家鳴り

緋雪

第1話

 祖母の家に越してきて、1年と4ヶ月が過ぎようとしている。

 

 祖母の家というか、建てたのは祖父で、その祖父が2年前に亡くなったのを機に、うちの家族は、こっちに引っ越してきたのだ。

 祖母の家には、実は曾祖母もいて、92歳になる。さすがに年には勝てないらしく、最近ちょっとだけ介護が必要になった。祖母は70近くになって、最近腰を悪くしてしまい、曾祖母の介護がキツくなったらしかった。

 それを私の両親は心配して、思い切って、みんなで祖母と曾祖母と一緒に暮らすことを選んだ。曾祖母を老人介護施設に入れるということも話し合ったらしいが、祖母が頑として反対したし、自分たちが元気なのだから、家族で助け合うのは当然だと母が父に言ったようだった。



「あ〜、びみょ〜に田舎だわ」

 私は嘆く。

「駅の近くまで行けば何でもあるじゃない。電車に乗れば、どこでも行けるし」 

 姉が笑いながら答える。

「お姉ちゃんはいいよ〜、職場が大宮じゃん? 会社の周りに何でもあってさあ。それに比べたら、この近くの駅なんて、すっごい小さいじゃん。なんもないし〜」

 風呂上がりにアイスを食べながら、台所で姉と話しているところへ、父が帰ってきた。

「田舎田舎言うなよ〜、東京まで通勤圏内だぞ〜」

 笑いながら、母を呼んだ。母が父の食事の支度をしに来た。

「ばあちゃんと、ハナちゃんは?」

 母に尋ねる。

「二人で一緒にテレビ見てる。茶の間にいるよ」


 私と姉は、曾祖母のことを「ハナちゃん」と呼ぶ。本人が「ひいばあちゃん」と呼ばれるより、そっちの方がよかったらしく、小さい頃からずっとそうだ。

 祖母のことは「ばあちゃん」なので、「お義母かあさん、ずるいなあ」って言っているけれど。


 

 この家は、古い。

 近くに大きな団地があるのだが、それがもう40年近く前に建てられたもので、それが建つ以前から、この家はここにあった。他にはまだ住宅も少なかったのか、家も広いし、そこそこ広い庭もある。

 

 ただ、古い木造住宅だからか、時々、「キィー」とか「カタン」とか、音がするのだ。

 私が中学を卒業するまで住んでいた東京のマンションは、鉄筋コンクリート造りで、そんな音はしなかったし、寧ろ上下の部屋の生活音の方が気になっていたのだが。



「ヤナリだね」

 ハナちゃんが言う。

「ヤナリ?」

「家が鳴くと書いて『家鳴やなり』。家がきしむのさ。昔は妖怪の仕業だと思われてたんだよ」

「軋む?」

「木は元々、呼吸するみたいに、空気の中の水分を吸ったり吐いたりしているのさ。その時に、木が縮んだりして、それで音が鳴るらしい。あたしも詳しくは知らないんだけど、お化けや妖怪のせいじゃないから安心しな」

 ハナちゃんは笑ってそう言った。


 加えて、父の話によれば、ハナちゃんの言った原因のほかに、人に感じないほどの地震による傾きや揺れ、家具の配置による傾きなどの原因もあるらしい。

「でも、古い家だからなあ。もしかしたら、そろそろどこか都合の悪いところがあるのかもしれないなあ」

 父が言う。

「あんまり酷いようなら業者さんに調べて貰わないといけないかもね。リフォームも考えないといけないかも……」

 母も、ため息をつきながら言った。


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