祝眼王弟の変身譚。【封緘の銀】が目指す天下泰平!
野干かん
第一章 龍蛇の交わり
一話 封緘の銀 其之一
「
「言いっこなしですよ、時短の為にオオゼリ市近郊を通過しようとした先輩のせいなんすから!
「その奥だ、一〇発も有れば追っ払えるだろ!?」
「…あぁー、三発しかないんすけども…、補充しました?」
「あ゛」
「…。」
中型貨物魔導力車に乗っている二人は、如何物と呼ばれる化け物に追われながら、なんともいえない空気を作り出しつつ冷や汗を流す。
予備点検を行った結果がこれならば、やはり職務前に各所点検活動を毎日行うべきなのだろう。「これからは点検と補充を確実に行うさ」なんて言葉をひり出すも、「今回すら危ないんすけどね」と返されて肩を落とす運転手。
「やれるだけやりますけど、駄目だったら死に物狂いで車走らせてくださいよ」
「おう」
魔晶弾を装填した
――パシュン、と音を立てて放たれたのは、魔晶へ過度な魔力が流し込まれ魔晶が崩壊、流し込まれた魔力が
「数多すぎ。警報出さないと拙いくらい居ますよ」
「そんなに!?クソがっ、街へと向かおうもんなら俺等ごと攻撃されかねないぞ」
「一方的に喰われるのは癪ですが、心中なんて
パシュン、パシュン。残る二発も撃ち込んでみた結果は、…焼け石に水。
「相手が諦めてくれることを祈りましょうかね。…一〇発あっても厳しかったと思うんで」
「…後ろを見たくなさすぎる…」
「見ないほうが気楽に運転できると思いますよ」
「…。」
二人に諦念の雲が
「おーい、そこの貨物車。ヤバそうなのを後ろに引っ連れてるけども、対処出来そうか?」
「無理です!もうお祈り中でして…って
貨物自動車の側面を走っていたのは、中型か大型の二輪車に跨る一五歳前後の黒髪蒼眼の子供。驚きはしたが、渡りに船と小さく安堵する。
「
「う、うっす。全力で走らせろって!」
「良くわからんが了解した!」
「へへ、いい子、いやいい大人だ!それじゃあ天下泰平の為、人助けといくか!」
少年は腰鞄から魔晶を取り出しては、手首に装着した装飾品に押し込み。
「『
「場所が場所だが、如何物が街に近付きゃ、住民たちも安心して過ごせねえんだ。全滅してもらうぜ」
完全装備の少年が引き金に力を込めれば、先ほどの運搬業者が放った銃撃とは比べ物にならない威力の弾が空を穿ち、如何物の大群を薙ぎ払っていく。
貫通性、殺傷性そのどちらを取っても一級品の魔導銃から八発の魔晶弾が放たれれば、如何物の群れは半壊しており
(…後片付けは、街の方で頼むか)
手に携えていた魔導銃は弾が切れたので消し去り、二輪車を行く手を塞ぐかのように停車させれば、如何物たちは少年を喰い殺す為に周囲を取り囲み機を伺う。
「掛かってこいよ」
二輪車まで何処かへ片付けた少年、彼は腰に
「来ないならこっちから行くぜ。
鞘の内に魔力爆発を引き起こしてはそれを勢い付けに、片刃の剣である刀を振るい如何物の数匹を討ち取った。
堅牢な守りと鋭い刃を手にした少年に、如何物は成す術無く死骸へと変えられていき、数え切れない程の群れは何時しか最後の一匹を残すのみ。
然し然し、その最後の一匹は、少年と如何物の戦闘を
「お前が親玉か、見た目的に…
(如何物の死骸を喰らって力を得る如何物だが、万全の俺であれば問題ない)
力を蓄えた如何物喰らいは、身体の内をグネグネと蠢かし形状を変化させ、八本足の大狼へと転じた。
「……」
僅かな
左足を軸足に身体を右に四半分回し、側面を取っては握る刀を上向きに返す。
「『爆ぜり、散らして、
ドゴン!と刀の背から爆発が生じて、勢いのまま斬り上げを繰り出せば、肋骨から綺麗に入った刃は大狼の臓腑を、背骨を斬り進んで血飛沫を上げる。
「悪いが、兄貴の治めるこの国に、如何物居場所はないんでね」
止めに首を落とせば大狼は息絶えて、血の海に身体が沈んでいく。
刀を軽く叩いて如何物の血を払い、スチャリと鞘に納めれば全身を覆っていた鎧は
「ふぅー…」
(偶然ではあったが助けられてよかった。…然しこの区域で警報もなしに如何物の群れが現れるとは…、とりあえず報告するか)
少年は蒼眼を銀色に変えては煌めかせ、自身の姿を小さな翼竜へ変身し大空へと飛び立っていった。
―――
