ハード・ダンジョン

骨肉パワー

第1話

「え…?」


 少年の困惑した声と共に、その右腕が切断される。


「あぐっ…!?あ…ああああああああああああああああああああっ!?」


 吹きあがる鮮血。そして脳を直接焼いたかのような激痛に少年が地面に倒れる。


「はあああ!?はああああ!?はあああ!?」


 あまりにも意味不明な現状に少年の脳は現実逃避を始める。脳裏を掠める数分前の記憶。暇つぶしで触れた謎のアプリ。それを起動した段階で少年の記憶は途切れていた。


「ぶっふううっ…!!ふう!ふうう!ふう!ふう!ふう!」

 

 無いはずの右腕で地面から起き上がろうと少年が藻掻く。だが当然、無い腕で立ち上がれるわけがない。剥き出しになった骨と筋繊維から伝わる痛みが再び少年を現実に引き戻す。


「ぐ…ああ…ああああああああああああああああ!?」


 悪夢は終わらない。今度は左手、右足、左足からの激痛が少年を襲う。


「むぐうう…!?うう…ううううううううっ!?」


 痛みよりも恐ろしさが勝り、少年は今自分の体がどうなっているのかを確認する事が出来なかった。


「むうううううう!!むううううううううううう!!」


 芋虫のように少年が地面を這いずる。手足を失った少年には最早出来ることなど何もない。その目に映る視界。そこにはどこかも分からないような土色の壁だけが広がっていた。


「…あっ……」


 ブツッ!という音と共に少年の視界が激しく動く。真っ赤な動く鎧が少年の首をその手に持つ剣で切断したのだ。全身を襲っていた激痛は消えホワイトノイズの音だけが少年に残る。


「……」


 そして、電源を落とすかのように少年の意識は途絶えた。














「……はっ!?」


 地面に転がっていた少年が目を覚ます。


「は…あ?……はぁ?」


 慌てて少年が自身の体のチャックを始める。無くなったはずの手足はしっかりと胴体と繋がっていた。首元に手を添えればしっかりと頭部と首も繋がっている。正常。そう、正常な状態だ。


「…はあっ…はあっ…はあっ…はあっ……」


 だが、それが少年の脳に強烈な不快感を感じさせていた。脳の血管内を大量のウジ虫が這いまわっているかのような耐えがたい不快感。それは常人が耐えられるようなものではなかった。


「あっがあああああああ!!あっがあああああああああああああああああああっ!?」


 訳の分からない不快感と共に少年は発狂。何度も何度も地面に頭を叩きつける。


「あっがあああ!!」


「あっがあああ!!」


「あっがあああ!!」


「あっがあああ!!」


 少年はガンガンと繰り返し繰り返し壊れた頭を叩きつける。4回程同じ作業を繰り返すことでようやく少年の意識は少しだけ正常へと近づいた。


「あっがあああ!!あっがあああ!!あっ…………はっ!?」


「ぐっ…おえっ!!」


 口内に溜まっていた血を吐き出し袖で口元を拭う。壊れた脳みそがようやく現実を認識し始める。


「…な…何なんだよ?」


 少年は震えながら周囲を見渡す。


「ひいっ!?」


 そして少年は見つけてしまったのだ。少年を殺したあの赤い鎧がまだ動いている姿を。場所も、そして現状も何1つ変わってなどいない。悪夢はまだ続いているのだ。


「……」


 鎧の動きがピタリと止まる。そしてゆっくりと方向を変え少年の方へと向き始めた。


「い…嫌だ……」


 少年が震える足を崩しそうになりながらも立ち上がり、全力で後方へと走り出す。


「嫌だ…!!嫌だああああああ!!」


 背後からガチャガチャという金属が擦れる音が近づいてくる。追いつかれれば死ぬ。今度こそ間違いなく死ぬ。そんな確信めいた予感が少年の脳を焼いていく。


「ああああああああああああああ!!」


 少年は走った。正真正銘命を懸けて。持てる全ての力を振り絞りただ後方へと走り続ける。

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ハード・ダンジョン 骨肉パワー @torikawa999

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