悪役貴族の無能弟に転生した俺は、破滅未来を回避する為に陰で動く。

タコタココタ

一章 転生編

第1話 悪役貴族の無能弟に転生した

「チッ!本当に使えねーな!」

「もうよい……そんな無能は放っておけセイン」


 そう言って若い少年とその父親らしき人物は去っていった。


「ぐっ!!!」


 俺は立ち上がろうとしたのだが体がうまく動かない。

 着ている服はボロボロになっていて体すらもボロボロだ。

 それに手を見ても足を見ても明らかに俺の体とは思えなかった。

 先ほどの二人も明らかに日本人とは思えない服装や顔立ちだったしな。


 一体何がどうなっているんだよ……


 その時、頭の中を様々な映像が一瞬にしてよぎった。

 おそらく……いや確実にこの体の持ち主の記憶だろう。

 簡単に言うと俺はこの体に転生したらしい……

 そしてこの世界は俺が居た地球とは全く違う異世界だ……それもゲームの世界という……

 このゲームは恋愛をしたい人は恋愛をする事も可能。それが要らない人はヒロインとは友情のみで進行も可能なRPGゲームだ。

 主人公とヒロイン達が様々な事に巻き込まれながらも絆を深めつつ乗り越えて最終的には魔王を倒すそんなストーリーだ。


「マジかよ……」


 ゲームの中に異世界転生した……しかもこのゲームは俺が滅茶苦茶やりこんだゲームなのだ。そして俺が転生した体はハレス・ラヴィと言う公爵家の次男だ。

 先ほどいた少年がセイン・ラヴィと言う俺の腹違いの兄でありラヴィ公爵家の長男、そしてさっきの父親らしき人物がラヴィ公爵家現当主であるジル・ラヴィだ。

 そしてこの一家であるラヴィ公爵家は俗にいう悪役貴族であり将来的に自分たちの悪行がバレる事によって壊滅、崩壊する未来になっている……


「マジで最悪だよ……」


 俺の兄は自分勝手で傲慢なので嫌われ者だし俺の父親と義母に至っては平気で悪事を犯す行為、横領だったり賄賂だったりをしている上に立場の弱い人間を利用して切り捨てる、自分たちに都合の悪い事を知られたらどんな手を使ってでも始末をする、そんな事を繰り返す人間たちだ。

 

 そして俺はそんな糞家族の中ですら居場所の無い無能弟ってところだ。

 ハレス・ラヴィ、闇魔法が得意なラヴィ公爵家に生まれながらも適正魔法がなく幼い頃から父親にですら相手にされずに疎まれていた。

 唯一味方で居てくれた第二婦人である母親も他界してしまっているので今では独りぼっち。

 しかも母親が子爵家の出だった事もあり、高貴族絶対主義者である義母やその子供であり俺の兄からは常にいじめられている。

 そんな俺の世間での評価はすこぶる酷い……いや酷いと言うよりかはほとんど無と言っていいのかも知れない。

 魔法適正がない無能で、嫌われ者の家族でセイン・ラヴィの弟。

 その事は既に貴族の中でも有名な話となっている。

 その上セイン・ラヴィのせいもあり兄と同じく嫌われているってのもあるけどハレス・ラヴィ自体が家の中でも外でもびくびくしていてまともに他人と会話すらできあないのだ……そんな事もあって嫌われている。

 ゲームでも悪役貴族の弟ってだけでほとんどモブと言っても過言じゃないキャラだったしな。

 言っちゃえばセイン・ラヴィが才能のある傲慢怠惰嫌われ貴族だとしたらハレス・ラヴィは才能の無い無能嫌われ貴族って所だ。

 

「いてててっ!」


 駄目だ動こうとしても体が痛い。

 この体が弱すぎるのか、余りにもダメージを食らいすぎている。

 

「しかたない……」


 今は状況整理に時間を費やすか。

 

(ステータスオープン)


名前:ハレス・ラヴィ 男

年齢:14歳

レベル:1

適正魔法:なし

スキル:なし

固有アビリティ:【魔力吸収】


 レベルは当然1か……


「は?」


 固有アビリティに【魔力吸収】!?