龍神より生まれし龍の三子族が内、
陽前王マツバの第四子であり後添いの第一子という非常に危うい立場に生まれた彼は、両の瞳が銀色に煌めいており、それは龍神からの祝福と言い伝えられている影響から、離宮にて固く護られて育つことになる。
とはいえ第一子から第三子及び前王妃の後援者たる国政を担う議会員たちからすれば面白くなく、第一子であるヒノキを急ぎ祭り上げ王とする流れが出来上がっていった。
まあそれはそれ、第四子モミジはそんなことをお構いなしに産声を上げては、自身が龍人として生まれたことを悟っていく。
(ふむ…、これで何度目の転生だったか。どうして転生しているのか、どういった生を歩んできたかも記憶が損耗して思い出せないが…きっとこれが最後であろう、そんな気がするから気楽に行きていくとしようか。……生まれたてとは何も見えんし、周囲が何を言っているかも分からんから面白くはないな)
そう、モミジは転生者であった。前世及びそれ以前で何であったか、どう生きたか、全ての記憶も失われた彼は見えない母親を掴むように手を伸ばし、赤子らしく泣き声を高らかにする。
―――
時は過ぎてモミジが七歳になると、第一子であるヒノキは齢三一となり正式に王位を継ぐこととなった。
「よっ兄貴、戴冠式お疲れさん!」
くりっとした目元には銀の瞳が納まり、明るい茶色の髪を揺らす紅顔の美少年は、腰部と臀部の間くらいから髪と同じ色の鱗で覆われている尻尾が伸びており、陽前王ヒノキの執務室の窓から侵入しては笑顔を露わにした。
「…モミジぃ、お前戴冠式サボったな?」
「だってさぁ、俺が出てくと色々と面倒なことになるだろ?」
「出てこないのも面倒なのだ。祝眼の王子様が出てこないと、俺の築く治世が疑われるのだぞ?」
「そういうことなら、手っ取り早く兄貴に箔をつけてやるよ。へへっ」
「あ?…おい、待てモミジ!」
ヒノキの言葉を軽く無視したモミジは、窓枠に足を掛けて銀の瞳を輝かせては飛び降りる。自重によって落下する相手を探すのであれば本来下を探すのだが、ヒノキは窓から空を見上げて小さな翼竜を発見。「余計なことを言うべきではなかったか…」と呟きを漏らした。
次の瞬間、銀の瞳を輝かせた翼竜は、天を駆ける金色の龍へと姿を変えて、城の真上を陣取るように二周三周と空を泳ぎ、霧散するかのように行方を晦ます。
さて、龍神から生じた龍人の国、その王が代替わりする戴冠式の日に、王城の上空にて金色の龍が現れればどうなるか。祝祭を行っていた城下では、てんやわんやの大騒ぎ。
祝福の眼をもった第四王子、いや王弟に引き続き今上王まで龍神の祝福を得たと、七日七晩も市井ではお祭り騒ぎが継続されたのだという。
「どうすんのよ、この始末…」
「ヒノキや」
「父上…」
「アレは…聞くまでもないか」
「ええ、モミジです。戴冠式に顔を見せなかった事を叱る
「城下は…大賑わい間違いなし、三日三晩は踊り狂うじゃろう」
「五日五晩に私は賭けますよ」
「じゃあ俺は七日七晩で」
「「…。」」
超常の変身能力と龍神に祝福された銀の瞳を持ちし王弟モミジ。彼のやらかしを怒る気にもなれなかったヒノキとマツバは、小さく溜息を吐き出して事後処理の大変さを想像するのであった。
「そうだ。モミジの欲していた本と魔晶それと魔導具類は、モミジの離れに送ったから、暫くは大人しくていてくれ」
「よっしゃ!ありがと兄貴!」
「モミジや。毎度言っているがその力を発現するところは、限られた者以外に見られるでないぞ」
「わかってるってー!そいじゃ親父もまたな〜」
言った傍からモミジは翼竜へと姿を変えて、自身の為に用意されている離れへと飛び去っていった。
「テンサイさんとは性格が似てませんし、父上似ですかね?」
「阿呆言え。あんな破天荒じゃあ王は務まらんわい」
「モミジが国を治めたら面白そうではありますがね」
「勘弁してくれ」
肩を竦めたマツバは、重責をおろしたその背をヒノキに向けて、ゆったりと執務室を後にした。
(父の背、昔はもっと大きく見えたのだが、私も成長できたということかな)
両翼を広げて滑空していった小翼竜のモミジは、王城の敷地内に存在している彼が所有している離れへと向い、窓枠に着地し
「ふふーん」
