第2話 作戦会議

 「はぁ、ギルバード、あなた馬鹿なんですか?」


 「ん、なんでだ?」


 俺がギルバードの受けた依頼をできる限り正確にアリシアに伝えたところ、アリシアは呆れたような溜息を吐いた。


 「確かに目が覚める話ですね。一応聞いておきますが、この依頼って断ったりすることは......」


 「無理だな、すでに領主様にも話が伝わっている」


 「やはりそうですか......」


 がっくりと項垂れるアリシア。その様子を見て首をかしげるギルバード。こいつ、事の重大さに全く気付いていないな。


 「あー、ギルバード?念のため聞いておくが、お前、敬語は使えるか?」


 「ん?そんなの人生で一度も使ったことはないけど?」


 ......終わった。


 「お前、領主様にどうやって接するつもりだったんだ?」


 「どうやってって、普通に接すればいいんじゃないのか?」


 ......ちょいちょいとアリシアを手招きして、二人で話し合う。


 「ちょっと、まずいんじゃないか?」


 「はい、まずいですね、このままじゃ......」


 「あのー、すみません」


 「「うわっ!」」


 二人でかがんで話していると、そこに宿の少女が入り込んできた。


 「驚かせてしまってすみません。その、あの、宿の入り口で固まって話されるのは少し困るので、できれば他の場所でやってくれるとありがたいのですが......」


 「ん?あっ、ああ、すまない、すぐにどける」


 「いえ、ありがとうございます!」


 確かに、俺たちかなり邪魔な位置にいたかもな。


 「じゃあ、あとは酒場で話すか」


 そうして、俺たちは酒場へ向かった。



 ◇◇◇◇◇◇



 酒場に着いた。朝なので人は少ないが、もうすでに酔っぱらった野郎もいる。いや、昨日から酔いつぶれているだけか。


 そんなことを考えていると、アリシアが手を上げて店員を呼んだ。


 「とりあえずコカトリスの酒蒸しとレッドボアのステーキ、あと白パンを二つお願いします!」


 「ちょっと待て、朝からそんなに食うのか?俺たちは話し合いに酒場に来ただけなんだが......」


 「だって、ギークが酒場に行こうって言ったせいで、私は宿で食べれるはずだった朝ご飯を逃したんですよ?これはその代わりです!」


 フォークを片手で振りながら、アリシアはそんなことを言っている。


 「それにしても食いすぎだろ、いつものことだが」


 「まだまだ食べますよ?宿では追加料金を払ってさっき頼んだ量の三倍は作ってもらってますし」


 「......宿の人も大変だな」


 一人で四、五人分の量の飯を食べて、さらに起きる時間が遅いので他の人の料理とまとめて作ることができない。宿の人にとっては二度手間だろう。


 というか、アリシアの奴こんなに食ってなんでこんなに痩せてるんだ?おかしい。


 「ギークとギルバードは何も頼まないんですか?」


 「俺は朝食は宿でもう済ませて来たから大丈夫だ」


 「俺はまだだからなんか頼もうかな。えーと、白パンと肉団子スープを一つずつ!」


 ギルバードは体格の割にはあまり食わないよな、夜はそこそこ食うが。


 「まあ、飯が来るまでに明日のことについて一通り話しておくぞ。ギルバード、領主様のお屋敷に行くのは二の鐘(十二時)で良いんだよな?」


 「ん?ああ、そうだったぞ。ギルドからギルマスもついてくるらしいが」


 「じゃあ、まずは一の鐘(九時)から一時間過ぎたくらいにギルドでギルマスと合流して、それから領主様のお屋敷へ向かう。ギルマスへは俺が伝えておこう」


 「えっ、ちょっと待ってください。いくら何でもその時間にギルドへ集合は早すぎるんじゃないんですか?」


 朝にめっぽう弱いアリシアが反論してくる。


 「大丈夫だ、俺とギルバードでお前のことを起こしに行く。ちゃんと間に合うようにな」


 「いや、そういうことを言っているのではなくて...」


 「よし、じゃあ次は領主様とそのご令嬢に対してどのように接するかについて話すぞ」


 「あ、あのー、ちょっとー、聞いてますかー?」


 隣で何か言っているのは無視して、俺は話を進める。


 「まずギルバード、お前は黙っていろ。お前がしゃべると絶対に面倒くさいことになる」


 「えっ、なんでだ?」


 不思議そうな顔をするギルバード。


