精霊の回路
阿部狐
第1話
見渡す限り、一面の荒野。空は黒い。太陽が見えない。
青髪の少女――夏海は、その背丈に到底合わない機関砲を、ひょいと持ち上げた。六本の砲身が黒光りする。風が吹き荒れる。口角が上がる。
目の前には、同じく機関砲を携えた男。己の筋肉を誇示するかのように、袖のない服を着ている。夏海を見下ろす。睨みつける。
息を呑む。息を止める。心臓の拍動が、荒野に響く。
回転草が、夏海と男の間を縫うようにして、ころりころりと軽快に転がっていく。一つ、二つ。少し間をおいて、三つ。
夏海の長い髪が揺れる。東の方向になびく。雲が急ぐように流れる。ほんの一瞬だけ、太陽が足元を照らす。黒い軍靴が光を湛える。
前触れもなく、風が止んだ。
轟音が鳴る。火を吹く二つの機関砲。砲身が勢いよく回る。反動で肩が吹っ飛びそうになる。夏海は足に力を入れた。踏ん張った。機関砲を持つその手を、ぎゅっと握り直した。
銃弾が銃弾を相殺する。一弾も相手に当たらない。互角の戦い。
弾は尽きない。一方が倒れるまで、その火は潰えない。爆音が爆音を誘う。撃つ。撃ち返す。繰り返す。機関砲は止まらない。
雨が降り出した。夏海の前髪が濡れて、視界がままならない。されど賽は投げられた。砲身は回った。ならば撃つ。撃ち続ける。倒すまで。けだし、倒されるまで。
銃弾が、今、腹を射た。
途端に静まり返る。お互いに、機関砲を地面に落とす。
わざとらしく微笑んだのは、夏海。前髪をかき分けて、男を睨み、そして仰向けに倒れた。砂が舞う。夏海の顔に、雨が激しく打ちつける。
液晶に「外れ」の文字が映し出された。画面が暗転して、しばらく経つと、夏海は何事もなかったかのように寝転がっていた。髪に至っては、最初から濡れていなかったかのように乾いていた。
辺りは草原だった。夏の晴れた昼下がりだった。
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