(さーて、兄貴が用意してくれた品はどこかな~)
パチンと指を鳴らせば離れの照明に明かりが灯っていき、それらしき物を探せば見慣れない木箱が三つ程並んでいる。
勢いよく上蓋を持ち上げると、箱の中には整然と詰め込まれた本や魔晶、魔導具の数々が収められており、モミジは紅潮させながら魔晶を取り出しては頬ずりをしていく。
(これこれっ!この世界に於ける文明の要であり、数々の魔導具の原動力であり燃料!はぁ~…、最近ちと遊びすぎちゃって魔晶不足になってたんだけど、兄貴のお陰で暫くは困らないな!…、城内から
「おっ、魔導銃まで入ってる!魔晶弾は…
説明書を読んだモミジは、指を鳴らしながら魔法名を口にして魔導銃を使用できないよう封印を掛けていく。強烈な凶器ではないものの、これ一つで人一人を難なく殺めてしまえることを考慮すれば、今すぐ使うものでない限り封印を施して使用不可にするのが無難だからだ。
「ふむふむ…なるほどなるほど!中々面白そうな物を見繕ってくれるじゃないか兄貴は!はっはっは!…となるとこっちは、あぁーやっぱり俺のお仕事か」
三つある箱の内、二つは彼の欲した品物たちだったのだが、最後の一つは乱雑に詰め込まれた魔導具や魔晶を用いる武器の類。
これらは違法に、認可を受けずに製造された密造品で、陽前軍及び警察局によって押収された物品の一部である。モミジはこれらの解体、必要に応じては封印作業をすることで、兄から様々な
『祝眼の王子(王弟)』と広く呼ばれるモミジ=
(さっさと仕事を終わらせて、心置きなく新作魔導具開発に移るとするか。…にしても多い、城外の事は多く知らないけれど治安が乱れているってことなのかね?今度、それとなく兄貴に聞いてみよっと)
違法魔導具を玩具にする事無く、モミジは真面目頻りな表情で解体及び封印作業を行っていく。
「モミジー!いるのは分かっているのよ、鍵を開けなさーい!」
「え?あー、ちょっと待ってろー!」
外から可愛らしい声が響いてきて、モミジは自身が窓から離れへ入ったことに気がついて、入口へと向かう。
「『
魔法名の詠唱を終えれば扉の鍵が開かれて、モミジと同年代の少女が侍女と共に姿を見せた。
彼女はヒノキの娘である、サクラ=
「ちょっとぉ!なんでお父様の戴冠式に出てこなかったの!テンサイ様はお越しになられたのに!」
薄い金色の御髪を揺らし、頬を膨らませてぷりぷりと怒る姿は可愛らしく、怒られているという実感が湧いてこないモミジである。
「俺が出ても出なくても主力議会員からは睨まれるし、正直アイツラの顔を見るのは面倒以外のなんでもない。なら出ない方を、ってだけ。それに金色の龍は王城の上に現れただろ」
「モミジのせいであちらこちらで大騒ぎ!お父様の王権に…箔?は付いたけれども、祝福の銀眼を使って好き勝手しすぎなの!もう!」
「次の戴冠式にまで俺が国内にいたら、そっちには出てやるから」
「ザクロ兄様でもミモザでも大喜びしそうだわね」
「サクラは王位を狙ってないのか?」
「お祖父様の苦労を見てればさ、やりたいなんてちっとも思わなくない?」
「わっかるー」
「…、なんにせよ!お父様のことモミジも好きなんだから、式典とかにはしっかと顔を出すようにね!」
「はいはい」
ひらひらと手を振って気怠気な返事を行い、魔導具を弄っていたこともあるので手を洗ってから、魔導具で湯を沸かし茶を淹れる。
「はい、茎茶。茶菓子は切らしてるから」
「ありがと」
「ありがとうございます」
侍女にも差し出せば先ず先に口をつけ、毒が入れられてないことを確かめた。
「はふっ、そういえば仕事の最中だった?」
「そんなとこ。一区切り付けたかったから丁度よかったけどな」
「解体屋のモミジ、封緘》の銀とかカッコいい名前もらっちゃってさー。はぁーあ…私のほうが二つ年上でお姉さんなのにぃ」
「サクラだって何れ花開くさ。俺は早熟ってだけ」
「大人びちゃって!」
(記憶は殆ど吹き飛んでるけど、赤子の頃から意識がしっかりしてたんだ。悪いけど土台が違うっていうかなぁ)
ふくれっ面のサクラを茶菓子にモミジは茶で喉を潤す。
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