学園の王子様系女子を、学園のお姫様系女子が攻略しようとする話

八星 こはく

第1話 私の女にするんだから!

衣織いおり先輩!」


 甘い声で名前を呼んで、当たり前のような顔で2年生の教室に入る。

 いきなりの訪問者にみんな驚いているみたいだけれど、私はそんなの気にしない。


 だって、衣織先輩に会うためだけに、面倒な受験勉強を乗り越えてここに入学したんだから!


「えっと……ごめん。初めまして、だよね?」


 私を見つめて、衣織先輩が困惑したように首を傾げる。

 切れ長で形のいい瞳、ツンと尖った鼻先、薄い唇。形のいい卵型の輪郭に沿った艶やかな黒髪。

 とんでもない美人だ。おまけに身長が高くてスタイルがいい。スカートではなくスラックスの制服も衣織先輩にはよく似合う。

 女子ながら、王子様というあだ名がつけられるのも納得である。


 そしてなにより、めちゃくちゃ私のタイプ!


「はい。私、花咲はなさき姫奈ひめなっていいます」


 私が自己紹介をした途端、可愛い……と小さな声が周囲からもれた。当たり前だ。私はめちゃくちゃ可愛いから。


 低身長に高くて可愛い声、なによりパッと目を引くお人形のような可愛い顔。

 小さい頃から私は、どこに行ってもお姫様扱いされてきた。


「姫奈、衣織先輩と仲良くなりたくて。いきなりごめんなさい。でも、同じ学校に入学できて嬉しくて……」


 しゅん、と落ち込んだ表情を作り、上目遣いで衣織先輩を見つめる。すると衣織先輩は慌てて立ち上がった。


「謝らないで。驚いただけで嬉しいよ」

「本当ですか!?」

「うん」

「じゃあ、連絡先交換してください!」


 スマホを取り出し、半ば強引に連絡先を交換する。

 ちょうどその瞬間、チャイムが鳴り響いた。そろそろ、ホームルームが始まる合図だ。


 今日は入学して二日目。昨日は入学式だったから、自由に動けるのは今日が初めてだった。


「衣織先輩、また会いにきてもいいですか?」

「もちろん。入学したばかりで心配なこともあるだろうし、なにかあったらいつでも私に聞いていいからね」


 そう言って衣織先輩は格好良く笑った。本当に格好いい。


 っていうか、笑うと見える八重歯がえっちすぎる……!!


「はい! これからよろしくお願いしますね、衣織先輩!」





「で? 入学して早々、ナンパで遅刻?」


 ホームルームに遅刻した私に対し、悠里は呆れたように溜息を吐いた。

 悠里ゆうりは私の幼馴染で、私が女の子を好きなことを知っている。衣織先輩への恋心も。


「善は急げ、でしょ」

「で? 愛しの衣織先輩はどうだった? 話すのは初めてじゃん」


 去年のオープンスクールで、私は衣織先輩に一目惚れした。

 シンプルに、見た目が死ぬほどタイプだったからだ。


「めっちゃえろかった」

「最低」


 心底軽蔑した、とでも言いたげな悠里の眼差しは無視してあげる。今の私は衣織先輩と話せた幸せで胸がいっぱいだから。


「アンタの中身がそれだって知ったら、あいつらもがっかりするだろうね」


 笑いながら悠里が指差したのは、廊下からちらちら私を見ている男子たちだ。

 可愛すぎる私は、入学二日目にして『学校の姫』ポジションを既に確立している。他クラスだけでなく、他学年の男子たちまで私を見にくるくらいには。


「姫と王子。衣織先輩と私って、お似合いだよね」

「……こんなのが姫なら、その国は終わり」

「うるさい」


 この学校で、私が一番可愛い。

 つまりそれは、私が一番衣織先輩に相応しいということだ。


「悠里知ってる? 衣織先輩みたいなタイプの女が、実際は一番女なの」

「それ、アンタの願望でしょ」

「違うから」


 ああ、衣織先輩。早くまた貴女に会いたい。

 学校の王子様、なんて呼ばれる衣織先輩が顔を真っ赤にして、完全な女の子になるところが早く見たい。


 そんな状況を想像しただけで頬が緩んだ。


「ふふ、ふふ……」


 これから、私は衣織先輩を落としてみせる。

 絶対、衣織先輩を私の女にするんだから!

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