 「ま、まあ、それについてはギークの意見に賛成です」


 「アリシアまで!なんで俺しゃべっちゃいけないんだよ!」


 「お前、敬語使えないんだろ?領主様に対して敬語抜きで話したら、下手したら奴隷落ちも可能性としてあるぞ」


 「えっ、そうなのか!?」


 まあ、そういうことになる可能性は低いが、ゼロではない。一応気を付けておいた方がいいだろう。


 「わ、わかった。俺は黙っておく」


 「ああ、そうしてくれ。じゃあ、次は領主様のご令嬢の護衛についてだが......」


 「お待たせしました!」


 どのように領主様のご令嬢を護衛するか話そうとすると、料理が運ばれてきた。


 「わあー、美味しそうです!じゃあ次は、ロックバードのハーブ焼きとクリームシチューをお願いします!白パンも追加で一つ!」


 「お、おい、話を......」


 「まあ、食べてからでもいいんじゃないか?」


 「んん、ま、まあいいか......」


 そうやって、アリシアが食べ終わるのを待つこと三十分。


 「ごちそうさまでした!いやー、やっぱりここの酒場の料理は美味しいですね!」


 「じゃあ、早速続きの話を......」


 アリシアが食べ終わったようなので、作戦会議を再開する。


 「えーと、領主様のご令嬢の護衛をどうするかって話でしたっけ?」


 「ああ、そうだな」


 「別に今日話さなくてもいいんじゃないですか?明日から護衛が始まるわけでもないし」


 「いや、しかし...」


 こういう話は前もってしていた方がいいと思うんだが。


 「俺には難しい話はわからないし覚えられないから、当日に簡単にまとめて言ってくれると助かる」


 「私はお腹がいっぱいなので、今は何も考えたくありませーん」


 前者はまだ納得できるが、後者は完全に納得できないんだが。


 「ま、まあ、護衛の件については後日話し合うことにするか(怒)」


 「「了解(です)」」


 (本当にこんなんで大丈夫なのか?)


 俺は不安を抱きながら、酒場を後にした。


 

 ◇◇◇◇◇◇



 翌日。


 俺はギルバードと一緒にアリシアを起こすべく、宿『グリフォンの巣』へと向かう。


 宿に入ると、前にいた少女が今日も同じように受付をしていた。


 「いらっしゃいませ...あれ、今日もアリシアさんに何か用でしょうか?」


 二日連続で訪れたので、少女は首をかしげる。


 「ああ、今日も用事があって来た。アリシアのことを起こしてきてくれないか?」


 「はい、わかりました!」


 少女は受付を出て、階段を駆け上がる。



 ......それから約二十分。


 「アリシアの奴、なんか昨日よりも遅くないか?」


 「そうか?俺にはそんなに変わらんように思えるんだが」


 いや、確かに遅い。昨日よりも早く来たせいなのか?


 「すみません!昨日よりも時間がかかってしまい!」


 昨日と同じように、少女が先に降りてくる。


 「ふわぁ、いくら何でも、早すぎませんか?まだ朝日が昇って、少ししか経っていないじゃないですか」


 これまた眠そうな顔でアリシアが降りてくる。今度は横向きに寝ていたのか、頬に赤く跡がついていた。


 「お前が朝食をゆっくりと食べておきたいかと思って、この時間にしたんだが」


 「その心遣いは嬉しいんですけど、やっぱり眠いもんは眠いです」


 わがままだな。


 「まあ、俺たちはもう朝食は済ませてあるから、お前はゆっくりと食べておけ。俺たちは外で待っているから」


 「はーい、了解でーす」


 そんな伸びた返事をして、アリシアは宿の中にある食堂へ向かった。


 「さて、俺たちはそこら辺をぶらぶらとしておくか」


 「ああ......どんな人なんだろうな?今日会う領主様とそのご令嬢ってのは」


 「さあ、良い人だったらいいんだがな」


 典型的な貴族みたいな人だったら面倒くさいかもしれない。平民を見下すような領主様だったら......非常に面倒くさいことになりそうだ。


 まあ、そんなことをいちいち気にしていたらきりがない。俺は俺にできることをやるだけだ。その領主様のご令嬢の護衛っていう仕事を。


 ......大丈夫だろうか?

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