Bランク冒険者パーティーのリーダーだった俺が、なぜか貴族のお嬢様ともパーティーを組むことになったのだが!?
啄木鳥
第1話 貴族の令嬢の護衛だって!?
「さて、今日はどんな依頼を受けるか......」
ギークは朝早くから冒険者ギルドの掲示板を見て、手頃な依頼がないかと探す。
なぜ俺がこんな時間からギルドに来ているのか。それは、基本的にギルドでは早朝に依頼を新たに追加したりするからである。
めぼしい依頼は昼前には大体誰かに取られており、それを避けるためこうして朝早くからギルドに赴いているというわけだ。
「おっ、このオーク討伐なんていいんじゃないか?」
オーク一頭分の睾丸で銀貨三枚、十頭分まで引き取り可、か。かなりおいしい依頼だな、どっかの研究者が出したのか?
今日はこの依頼を受けようと思い、依頼の紙に手を伸ばす。
「ギーク!」
いきなり後ろから声を掛けられたので、思わず振り返る。
「ギルバードか、ったく、びっくりさせんなよな」
「ごめんごめん」
このガタイがいい男はギルバード、俺のパーティーメンバーの一人だ。タンク、つまり、パーティーの壁の役割を担っている。
ちなみに、俺はそのパーティー『ドラゴンバスターズ』のリーダーで、戦士だ。
あと一人、アリシアという斥候兼弓使いがいるのだが、朝に弱いのでまだ夢の中だろう。
「って、それどころじゃないんだよ!俺たちな、かなり報酬の期待できる依頼を受けることになったんだよ!」
報酬が期待できる依頼?俺、そのこと聞いていないんだが?
「ん?それって『ドラゴンバスターズ』が受ける依頼なのか?それとも、お前ひとりで受ける依頼なのか?」
「パーティーで受ける依頼に決まってんだろ、何言ってんだ?」
「お前なぁ、依頼を受けるときはまずパーティー全員で話してから受けるかどうか決めるって何度も言ってるだろうが。外れの依頼を引いてしまった時に事前に気づくことができるようにだな」
「大丈夫だって、ギルマスからの直々の依頼だぜ?問題ないって」
ギルマスとはギルドマスターの略称で、簡単言うと冒険者ギルドのトップだ。
ただ、他のところのギルマスはどうか知らないが、ここのギルドのギルマスは少々性格が悪い。あれこれ理由をつけて普通よりも低い報酬額で依頼を受けさせることは度々やっている。俺もその被害者なのだが。
(不安だ)
そんなことを思いながら、俺は依頼内容を尋ねる。
「で、どんな依頼内容なんだ?」
「ん、ああ、ここの領主様のご令嬢が冒険者になりたいらしくてな、だからその護衛を頼まれたんだ!」
「......はあっ!?」
ギルド中にギークの声が響き渡った。
「ちょっと待て、領主様のご令嬢の護衛?なんでそんな面倒くさそうな依頼引き受けるんだ!」
「なんでって、報酬がいいからに決まってんだろ?」
馬鹿なのか、こいつは?貴族と関わったら碌なことがないだろうに。きっと、そのご令嬢に傷一つでも付けたら、ギルドに所属していることの証明となるギルドカードを没収されかねない。
実際に、貴族からの依頼を安易に引き受け失敗してギルドカードを没収された挙句、ギルドから永久追放された知り合いがいた。つまり、死ぬまで冒険者ギルドに加入ができず、冒険者になれなくなったってわけだ。
「お前、貴族と関わるといいことないってわからないのか?」
「?何か問題でもあるのか?」
馬鹿だ、こいつ馬鹿だ。前から思ってたけど、こいつやっぱり馬鹿だ。
「......とりあえず、アリシアを起こしてパーティーで話し合うぞ。他に何かギルマスから聞いていないか?」
「えーと、あっ、そうだ。明日の二の鐘に領主様の屋敷に来いって言われたぞ、ギルマスもついてくるらしいけど」(二の鐘とは十二時のこと。ちなみに、一の鐘は九時、三の鐘は三時、四の鐘は五時に町中で鳴るので、みんな時間は〇の鐘と呼んでいる)
「はあ!?明日って、なんでもっと早くに言わないんだよ!」
これじゃあろくに話し合いもできないな。
「あっ、そうだ!今からでも断ることってできないか?」
「いや、もう領主様もこのこと知っているみたいだから、無理だと思うぞ」
ダメもとで聞いてみたんだが、やはりだめだったか......
