【前・後編 / 短編】彼女を救って転生した俺は、全てを思い出した。 ~今カノ(女子高生)と前カノ(教師)の間で揺れている俺は、誰に嘘をつき、誰に真実を伝えるべきなのか~

天道 源(斎藤ニコ)

俺は全てを思い出した。(前編)

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🔷はじめに

短編作品で、一万文字以内で完結します。

前編後編でわけています。

こちらは前編で、本文は約5700文字です。

(つまり、後半の方が少し短くなります)

後半は後日公開しますので、

『本作をブックマーク』しておくと、スムーズに続きが読めます。

またぜひ、前半時点での感想や展開予想を教えてもらえたら嬉しいです。

一番下から、+を何度か押して★を調整してみてください。

前編と後編とでどのように変化するかも参考にさせていただきます。

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🔷登場人物

・主人公 有間真一郎(ありま しんいちろう)

・前カノ 蓮戸真理愛(はすとまりあ)

・今カノ 戸鞠花蓮(とまりかれん)

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🔷本文





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 なぜ、こんなことになってしまったんだろうか。

 どこで、間違えたのだろうか。

 運命に翻弄される俺たちは、愛することさえ許されないのか――。


     §


 医者の娘で、高嶺の花のお嬢様で、誰もが美しいと評する『蓮戸真理愛(はすとまりあ)』が、歴史だけは立派な市立中学に引っ越してきたのは、秋のことだった。


 俺が中学二年、真理愛が一年だった。

 後から知ったのだが、彼女は、元々通っていたお嬢様中学校で陰湿なイジメを受けた末に、自宅近くの市立中学に転校してきたのだという。


 俺がそれを知ったのは、文化祭実行委員会で看板を制作していたときだった。


 中学校の文化祭など、みんな適当だ。高校みたいに出店がでるわけでもないし。

 絵がうまいから、という理由だけで一人、看板係にさせられた俺が、放課後、もくもくと一人で文化祭の看板を書いていると、一年の真理愛が近づいてきて、無言で手伝い始めた。

 彼女は実行委員会ではなかったが、ボランティア人員として準備を手伝っていた。

 これも後から聞いた話だが、学校になじめるか心配していた親を、安心させたいがための行動だったという。


 一つ下の学年に、めちゃくちゃ可愛い女の子が転校してきたという噂は悪友から聞いていた。

 しかし、それは想像以上だった。

 色素の薄い髪。

 白い肌。

 桃色の唇。

 顔は小さく、目は大きく、まつげは長い。


 なんだこれ。絵画かよ――俺は言葉を失った。


 それでもなんとか、礼を口にできた俺を、褒めてやりたい。


「手伝ってくれて、ありがとな。助かるよ」


 真理愛は、こくりと頷くだけだった。

 作業も終わろうとしたとき、真理愛は小さな声で言った。


「……先輩、仕事おしつけられて、つらくないですか」


 絹のようにしっとりと輝く長いが、心のうちを探るように、さらりと揺れた。


 俺はなんと答えれば良いのかわからず、軽口を叩いてしまった。


「まさか、そっちも押し付けられてるのか? そういうときは逃げるといいぞ」

「――っ!?」


 その反応がすべてを物語っていたが、物語自体は過去形だった。

 陰湿ないじめ――前述の理由を知ったのは、それからのことだ。

 いじわるなお嬢様学校から逃げ出してきた。

 そこでも、看板製作を押し付けられている先輩を見て、声をかけてしまったと。そういうことらしかった。


     §


 文化祭準備中、何度目も会話をしていると、お互いに心の内を暴露し合う仲になった。

 俺も、実のところ、人生を定めた神様に文句はあったんだ。


「俺の両親は事故死したらしいんだ。絵描きだったみたいで、写真と絵が残ってる。今は父さんの弟――おじさんの家に住んでる。小さい妹が居て、俺のことは本当の兄だと思ってるんだ」


