蒼き風の軌跡

三分堂 旅人(さんぶんどう たびと)

蒼き風の軌跡 — 第1話: 風が運ぶ始まりの予感①

▢▢▢ プロローグ ▢▢▢


2040年、風の時代が訪れてから20年が経過した。環境破壊と経済危機を乗り越えた世界は、一見安定を取り戻したかに見えた。しかし、その裏では新たな力が台頭し、テクノロジーを武器に新たな支配を目論む影が広がっていた。


都市は超高層ビルと貧困街ひんこんがいが混在し、社会の格差は深刻化している。例えば、最先端の設備を備えた高層マンションの住人がプライベートな空間で食事を楽しむ一方で、貧困街では子どもたちが一片のパンを巡って争う姿が見られる。街には高度な監視システムが張り巡らされ、人々の生活は管理された「安全」と引き換えに自由を失っていた。


一方、あがなう者たちも存在した。支配に抗う者たちは「風の子」と呼ばれ、隠れ家や地下組織で反乱の機会をうかがっていた。


▢▢▢ 広場の追憶 ▢▢▢


薄暗うすぐらい夕暮れ時、風間隼人かざまはやとは街外れの広場に立っていた。広場はかつて賑わっていたが、今は廃墟と化している。廃ビルの間を通り抜ける風が、彼の黒髪を優しく揺らした。その風には、まるで過去の記憶が囁きかけるような気配があった。隼人の目には、一瞬だけ幼い頃の家族の笑顔が浮かんだ。


「…父さんは、どこにいるんだろう。」


隼人は握りしめた古びたペンダントを見つめ、つぶやいた。それは父が姿を消す前日に渡してくれた、唯一の手がかりだった。


風の音に耳を澄ませると、かすかに人の声が聞こえたような気がした。隼人は気のせいだと思いつつも、声のする方へ足を運んだ。


▢▢▢ 出会いの予兆 ▢▢▢


遠くで微かに響く不気味な音が広場の静けさを破った。耳をすます隼人の背筋に冷たいものが走る。


「何だ…?」


振り返ると、薄暗い街並みの向こうで閃光が瞬いた。それはまるで風に揺れるほのおのようだった。


警戒しながら広場の端に身を潜めた隼人は、廃墟の奥から現れる黒い影を見つめた。黒い装甲をまとった謎の集団が建物の間を静かに進んでいた。


黒羽くろばね…」


隼人はその名前を知っていた。かつて父から聞いた、影のように暗躍あんやくする謎の組織。その存在は噂だけで語られるが、実際に目撃した者はほとんどいないと言われている。都市の裏社会を支配し、密輸や暗殺を生業なりわいとしながら、反抗する者たちを容赦なく排除する存在だった。


息を飲む隼人。何故こんな場所に…と疑念が湧く中、彼の目の前で装甲兵が廃ビルの壁を破壊し始めた。


「何かが始まる…」


隼人の心臓は高鳴り、後退する足が石につまずきそうになったその瞬間、鋭い閃光せんこうが再び視界を切り裂いた。


一瞬の静寂せいじゃく


彼は目を凝らし、その正体を見極めようとする。しかし、次の瞬間、轟音ごうおんが広場を震わせ、風が激しく渦巻うずまきき始めた。


"…何が起きているんだ?"


隼人の心には、恐れと期待が入り混じる。


続く…

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