第3話 視覚ブルーの覚醒

 薄明かりが差し込む森の中、選ばれし8人の一行は慎重に歩みを進めていた。その先に潜むのは、疲労波を操る敵の尖兵だという。癒しの賢者ライナスからの指示で動き始めたものの、まだチームとしてのまとまりに欠ける8人は、それぞれが自分の力をどう使うべきか手探りの状態だった。


 視覚を司る青年アオイは、一行の中心でじっと前方を睨んでいた。冷静でありながらも、一言も発しないその態度が、他のメンバーには少し威圧的に映る。「アオイさん、何か見えるの?」と、聴覚のミカがそっと声をかけた。


 「いや、まだだ。ただ、何かがいる気がする。皆、気を緩めるな」と短く答えるアオイ。その鋭い視線の奥には、自分がこの状況をどう導くべきかという葛藤が渦巻いていた。疲労波の被害を受ける人々を助けたい――その使命感は強いが、他の7人を導く役割に自信があるわけではない。



 静寂を破るように、森の奥から怪しい影が現れた。それは、黒い靄に包まれた怪物のような存在だった。ライナスが言っていた「疲労波を操る敵」の一体だ。低いうなり声を上げながら、影がゆっくりと一行に近づいてくる。


 「来たな……!」とアオイが前に出る。しかし、その瞬間、嗅覚を司るレッドのタケルが勢いよく飛び出した。「待っていられるか!こいつをぶっ倒す!」


 「待て!」アオイが制止する間もなく、タケルは敵に突っ込んでいった。だが、敵の攻撃は素早く、タケルは強烈な衝撃波を受けて弾き飛ばされる。


 「だから言っただろ……!」アオイは舌打ちをしながらもタケルに駆け寄る。「お前、周りを見て動けって何度言えばわかるんだ!」


 「うるさい……まだやれる!」とタケルは反発するが、アオイは冷静に周囲を見渡し始めた。 「……全員、後退しろ。この敵は視覚で攻撃を仕掛けてくる。幻影を利用して混乱させるタイプだ。」



 アオイの指示に従い、一行は慎重に動き始めた。触覚のサラが仲間の状態を確認し、平衡感覚のリナが敵の動きに合わせてフォーメーションを整える。だが、混乱の中でそれぞれの動きが噛み合わず、再び危機的状況に陥る。


 「おい、みんな!よく見ろ!敵の本体は右側の木陰に隠れている!」アオイの声が響き渡る。その言葉に反応して、聴覚のミカが耳を澄ます。「たしかに……その方向から微かに音が聞こえる!」


 「よし、サラとタケルは右側に回り込め!ミカ、音の位置を追え!俺は前から動きを止める!」アオイの的確な指示で、8人は初めて連携を取り始めた。


 アオイは視覚の力を覚醒させ、敵の幻影を見破る力を発揮した。その結果、敵の攻撃をかわしつつ本体を突き止め、一行は見事に勝利を収めた。



 戦いの後、タケルは悔しそうに地面に拳を打ちつけた。「俺のせいで、みんな危なかった……。」


 「そうだな、少しは自分の無茶を反省しろ。」アオイが冷たく言い放つが、少し間を置いてこう続けた。「だが、お前の勇気がなければ、俺たちは動き出せなかった。次は、もっと周りを信じて動け。」


 その言葉にタケルは驚き、そして少しだけ笑みを浮かべた。「お前、案外いい奴だな。」


 初めての戦いを通じて、アオイはリーダーとしての資質を示し、8人の中に小さな絆が生まれ始めていた。

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