 そんなことを話すと、真理愛がそっと肩に手をあてて、はげましてくれた。


 それ以外にも、真理愛からの愚痴もたくさんあった。

 とりとめもないことだったけど、俺たちは互いに支え合う仲になっていた。


 俺たちは周囲から噂されていた。「身分差がひどいから、付き合うことはないだろう。雑な組み合わせだ」なんて。

 悪友が笑っていたので、口に雑巾を詰めておいた。


     §


 交流は途切れることなく、数か月が継続し、春が来た。

 初めて、二人で水族館に出かけた。

 帰りにはカフェで紅茶を飲んだ。俺にとっては背伸びばかりの付き合いだったが、お嬢様の真理愛からすれば、当たり前の日々らしい。

 たしかに身分差だ。

 それでも、真理愛は俺を対等に見て、なんでも話してくれる。


「先輩には、なんでも話せちゃいますね。どうしてでしょうか……」

「医者の娘にもわからないなら、バカな俺にはわからないぞ」

「先輩はバカじゃありません。それに絵の才能があるじゃないですか。わたし、先輩の絵を見ていると心が温かくなります」

「ありがとな……」

「進学先は予定通り××高校ですか?」

「ああ。美術コースがあるからな」

「わあ! なら、わたしも××高校の特進クラスに進学しますね!」

「なんでだよ……蓮戸なら、特進クラスとかじゃなくて、偏差値自体が高い学校があるだろ」

「……先輩と離れるなんて、ヤです」

「は?」


 そのセリフを聞いた時の俺の顔って、どんなんだったんだろうな。

 少なくとも、そんなセリフを言った真理愛の顔が真っ赤であることはわかった。

 真理愛は言った。


「なんでも話せちゃう先輩に、一つだけ話していないことがありました……」

「なんだよそれ。今、思い出したのか」

「じ、じつは、今日、ずっとそのことを考えておりました」

「すごい敬語……」

「せ、先輩、しゅきです――あっ、すきです」

「すごい噛んでる……え?」


 今、俺、告白されたのか?

 信じられないが、本当のようだった。


     §


 それからは、本当に幸せな日々だった。


 真理愛が絵を描いてくれとせがむから、絵を描いたりもした。

 真っ白なカンバスにアクリル絵の具で色をつけるように、俺たちは、たくさんのことをして、たくさんの想いを送り、そして――大事なものをささげてもらった。


 時間は過ぎ、俺は無事に××高校の美術コースに合格した。

 卒業式のあと、二人で帰路につく。

 顔を真っ赤にした真理愛が言った。


「先輩、すこし離れ離れですね……」

「毎日会えるだろ」

「高校に行っても、浮気、しちゃだめですからね……」

「するわけないだろ」

「だ、だって、先輩、かっこいいですし、美人な先輩もいるでしょうし」

「自慢じゃないが、それは真理愛しか言ってないって。他のやつからは『身分差カップル』って言われてるんだから」

「他の人に見る目がないだけですから! 先輩は宇宙一です!」

「わ、わかった。逆に恥ずかしいからやめてくれ」


 そんな会話の果てに、どんなイベントが待っているか、あんたらは知っているか――?

