第3話 初心者ダンジョン
家を出た俺は早速初心者ダンジョンにたどり着いた。
因みに俺は一応誰かに出会う可能性も考えて仮面をつけている。
まぁ、仮面一つで正体を隠すなんて簡単な話ではないが一応だ。
他の冒険者にあう可能性だってあるし俺の顔を知っている人と会ったら面倒だしな。俺自身は兄や父みたいに有名な訳でもないし仮面をかぶっていれば遠目だと俺とは気づかないだろうからそれだけで十分だ。
そんな感じでとりあえずは学園入学するまでは保険の為に着けておくことに決めた。怪しさは満点だけどな。
そして初心者ダンジョンと言われるダンジョンは全部で三つあってこのダンジョンは三つ目のダンジョンだ。
まぁ、三つ目と言っても内容はそこまで違いはないのだが大きな違いは俺が今から取りに行く"ファイアーバレッド"のスクロールだけだ。
ここじゃない初心者ダンジョンには"ファイアーバレッド"じゃなくて"ウォーターバレッド"と"ウィンドバレッド"の違いしかない。
俺がここを選んだ理由が、たまたま俺の行けるところがここだけだったって訳だ。
「まぁ、ぱぱっと行っちゃうか」
出てくるのが移動速度の遅いスライムと、ミニゴブリンしかいないので今の俺でも戦わないで逃げるくらいはそんなに難しい話じゃないわけだしな。
俺はそう思いダンジョンに足を踏み入れた。
◆
「こんな感じになってるのか……」
ゲームでは何度も見た景色だが、現実になってみてみると凄く感慨深い。
映像のみのダンジョンだったが今は匂いもあるし空気の冷たさも感じ取れる。
「本当にゲームの世界に入ったんだな……」
そう思うとちょっとテンションが上がってきた。
いくら転生先が悪役で没落確定貴族だとしてもやっぱり嬉しい気持ちが勝つ。
当然命の危険が常にある世界だとは知っているがそれだとしてもだ。
だって寝る間も惜しんで毎日好きでやり続けたゲームの世界に入ったんだ……それ以上に楽しみな気持ちが先行するのも無理はないだろう。
まぁ、人によるとは思うが俺はそんな気分だ。
そんな事を思っていたが早速スライムが視界に入ってきた。
「出たか!」
てか実際に見るとちょっとかわいいな……って言っても今の俺だとダメージを食らうとかなり重症だろうから絶対に近づけないけどな……スライムに負けるってどんだけ弱いんだ!そう思うかも知れないが俺には適正魔法がなし武器すらもないんだ。勝てないとは言わないが戦う必要が全くないんだし近づく理由が皆無だ。
まぁ、セインだったらゴブリン三体くらいは倒せると思うがな……
あんなのでも闇魔法の才能は凄く天才と言われている訳だし……ていうか学園に入学する人であれば魔物と戦ったことのない人の方が少ないだろう。もちろん対人戦で実践を積む人も多いだろうが魔物と人では全く勝手が違うだろうし、ある程度の経験は必要だからな。
「まぁ、そんなのは"ファイアーバレッド"さえ手に入れば【魔力吸収】と知識さえ合わせればすぐに追いつけるだろうけどな……てか今はそんな事は今考える場合じゃないな」
俺はそう思いスライムの横を通ることにした。
「スゲーのろいな……」
スライムに気付かれはしたのだが、歩いても追いつかれないレベルでスライムの速度は遅い。
まぁ、スライムだし当然と言えば当然か。
――それからスライムを何十匹も無視し続けたら次はミニゴブリンが見えた。
俺ミニゴブリンを認識するとミニゴブリンもほぼ同時にこちらに気付いた。
「もう気付かれたか!」
スライムと違って警戒心が強いミニゴブリンはすぐに俺に気付いて俺に近づいてきた。
そしてそれを確認した俺は全力で走り始めた。
走ってみて分かったがミニゴブリンは俺の足の速さと大差ないんだな。
「これなら大丈夫そうだな……」
普通なら体力の差で追いつかれるだろうけどこのダンジョンの構造を理解しきってる俺からしたら逃げるのは難しい事でもない。
でもここから最短距離でボス部屋に行くと絶対に追いつかれちゃうからな。
「ちょっと遠回りをするか!」
直線の短い道を選んで進めばミニゴブリンを振り切るのは難しい話じゃない。
俺はそう考えて全力疾走で進んだ――
◆
「はぁ、はぁ」
ミニゴブリンを振り切って魔物の気配が全くと言って良いほどない部屋に着いた俺は座って休んでいた。
この部屋はゲームでも休憩場所として存在していて魔物が寄り付かない場所だ。
勿論ダンジョンによってはそんな部屋がないダンジョンも多いがこのダンジョンは初心者ダンジョンなんで親切設計になっているのだ。
