蒼き風の軌跡 — 第1話: 風が運ぶ始まりの予感②

▢▢▢ 嵐の戦場 ▢▢▢


装甲兵そうこうへいたちの攻撃は激しさを増し、廃墟はいきょの広場は戦場と化していた。空気にはげた鉄の匂いと硝煙しょうえんの煙が漂う。かみなり閃光せんこうが夜空を裂き、そのたびに影と光が入り混じる。


隼人はやとくるう戦場の光景に息をんだ。その時、不意に強烈きょうれつな風が吹きれた。装甲兵たちの視線が一斉いっせい風上かざかみを向く。


瓦礫がれきの影から現れたのは、一人の男だった。長身ちょうしんするどい目つき、黒いマントが風になびいている。その手には、風と雷を宿やどした双剣そうけんかがやいていた。


あの男は信じがたいほどの力をるい、風と雷を駆使くしして敵を圧倒あっとうしている。


「まるで風そのものが…あの人を守っているみたいだ…」


呆然ぼうぜんと見つめる隼人の胸中きょうちゅうには、恐怖きょうふと同時になぞめいたあこがれが芽生めばえ始めていた。しかし、その瞬間しゅんかん——。


するどい音と共に、一発の弾丸だんがんが隼人の足元に着弾ちゃくだんし、コンクリートの破片はへんが飛びる。装甲兵の銃口じゅうこうが煙を上げている。


「くっ…!」


必死ひっしに身をせた隼人の視界が一瞬暗くなる。しかし、すぐに冷たい風がほおをかすめ、彼は再び顔を上げた。


その瞬間、静寂せいじゃくを破るようにひくく冷たい声が響いた。


「そこにいるのは分かっている。出てこい。」


それは装甲兵ではなく、瓦礫のかげから現れた戦士せんしの声だった。


戦士の低く静かな声が響き渡る。彼の鋭いひとみは隼人のかくれている場所を正確せいかくとらえていた。


隼人は緊張きんちょうで体を硬直こうちょくさせた。しかし、その場を動かないわけにはいかない。ふるえる足で立ち上がり、ゆっくりと姿をあらわした。


「お前は…何者なにものだ?」


冷たい視線が隼人を射抜いぬく。


「ここは危険きけんだ。早く逃げろ。」


戦士の声には命令口調めいれいくちょうがあったが、その中にかすかな優しさも感じられた。


しかし、逃げるべきかどうか迷う間もなく、装甲兵たちの増援ぞうえんが現れ、広場はさらなる混沌こんとんに包まれていく。


隼人の胸中には、確かな決意けついが芽生えつつあった。しかし、その思いを飲み込むかのように、激しい風が広場を吹き抜けた。


雷鳴らいめいが遠くでとどろき、夜空を切り裂いた閃光が最後の輝きを放つ。


戦士の背中が風に消えるように遠ざかり、隼人は立ちくしていた。


「俺は…何をすべきなんだ?」


手に握りしめたふるびたペンダントが、ほんのわずかにぬくかく感じられた。


──続く──


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