 俺は知らなかった。


 映画ならキスシーンが待っているだろうし、歌ならば未来への希望が奏でられるだろう。

 だが、俺に待っていたのは――赤信号を無視した車だった。


 真理愛は俺を見ていた。そちらに車はいない。

 俺は真理愛を見ていた。そちらか車が突っ込んできた。


「真理愛、あぶな――」


 い。

 は、言葉にならなかった。

 俺の体は車に吹っ飛ばされていた。

 地面が冷たい。でも、体は熱い。


「――っ。――っ。」


 涙を流した真理愛が、俺の頭を抱いたようだが、なにも感じなかった。


 とにかく真理愛が無事でよかった。それだけだ。

 それにしても、申し訳ない。約束、何も守れなかった。

 さきほど突き飛ばした真理愛の体の、なんと軽いことか。

 俺という人生全てを受け止めるには、華奢すぎる。

 どうせなら、このまま、俺のことを忘れて、新しい人生を送ってくれ。

 本当にそう願ったんだ。本当に。


 俺は最愛の人に抱かれながら、短い人生を終えた――。





     §§§ 





 俺の名前は『有間真一郎(ありましんいちろう)』。


 医者の一家に生まれ、将来も医者であることを望まれている中学三年生である。


 放蕩癖のある大学生の姉が、両親の言うことを聞いてくれれば、俺も自分のしたいことを出来たのだろうが、残念ながら、姉は今日も朝帰りだったので、無理だろう。


 俺は勉強の息抜きに開いていたスケッチブックを閉じた。

 そこには鉛筆で描かれた女性の絵が描かれていた。何枚も何枚も同じ人物を描いている。昔から、なんとなく人物画を描くと、その女性を描いてしまうのだ。


「……さて、勉強するか」


 俺が医者になるには、それなりに勉強が必要だ。

 天才ならよかったが、俺には『絵』という特技しか存在せず、勉強は凡人だったから。

 進学先の高校も、優秀な進学校ではなく、近隣の特進クラスのある私立高校になった。

 でも実は、ひそかに行きたいと思っていた高校だった。美術コースがあるからだ。


 ここまで言えばわかると思うが、本当は、絵に関する仕事につきたかった。

 昔から絵を描くのが好きだった。

 なぜ俺にこんな思いや特技があるのかはわからない。医者一家の異端児は天才肌の姉に譲るとしても、クリエイティブな血筋ではないはずだが。


 まあいい。

 夢は見ず、諦めて勉強をしよう――。


     §


 俺には彼女が居る。

 幼馴染というやつだ。

 同級生。若干、舌足らずで、幼く、甘い声。

 

「ね、シンイチロ、ここ教えて?」

「自分で考えろよ」

「教えなさい。さもないと、路上でチューするから」

「は、はい、教えます」


 声は可愛いが、中身はとんでもない奴だった。


 隣の家に住んでいる幼馴染の名は『戸鞠花蓮(とまりかれん)』という。


 真っ黒な長い髪をツインテールにして、やけに可愛い服を着こなす。

 背は低いが、暴力的で、高圧的。

 なるべく近づきたくないタイプだが、なにぶん、母親同士も幼馴染という奇跡の関係であるため、なにが起きても付き合いが終わることはなかった。


 それどころか、俺は花蓮から告白されたのだ。

 ある日のことだ。 

 暴力的なことばかり言う花蓮の口が、そのときばかりは、かわいらしく動いた。


「シ、シンイチロは、どうしようもないやつだからね。このままだと、きっと死ぬまで一人でしょ? だから、アタシが、その、面倒見てあげるから――付き合ってあげてもいいけど?」

「え? 話がよくわからん」

「~~~~~~っ」

「いたっ、蹴るな!」


 本当によくわからなかったが、要点をまとめて、ようやく理解した。告白だ。

 恥ずかしいというより、驚いた。

 でも、言われてみれば、俺も花蓮が好きだった。

 絵を描いていることを褒めてくれたのは、花蓮だけだったし、それを認めてくれたのも花蓮だけだった。


 昔、


「あんたは医者にならないといけないかもしれないけど、アタシのために絵を描いてくれれば、専属の画家になれるじゃない?」


 と、そんなことを言われて、妙に感心していた。

 あの日から、心惹かれ始めたに違いない。

 俺は、花蓮の想いを受け止めることにしたのだ。


     §


 日に日に甘えてくる花蓮は、可愛かった。

 なにより、俺の絵をいつも褒めてくれる。

 クリスマスプレゼントに、俺に絵を描いてもらいたいと言い出したときは、とにかく嬉しかった。


 いつしか俺は花蓮にハマっていた

 もちろん今までも好きだったと思うが、月日の中で、俺と花蓮の関係は完成されたのだ。


 受験になると、俺と花蓮は二人で勉強を始めた。


「あんたが頭いいから、アタシの偏差値もあげないといけないんだからね。ちゃんと教えなさいよ?」

「わかったけど、右手にしがみつくなよ、利き手が動かせないだろ」

「あ、ごめん。こっちに座る」

「……なんで俺の足の間に座る。書きづらいだろ」

「え? いやなの?」

「そういうわけじゃ……」

「エッチは、高校合格してからって言ったでしょ? それに、最初は顔が見える位置がいい……」

「そういうわけじゃねえよ!」

「やだ。興奮してるの? シンイチロのえっち♡」

「こいつ……」


 控えめに言っても、楽しい日々だった。


 あの日、すべてを思い出すまでは――。


     §


 四月だった。

 無事に、俺も花蓮も高校に受かっていた。

 希望の私立高校。

 美術コースではないが、それでも昔から気になっていた学校だ。

 医者になる未来は変えられないだろうが、一つ、夢が叶ったようで嬉しかった。


 俺は花蓮と共に学校を目指していた。

 