「それなら、明日の対策を考えないとな......まずはアリシアが泊っている宿に向かおう。明日のことについてパーティーメンバー全員で話し合う」
「別にそんなことしなくてもいいと思うけどな」
「......いいから、早く行くぞ」
何でこいつはこんなに能天気で考えなしなんだ!
◇◇◇◇◇◇
ギルバードを連れて、俺はアリシアが泊っている宿、『グリフォンの巣』にやってきた。
「あっ、いらっしゃいませ!」
宿に入ると、十歳くらいの少女が挨拶をしてくれる。
この町の中ではなかなかに良い方の部類に入る宿であり、大通りに面しており清潔で部屋も広く、朝・夕に食事が付く。その代わり、お値段の方もなかなかするが。
まあ、俺たちはこれでもBランク冒険者パーティーだ、稼ぎは他と比べるとかなり良い方だろう。多少の贅沢をしても問題なく暮らしていけるくらいの貯蓄はある。
少し話は逸れたが、とりあえず宿の受付にいる少女にアリシアを起こしてもらうよう言ってみようか。
「あのー、すまない、ここの宿にパーティーメンバーが泊っているので、起こしてくれないか?緊急の用事があって急いでいるんだが......」
「おじさんのパーティーメンバー......アリシアさんですね!」
「おお、知っていたのか」
「はい!『ドラゴンバスターズ』の名前はこの町では有名ですので!」
彼女が俺のことをおじさんと呼んだことにはあえて触れずにスルーしておく。まあ、俺ももう三十二だし、立派なおじさんだからな......やっぱちょっと傷つくかも。
ちなみに、ギルバードは二十九歳、アリシアは二十七歳で、パーティーメンバーの中では俺が最年長だ。
「では、早速起こしに行ってきます!」
少女は受付を出て、階段を駆け上がる。
......それから約十分。
「アリシアの奴、遅いな」
「別に遅れてもいいだろ?領主様の屋敷に行くのは明日なんだから」
「お前なぁ......」
ギルバードの言動に呆れていると、階段を降りてくる音が二つ聞こえてくる。一つはばたばたと慌ただしく、もう一つはゆっくりと。
「すみません、ギークさん!遅くなってしまって。アリシアさんがなかなか起きてくれなくて......」
「いやいや、君が謝ることじゃないから」
彼女が謝ってきたので、俺は少しだけ罪悪感を覚える。
「ふわぁ、まったく、何でこんなに早く起こすんですか。せっかくいい夢を見ていたのに......」
「いや、もう日は昇っているし、一の鐘(九時)ももうじき鳴るぞ」
寝ぼけ眼で階段を降りて来たのは、パーティーメンバーで斥候兼弓使いのアリシアだ。
やはりさっきまで寝ていたらしく、寝癖がひどく、頬にはよだれが垂れている。せめてよだれくらいは拭いておけよ。
「で、何の用なんですか?つまらない用件ならまだ寝ていたいので後にしてもらいたいんですが......」
「大丈夫だ、目が覚めるような用件だから安心しろ...って言ってる間に部屋に戻るな!ちゃんと聞け!」
こいつ、俺が何か言っている間に部屋に戻って二度寝しようとしやがった。
「ああ、すみませんって、ちゃんと聞きますって。で、何なんですか、その用件っていうのは?」
「やっと真面目に聞こうとする気になったか。じゃあ、今回ギルバードが勝手に受けた依頼についてなんだがな......」
そうして、俺はアリシアに説明を始めた。
Bランク冒険者パーティーのリーダーだった俺が、なぜか貴族のお嬢様ともパーティーを組むことになったのだが!? 啄木鳥 @syou0917
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