第6話 残念な子

「はぁ……幸せぇ……」


 悪魔、炒飯で幸せになる。


 お腹に手を当てもうこれ以上の悔いはないと言わんばかりの表情を浮かべる白髪悪魔ことベルさん。作り手としてはとても嬉しい事なのですが食事中終始うまうま言ってて笑いそうになりました。


「皿下げるぞ?」


「ありがとー」


 ベルは満腹になったからかまるで実家の様にくつろぎ始める。俺はあなたのおかんじゃないからね?それと食べ終わった後すぐ横になると牛になるわよベルちゃん?


「コムギちゃーんこっち向いて~」


「……」


「むぅ……コムギちゃ~ん?」


「……」


「……ふっ、私に懐かないなんて中々やるねコムギちゃん。別に悲しいとか寂しいとか猫に全く懐かれない残念な悪魔とか全然思ってないし。全然傷ついてないし……ぐすん」


 洗い物を終えた後に待っていたのは何ともこっけ……じゃなくて微笑ましい光景だった。猫撫で声で何とかコムギと和解しようとするも全く相手にされないベルさん。おそらくあれは体を触りに行ったら間違いなくシャーシャーされるでしょう。悪魔……なんと悲しい生き物なのでしょうか。


「にゃ~」


 ベルとコムギの方へと近づくとコムギは可愛らしい声を上げながら俺の足に体をスリスリと擦り付けてくる。可愛い、可愛すぎて変な声出したい。


「私は猫にも悪魔にも人にも好かれないダメダメな悪魔ですよ……はいはい知ってましたよそんなこと……はは、ハハハハハハ」


 先ほどまでの幸せそうな表情は何処へやら、まるで壊れた人形の様に笑い始めるベルに俺は思わず「えぇ……」と声を漏らしてしまう。あまりにも情緒不安定すぎない?さっき作った炒飯にやばいブツを入れた記憶は全くないんですけど?プラシーボ効果で俺の作った炒飯を勝手に劇物にしないでいただきたい。


「コムギは特に人見知り激しいからあんまり気にしない方が良いぞ」


「そ、そうだよね!別に私が悪いって訳じゃないよね!」


「あぁ……うん。そうなんじゃない?」


「適当すぎる!慰めるなら心を込めてちゃんと慰めてよ!」


「うんうんそうだねそうだね」


「より適当になってるんですけどぉ!?」


 ばれたか。俺相槌検定2級は保持してるんだけどなぁ……まさか2級じゃ通用しない相手が現れるとは、今度相槌のお勉強しないとだなこれは。


「まぁまぁそんなことはおいといて」


「そんなことって……扱いちょっと雑だとは思わない?私はそう思うよ?」


「それも一旦置いといて」


「私は物置か……って言ってもそれも置いとかれるんですよね。はいはい、私は物置ですよ。ツッコむことすら許されなかったしょうもないネタの物置ですよ……」


「ごめんって」


 なんだこいつめんどくせぇな!


 急にメンヘラみたいな事を言い始めたベルに俺は謝罪する。普段であれば初対面の人にこんな扱いをすることは絶対にないのだが何故かこの悪魔相手には雑になってしまう。俺ね、思った。やっぱ出会い方って大事だわ。


「まぁ今回は許します……それで?どうしたの?」


「いくつか質問があります」


「私見たことある。これ圧迫面接って言うんだよね」


「ちげぇよ。普通に疑問に思ったことがあるだけだわ」


「なんだぁ、そう言ってくれないと勘違いしちゃうじゃ~ん。それで?悠誠は何が聞きたいの?」


 質問がありますって言ってすぐに圧迫面接が連想されるの控えめに言って精神科を受診した方が良いと思う。今度精神科に行ってらっしゃい、一人で。


「何でベルは公園にぶっ倒れてたんだ?悪魔って日本こっちに来る時にある程度支援してもらえるって聞いたけど?」


 悪魔が日本にやって来た時に一番困るのは何か?それはお金である。日本では物の売買は全てお金を介して行われる。お金が無ければ洋服もご飯も水も何もかも手に入れることはできない。お金は……命より重い……!のである。


 これを踏まえて考えてみましょう。異世界からやって来た悪魔さんは日本のお金を持っているでしょうか?はい、持ってるわけないですよね。ここで持ってると答えた人は正直に手を上げてください、ちなみに上げても何の意味もございません。


 とまぁ少し話は脱線したが悪魔たちが日本にやって来た時はレベル1所持金0のチュートリアル前の主人公状態。そんな彼ら彼女らを世に放り出せば大変なことは火を見るよりも明らか。そのため日本にやって来た悪魔を支援するためのあれこれが存在するのだ。


 例えば契約者や自分の働き口が見つかるまでの間衣食住を支援してくれる悪魔専用施設があったり、日本の法律やマナーを学ぶための学校が設置されていたり。大抵の悪魔は日本に来てすぐこれらの支援を受け、ゆっくりと日本の生活に順応していくのだ。


 さて、ここでベルさん──────俺の目の前にいる悪魔を見てみましょう。日本に来て二日、食べ物や飲み物を持たずに公園でぶっ倒れ、ママから見てはいけない物……じゃなくて者判定されているではありませんか。どうしてそうなった?


「ふっ……それには深い訳があるんだよ悠誠君」


「ほう……その深い訳とは?」


「それはね─────夜中にこっそりばれない様に日本に来たからです!」


「は?」


「ガチ目のは?やめて!普通に怖いから!」


 おっといけないいけない。あまりにも理由が浅すぎてつい声が出てしまいました。


「で?誰にもばれない様に日本に来た結果何も出来なくなって公園でぶっ倒れてたと」


「概ねその通りだよ悠誠君」


「何でそんな頭良さげな振りしてるんだよ……普通に日本に来れば良かっただろ」


「その通りでございますご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」


 ベルは俺の言葉を聞いたとほぼ同時に頭を下げる。自覚があるだけまだましなんだけどそれにしても意味不明。


「一人で来たのには何か理由でもあるのか?」


「特にないよ?異世界転生みたいに都合よく進むかなぁって思って来てみたら死にかけたってだけ」


「うん、異世界漫画は神様の力で何とかなってるからね」


「ね。私悪魔だから神の加護とは遠い存在だったもんね~。気づいたときには時既に遅し……いやお寿司状態だったよ」


「……はぁ」


「ねぇ!?今何でため息吐いたのさ!ねぇ!?」


 俺気付いちゃった、この悪魔もしかしなくても残念な子なのでは?

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