「シンイチロ、今日から新しいスタートだけど……これからも、よ、よろしくね?」


 自分で言っていて恥ずかしくなったらしい花蓮が、俺の手を握ってきた。

 入学前の通学路で手をつなぐというのも、なかなか気を使う。だが、俺はあまり気にならなかった。


 それ以上に、心がざわついていたのだ。

 

 夢見が悪かったせいだろう。

 内容はよく覚えていないが、一人の女性が夢に出てきた。

 それは不思議なことに、俺がいつも描く絵に現れる女性だった。


 過去、一度だけ人物画スケッチブックを開いた花蓮が「だれそれ!? 浮気! ふざけんなあああ! うええええん」と怒ったり泣いたり暴走するくらいには美人だが、正直、俺も誰だか知らないので、なんとも答えようがなかった。


 なぜ夢にそんな人物が出てくるのか――それを考えながら、校門を抜けた、その時だった。


「あれ……?」


 視線の先に、学校関係者らが居た。

 新入生を迎え入れてるために、在校生や教師たちが立っていた。


 その中に、なぜか、見知った顔があった。

 女性だった。

 

 記憶の中、そして絵の中の少女にそっくりだった。

 近づいていくたびに、確信を得た。

 

 あの絵の少女だ。

 パンツスーツを身に着けている。

 色素の薄い髪はポニーテールに。

 白い肌と小さな顔、それに大きな目。

 すばらしいプロポーション。

 ただただ美しい。

 

 夢や絵の少女にくらべると、ある程度年を重ねているようだが、どう見ても同じ人物だった。


 花蓮はまだ気が付いていない。

 それはそうだ。俺は夢の中で見たが、花蓮は絵でしか見ていない。

 見せたのは一度だけだし、ち密な絵でもない。


 動きを見るに、おそらく、教師だろう。


 周囲を歩く新入生は、ざわついていた。

 皆、美しすぎる女教師を見て、呆けたり、噂したり、興奮したりしていた。


「あ、ちょっと……シンイチロ?」


 俺は知らず、花蓮の手をほどき、女性に近づいていた。

 どうやら、クラス分けのプリントを配っているようだった。


 女性は俺に気が付いた。


「はじめまして、××高校へようこそ。これはクラス割ね。自分の名前の書いてある教室へ向かってください。わたしは一年A組の担任だから、もしご縁があったら、よろしくね」


 大人の女性は、微笑みながら、紙を差し出した。

 俺はそれを受け取る――あやまって女性の手に触れてしまった。

 

 そのときのことは、今でも覚えている。

 文字通り、体に電気が走った。

 脳みその普段使わない部分が刺激され、体が一瞬、痙攣した。

 息が止まる。

 女性が――先生が、心配そうに俺を見た。


「……? 大丈夫?」


 俺は、震える体を抑えるのに必死だった。

 いつの間にか手を離していた花蓮も心配そうに俺を見ている。

 

 まるで、時が止まった部屋のなかに閉じ込められているようだった。

 たった一秒のことだったのに、十数年、その部屋に閉じ込めらえたようだった。

 

 でも、 大丈夫。

 復帰した。

 記憶は整理されている。

 合計三十数年分の時間を、俺の脳みそは無事に受け止めてくれた。

 

 俺は先生の顔をじっと見つめた。

 冷静だ。冷静にいけ――しかし、出てきた言葉は俺の想いを代弁していた。


「……はい、大丈夫です。蓮戸先生」

「ならよかった――あれ? 今、わたしの名前……?」


 俺は全てを思い出した――。





(後半へ続く)

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【前・後編 / 短編】彼女を救って転生した俺は、全てを思い出した。 ~今カノ(女子高生)と前カノ(教師)の間で揺れている俺は、誰に嘘をつき、誰に真実を伝えるべきなのか~ 天道 源(斎藤ニコ) @kugakyuu

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