこうぜ。」
魔炎獣の肉は適度に熟成させることで、その旨味が引き出される。幸い近くの村に腕のいい料理人がいると聞いていたから、そこに運べば間違いないだろう。
「サクラ、楽しみにしてろよ。今日のステーキは、お前の『新しい美味しい』になるかもしれないぞ。」
「うん! 早く食べたい!」
サクラの笑顔が、疲れた身体に活力をくれる。俺たちは魔炎獣の肉をしっかりと確保し、溶岩のように赤く染まる夕暮れの中、村へと歩き出した。
次なる冒険の目的は、「魔炎獣の極厚ステーキ」を味わうこと。きっと、サクラの「美味しい」の記憶に残る特別な一品になるはずだ。
***
「おおい、仕上がったぞ。魔炎獣の極厚ステーキだ!」
俺たちは「ファイアリッジ」の近くにある小さな村、カラストーン村に辿り着き、そこで腕利きの料理人オルドン爺さんに魔炎獣の肉を託した。村一番の鍛冶屋を兼ねる彼は、料理の腕も一流だと評判だった。頼りがいのある手際で仕上げられたステーキは、噂に違わず見事な出来栄えだ。
「すっごく大きい……!」
サクラは目を輝かせながら、料理を食い入るように見つめている。目の前に置かれたのは、分厚くカットされた魔炎獣の肉。焼き色は香ばしい黄金色で、表面からはジュワジュワと肉汁が滴り落ちている。その上にかけられた赤黒い辛口ソースが、肉の熱で湯気を立てながら、スパイシーな香りを周囲に漂わせていた。
「さあ、遠慮せずに食え。こいつは熱々で食うのが一番だ。」
俺はナイフとフォークを手に取り、サクラに食べやすい一切れを切り分けた。焼き加減は絶妙なミディアムレア。肉の断面から覗くジューシーな赤身と、繊細な脂の層が美しいマーブル模様を描いている。
「サクラ、お前のための一皿だ。遠慮するなよ。」
「ありがとう!」
サクラはナイフとフォークを握り、緊張した様子で一口分を口に運んだ。肉を噛む音が響き、彼女の表情が変わっていくのが分かった。最初は驚き、次に不思議そうに首を傾げ、それから──ふわりと微笑む。
「これ……すごい。」
サクラはぽつりと呟いた。
「どんな感じだ? 熱すぎたか?」
俺は少し心配になって尋ねる。
「ううん、違うの。すっごくジューシーで、噛むたびにお肉の味が広がるの。でも、ソースがピリッとしてて、どこかスパイシーで……食べてると心がポカポカしてくる感じ。」
「それだよ、それ! お前が感じたその感覚が、美味しいってことなんだ!」
俺の声にサクラは一瞬驚いたように目を丸くした。でもすぐに小さく笑い、もう一口を口に運ぶ。
「うん……美味しいかもしれない。」
──美味しい「かもしれない」。この言葉がどれだけ重いか、俺にはよく分かっていた。サクラは「美味しい」と感じることができないわけじゃない。ただ、その感覚を忘れてしまっている。彼女にとって、この魔炎獣のステーキが、新たな「美味しい」として心に刻まれる最初の一歩になるのだろう。
「噛むとジュワーってして……熱いけど、全然嫌じゃない。それどころか、もっと食べたいって思う。」
サクラは真剣な顔つきで肉を味わいながら、一生懸命言葉を探しているようだった。
「それが、ほんとの美味しさだよ。食べ物が美味いとき、人間は自然と『もっと食べたい』って思うもんだ。そいつを楽しむのが一番だぜ。」
俺も負けじと一口頬張る。焼きたての魔炎獣のステーキは期待以上の味だった。肉質はしっかりしていながらも柔らかく、噛むたびに溢れる肉汁は濃厚で芳醇だ。特製ソースの辛さが程よいアクセントとなり、肉の旨味をさらに引き立てている。熱い肉を頬張るたび、汗がじんわり滲むが、それすら心地いい。
「グラード、これすごく不思議! 最初は辛いと思ったけど、どんどん美味しくなっていく! お肉がソースと混ざるともっと……なんて言うんだろう、幸せな気持ちになる!」
サクラの顔がどんどん明るくなっていく。もしかしたら、彼女が本当に「美味しい」を取り戻し始めた瞬間かもしれない。
「ふふふ、そうか。お前がそう感じたなら、この魔炎獣も報われるってもんだ。」
俺は目の前にある残りのステーキを切り分けながら、サクラが一つ新しい「美味しい」を見つけたことに満足していた。