 魔力吸収とは空気中にある魔力を凄い勢いで吸収できるスキルだ。言っちゃえば魔力が空気中にある場所では無限に魔法を使えるって事だ。

 魔力回復の回復速度も一瞬と言って良いほど早いしな。いくらそう魔力が多くても回復時間は2、3秒程度だ。

 そしてこの世界では余程特別な場所以外では魔力はどこにでもある。

 ゲームだとチートアビリティで有名だったくらいだ。


 ハレス・ラヴィは気づいて居なかったのか?

 いや、記憶を除いてみたところ、この世界では俺以外ステータス画面を確認できないみたいだな……大体ステータス画面って概念自体が転生者である俺にしかないようだ。

 【魔力吸収】なんて魔法を使っていれば絶対に気付きそうな物なのだが、適正魔法がないハレス・ラヴィは魔法すら使えないから気づきようがなかったのか。


「ふははっ!こりゃいいぞ!」


 没落確定のハレス・ラヴィに転生してちょっとまずいと思っていたがこれなら話は変わってくる。

 【魔力吸収】とか俺にとっては最も欲しい固有アビリティと言っていい。

 適正魔法がないと意味ないんじゃ?誰でもそう思うだろう。

 でもネットでも変態と言われていたくらいこのゲームをやりこんだ俺からしたら話が変わってくるのだ。


 ゲームでのこの世界では適正魔法じゃなくても魔法を使用することが可能になる方法がある。

 それがスキルストロークだ。

 スキルストロークはレア度が高くて入手方法が難しいものばかりだ。

 基本はダンジョンでの隠しアイテムとしてある物もあって余り強くないスキルストロークですら入手が困難なものが多い。一応エンドロール後にだったら商店で購入可能となるのだがそれ以外に入手方は無い。ていうかこの世界ではそんな商店はないだろうな……だってネット商店だったし。

 

 しかしゲームでの知識のある俺なら入手不可能かと言われればそうとも限らない……もちろん前提として強いモンスターを倒さないと行けなかったりする物は今の俺では当然無理だが、そうじゃないスキルストロークなら話は違う。

 知識さえあればモンスターをうまく回避して取れるスキルストロークもあるって訳だ。

 それに隠し扉だったりにある隠しアイテムであるスキルストロークはほとんどが強力なスキルなので願ったりかなったりって訳だ。

 

 レアアイテムなどの入手方法もほとんど分かってるしな……

 強くさえなればそう言った物も俺が手に入れる事が出来る。


「今は最弱なこの体も俺の知識があれば最強にですらなれるじゃないか……」


 そう考えると思ったよりもハレス・ラヴィっていう体に転生した事は悪くなかったんじゃないだろうか?

 寧ろうまく事が運べば最適解ともいえる可能性すらある。

 それくらい【魔力吸収】って言う固有アビリティってのは俺からしたら最高のアビリティなのだ。


「でもおかしいな?」


 ゲームでは固有アビリティは一人につき必ず二つ存在していたはずだ……固有アビリティとはこの世に生を受けて初めから決まっているもので後天的に入手できるものじゃない。

 それなのに一つしか無いなんてどうなってるんだ? 

 まぁ、【魔法吸収】があればとりあえずは良いか……


「それじゃあ俺が生き残るために今後の事を考えようか」


 俺はその場に倒れながら考えることにした。


 今の俺が14歳なら兄であるセイン・ラヴィも14歳のはずだ。

 そして学園に入学するのが今から約一年後の15歳になってから、つまり今から十か月後の話だ。

 兄であるセイン・ラヴィはストーリーが始まって初日に主人公に対して因縁をつける。

 そこから決闘を行う事になる。

 セイン・ラヴィは昔から天才と言われていたのでそれに胡坐をかいて努力を怠っていたせいであっさりと負けてしまう。

 それからセイン・ラヴィは恥を受けさせられた主人公に怒り狂い、暗殺者を送るが、それがばれて学園を追放される。それに切れた父親と母親が学園に手を回して脅そうとするが、それがきっかけでラヴィ公爵家の過去の不正が晒されるようになり両親は斬首刑。セイン・ラヴィは庶民落ちからの退学。俺、つまりハレス・ラヴィは学費を既に四年分払い終わっている事もあり庶民落ちしたが、学園には居続けるって訳だ。

