勇者パーティのジョブチェンジ!?

裏道昇

第一部 1話 勇者やめます

 子供の頃、俺は魔法使いになりたかった。


 強大な魔法で魔獣の群れを倒したかった。

 風を自在に操って空を飛び回りたかった。

 あの人のように賢くありたかった。


 でも、湖で俺は聖剣を授かった。

 ――俺は勇者になった。




 俺たちはこの国の王様と謁見していた。

 玉座に座る王様に向かって、俺たち四人が跪いている。


「アレスとその仲間たちよ、よくぞ魔王を倒した。

 望む褒美を与えよう。何でも言ってみるが良い」


 王様が鷹揚に頷いて見せる。すぐ隣には第一王女のレイラ姫が控えていた。

 そう、俺たちは大陸の悲願だった魔王討伐に成功したのだ。

 

「あの……」

「気にすることはない。何でも言うが良い」


 言い淀んだ俺を見て、王様は優しく微笑んだ。

 その姿に心から感謝して、俺たちは口を開き――


「じゃあ……勇者やめます」

「俺も賢者やめます」

「えっと、聖女やめます」


 ――王様はそのまま動きを止めた。


「……は?」

 静まり切った謁見の間に王様の声が良く響く。


 無言で「本気か?」と問いかける王様に、俺はこくこくと頷いた。

 別にこの王様に恨みはないが、これ以上勇者を続けるつもりはなかった。


「いやいや、復興とか残党とか……色々あるじゃろ?」

 王様が普通のおじいちゃんみたいなことを仰った。


「それはこちらのリーザが引き受けます。……彼女は斥候ですが、身分は奴隷でした。彼女は奴隷身分からの解放を望んでいます」


 隣のリーザが一際深く頭を下げた。

 王様はしばらく唸っていたが沈黙に耐えかねたのか、口を開く。


「し、しかし……分かった。認めよう」


 それでも往生際悪く、反論しようとしたので軽く睨むと、王様は頷いた。

 まぁ、このメンバーで魔王に勝ってるわけだしな。


 王様は拗ねたように視線を逸らしている。

 まるで「けっ」とでも言いそうな態度である。


 ……君主としてその言い草はどうなんだろう?

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