「グラード、これはどんな人でも美味しいと思うのかな?」
「いや、そうとも限らねぇ。例えば火属性に弱い種族だったら、こいつのスパイシーさはきついかもしれない。でも、それが分かるのも冒険者の特権だろ。食材が持つ可能性を探るのも、俺たちの仕事さ。」
「そうなんだ……。でも、私はこれ、すごく好き!美味しいよ!」
サクラが嬉しそうに笑うのを見て、俺もつられて笑ってしまった。彼女が「美味しい」と言ったこと、それが俺にとって最高の褒め言葉だった。
「よし、ならこれからもどんどん美味いもんを見つけていこうぜ。サクラ、お前の『美味しい』をもっと増やしてやるよ!」
「うん! グラードと一緒なら、きっと何でも美味しく感じられそう!」
魔炎獣の極厚ステーキは、サクラにとって忘れられない一皿となった。彼女が初めて口にした「美味しい」の記憶が、きっとこれからの冒険の道標になるだろう。
夕暮れ時、空がオレンジ色に染まる中で、俺たちはステーキを平らげながらこれからの旅に思いを馳せていた。
***
俺たち腹ペコクランの旅では、食べた料理をレビューするのがルールだ。今回も忘れちゃいけねぇ、魔炎獣の極厚ステーキを評価する時間だぜ。サクラにはもちろん初挑戦のレビューを頼んだ。
「よし、サクラ! まずは俺からいくぜ。そんでお前も真似してみな!」
「うん、わかった!」
◆グラードのレビュー
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10)
【味】
魔炎獣の肉はさすが噂通り。ジューシーな肉汁が一口ごとに溢れて、肉そのものの旨味がしっかり感じられる。それに加えて、特製の辛口ソースが絶妙だ! ソースのピリ辛さと肉の濃厚な風味が見事に調和して、食べる手が止まらなくなる。辛さが汗を誘うが、それがまた食欲を増進させる。
【食感】
分厚いけど柔らかい。魔炎獣の肉質はかなり筋が多いと聞いていたが、料理人オルドン爺さんの腕がそれをまったく感じさせない。歯ごたえがありながらもスッと噛み切れる絶妙な焼き加減だ。
【総評】
文句なしの美味さだ。ただ、スパイシーなソースの辛さが人によってはキツいかもな。火属性の強い冒険者や辛党にはたまらない一品だが、全種族が楽しめるかというと少し疑問が残る。そこを考慮して、満点は避けて9点だ。
「サクラ、お前も試してみろよ。思ったことをそのまま言えばいいんだ。」
「うん!」
◆サクラのレビュー
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆(8/10)
【味】
「最初はすごく辛いって思ったけど、噛むたびに甘みや旨味が広がって、すごく幸せな気持ちになった! ソースが辛いのに、何だか止まらなくなっちゃうのが不思議だったよ!」
【食感】
「お肉が分厚いけど全然固くなくて、ナイフで簡単に切れたのがびっくりした! 口の中でじゅわーって広がるジューシーさがすごくて、思わず笑っちゃった!」
【総評】
「とっても美味しかったけど、辛さがちょっとびっくりする感じだった。最初は戸惑っちゃったけど、慣れるとすごくクセになりそう! だから、私は8点かな!」
【総合レビュー】
最終評価:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(8.5/10)
魔炎獣の極厚ステーキは、ジューシーな旨味とスパイシーな刺激がクセになる絶品料理。ただし、辛さが際立つため、万人受けするかというと少し難しい。辛党や肉好きにはたまらない一皿だが、初めての挑戦者には少し注意が必要かもしれない。とはいえ、一度味わえば忘れられない「美味しい」が確実に刻まれるだろう。
「これからも美味しいもの、いっぱい食べたいな!」
サクラが笑顔でそう言った瞬間、このステーキは彼女の新たな一歩になったと確信した。さて、次はどんな料理が俺たちを待ち受けているのか、ますます楽しみだぜ!
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