 

 そこまではまだ良いのだが問題はその後だ。

 その後のハレス・ラヴィとセイン・ラヴィは何者かによって殺されるのだ……これは生徒の会話で小耳に聞く程度のイベントだったので犯人は分からない。


 因みに父親が俺を学園に送り出した理由は、わざわざ兄であるセイン・ラヴィの優秀さを目立たせるための当て馬として利用されていただけで、そこに父親としての優しさや期待の思いなどは一切ない。

 ラヴィ公爵家からしたら学園の学費なんて雀の涙程度だしな。


「絶対に死んでたまるかよ」


 一年後に死ぬって分かってるキャラ、しかも悪役の弟でほとんどモブともいえるキャラに転生したのか……でもまぁ俺が転生した以上、死ぬ……そんな運命は訪れないだろうけどな。


「俺がすべきことは決まってるな」


 俺がすべき事はもちろんこのラヴィ公爵家を存続させることじゃない。

 寧ろなくなるべき糞貴族だ。

 やってる事が糞なので俺が肩入れする事はまずない。

 俺を大切にしてくれていた母親も今は居ないし、唯一血のつながってる父親も俺の事を常に邪魔者扱いで存在すら疎んでいたくらいだしな。

 

 俺がすべきことは、お金を稼ぐ事。戦いに慣れる事。後は魔物を倒しまくって強くなる事だな。それからスキルを入手する事。できれば装備やアイテムも入手する事。

 そしてとにかくレベルを上げる事だ。

 ゲーム開始時の主人公がレベル1でチュートリアルなどを終えて、学園に入学時点の主人公がレベル10スタートなので絶対にそれの二倍、つまりレベル20以上にはしよう……いやもっと必要だな。

 俺を暗殺しに来る奴は本当に正体が分からない……だから出来るだけ強くならないといけない……絶対に死ぬわけには行かないからな。


 「そして俺はラヴィ公爵家が壊滅するまでは今まで通りみんなの前では無能を演じていよう」


 余計な事をして巻き込まれたくもないしな。一応はハレス・ラヴィは退学にはならないしそれまでは大人しくしておくべきだ。

 せっかく貴族に転生したのに庶民になるのはちょっと勿体ないと思うがまぁ、良いだろう。

 俺が強くさえなれば庶民になって後ろ盾がなくなったとしても自分の身を守れるだろうしな。

 とにかくラヴィ公爵家がなくなるまではゲームの展開通りになるようにおとなしくしていようか。

 そして俺は絶対に生き残ろう。

 その後は自由に生きよう……まぁ、出来ればな。

 もしかしたら最初の暗殺者を乗り切っても二度三度があるかも知れないし、せっかく好きなゲームの世界に転生したんだから思いっきりこの世界を楽しみたいって思いはあるがそれよりも生きる事が最優先だ。

 俺が生き残るためにはゲームの展開を変える事も当然いとわない。


 それに俺を害そうとする者が居たら遠慮はしないようにしよう。

 そうしないと俺がやられてしまう……そんな世界だから。

 

 そして俺の目標は自分がこの世界で生き残って、この世界で自由気ままに生きる事だ。折角の二度目の人生なんだから好きな生き方をしたい……前世の事を語る気はないが前世の俺は親の言いなりだったし尚更な……

 一応はラヴィ公爵家が壊滅するまでは主要人物と関わるつもりはないがラヴィ公爵家が壊滅した後なら話は別だ。だってそんな生き方をしていたらクラスの半分くらいとは関われなくなるし避けて生きるなんて息苦しすぎるからな。

 そんなものは自由気ままとは言えない。例えストーリーに干渉するとしてもな。

 

「まぁ、とにかく強くなんないとな……」

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