ゲームの知識がある俺は何匹ものゴブリンから逃げながらこの部屋を目指していた。
ここからボス部屋は遠くは無いのだが……
「流石にちょっと休まないと死にそうだ」
この体は体力もないので体力作りもしないとな。
レベルアップによって変わるとも思うが地道な筋トレなどの努力も大切なはずだ。
「やっぱり課題が余りにも多いな……」
でも俺がこの世界で生き残るためにはこのくらいの事は絶対にしなければいけない。
破滅が確定している家の息子に転生したんだから妥協なんてしてられないし弱音なんて吐いている暇はない。
十カ月なんてあっという間に過ぎちゃうだろうし……
「俺は絶対に強くなって生き残り好きなように暮らす!」
俺は自分の体力の無さを実感して改めて気合を入れなおした。
◆
――休憩を終えた俺は早速進み始めた
「くそ!また見つかったか!」
このダンジョンの構造は理解しているものの、ミニゴブリンが出てくる場所は完全にランダムなので俺が知る由もないのだ。
それ故にどうあがいてもミニゴブリンの出ない道を行く事は不可能だ。
「とにかくボス部屋はすぐ近くだから全力で逃げるか!」
そうして俺は再び走り出した。
――それから少しして。
「ふぅー、やっと着いたな……」
ミニゴブリンを振り切ってようやくボス部屋の前にたどり着いた。
「よし!開けるか」
俺はそう呟いてボス部屋の扉をゆっくりと開けた。
ボス部屋の中は広い空間となっていて天井が高い。
勿論出てくる魔物がゴブリン三体なので狭いと言えば狭いのだが、今までの道や部屋と比べたらっての話だ。
「ゴブリンは……いないな」
周りを見渡してもゴブリンは居ない。
「てことはあれがそうなのか……」
離れた位置にある物を見つけて近づいてみるとそこには、見た事のあるアイテムボックスがあった。
「これで間違いないな」
俺の目の前には緑色のアイテムボックスがある。
アイテムボックスは色によって入っているアイテムが違って、緑色がスキルの取得が出来るスキルスクロール、赤色が武器、青色が防具、黄色がアイテムって感じだ。
因みに本来ゴブリンを倒して入手できるアイテムは弱めの武器なので赤色のアイテムボックスなのだが、今は当然変わっているのでそれは出ては来ない。
「まっ!そんな事より早速開けようか!」
俺はそう思って早速緑色のアイテムボックスを開ける事にした。
(ガチャ!)
箱を開けるとゲーム通りスクロールが出てきた。
そのスクロールに書いてある文字を見ると、"ファイアーバレッド"そう書かれてあった。
「よし!間違いないな!」
やっぱりゲームと同じだ!
俺はそう思い早速"ファイアーバレッド"のスクロールを使用した。
"ファイアーバレッド"のスクロールを使うと一瞬にして"ファイアーバレッド"の魔法式が頭に入ってきた。
「なるほど……そうやるのか」
俺はすぐに理解できたので早速使ってみることにした。
「"ファイアーバレッド"」
そう唱えると"ファイアーバレッド"が一つだけ出た。
「おぉ!すげぇ!」
俺は初めて使った魔法に対して凄くテンションが上がった。
「流石に中級魔法だな!」
俺は試しに撃つ事にして魔力を半分使ってみたが、最大魔力が低い事もあり一つしか出なかったがかなりの威力が出ていた。威力に関しては当然レベルが上がるにつれて上がるのだろう。
「でもこれだけ魔力を消費しても一つしか出ないのか……」
まぁ、魔力はいくらでも使えるんだしそれを解消するのも難しい話じゃない。
それに魔力を増やす方法はレベルアップだけじゃないしな。
今は俺が弱いから難しいがアイテムや装備でも増やせる方法がある……まぁ、それは後々考えるとして、今はちゃんとステータス画面にも反映されているのかを確かめるか。
(ステータスオープン)
名前:ハレス・ラヴィ 男
年齢:14歳
レベル:1
適正魔法:なし
スキル:"ファイアーバレッド"
固有アビリティ:【魔力吸収】
よし!ちゃんと反映はされているみたいだな。
ゲームみたいに魔力量とかも表示されていたら楽なんだが……まぁ、ないものねだりをした所で何も変わらないな。
「とにかくこれで最初の一歩をふみだした訳だ」
取り敢えず次は軽くレベリングだな。
ゲームではストーリーを進めない限り時間が進むことはなかったのでどのくらいで目標であるレベル20になれるかは分からないがとにかく頑張ろう。
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