俺の領地だけ温泉が大盛況で無限レベルアップ

桜井正宗

第1話 追放と婚約破棄

 商人として成功を収めていた俺は、いよいよ伯爵令嬢フィリスとの結婚が迫っていた――ハズだった。


「婚約破棄よ、カイン」

「――は?」


 冷めた表情でフィリスはそう告げた。

 突然すぎて意味が分からなかった。

 今まであんなに愛し合ってきたじゃないか……!


 大広間で混乱していると彼女の父である伯爵も険しい表情で現れ、俺をゴミでも見るかのようににらんだ。



「……カイン。貴様をグラナス領から追放する」

「なッ」



 なんだって……なんだよそれ。意味が分からねえ!

 俺はこの領地で商人として頑張ってきたのに。だから認められ、フィリスとお近づきになれて幸せな毎日を送れると、そう信じて疑わなかった。


 なのに。


「残念だけど消えてちょうだい」

「おい、フィリス! 昨日までベッドを共にしたじゃないかッ!」

「なんのことかしら?」


 とぼけるフィリスは、背を向けた。

 美しい紫色の長い髪を揺らしながら大広間を去っていく。……まて。まってくれよ!

 手を伸ばそうとすると、伯爵が間に入ってきた。



「娘に触れるでない、詐欺師が!」

「え……」


「商人カイン。貴様は我々に詐欺商品を売りつけたな!」

「そんなわけがない! ポーションや魔導書、全部本物だ」


 しかし伯爵は聞く耳持たんと手を鳴らす。

 すると廊下から複数の衛兵が駆け寄ってきた。


 え、おい……まさか!



「伯爵! 俺は真っ当な商人です! 娘さんを愛している!!」

「黙れ小僧!! 貴様程度の平民とは釣り合わぬと……なぜ分からん!」


 衛兵に腕をガッチリ捕まれ、俺は引きずられていく。



「フィリス! 伯爵!! 俺は……俺はああああああッ!!」



 ・

 ・

 ・



 グシャッと音がして、俺は泥まみれになった。

 衛兵が容赦なく俺を捨てたんだ。



「カイン、殺されなかっただけマシと思えよ! じゃあな、詐欺師!」



 ……くっ。俺は詐欺師じゃねえ。


 まてよ、待ってくれよ……!


 けれど抵抗しようものなら衛兵が俺を問答無用で切り捨てるだろう。でも、いっそその方が楽だったかもな。


 ここは領地外の『魔女の森』と称される危険エリア。商人としてこの周辺は渡り歩いてきたので知っていた。



「……くそ。なんで、どうしてこんなことに……」



 ひとまず離れないと殺される。

 泥を払いながら先へ進む。


 幸い、販売用のアイテムを『アイテムボックス』に収納していた。確認しても、どれも本物で間違いない。効果だってある。

 試しに回復ポーションを飲んでみたが、やっぱり使えた。詐欺なんかじゃない!


 今直ぐに撤回を要求しに行ってもよかったが……いや、絞首刑かギロチン直行コースだな。それだけは嫌だ。


 くそ、くそ……!


 危険な森の中を歩いていると、気配を感じた。



『……誰か!』



 ん、なんだ? 女の子の声?



 草木を分けていくと、その先の開けた場所で女の子が二人組の男に襲われていた。



「げへへ! こんな森の中じゃ誰も助けてくれねぇぜ!?」

「おいおい、この尖がった耳見てみろよ。エルフだぜ!」



 二人組の男は、明らかにガラの悪いヤバい連中だった。おいおい、スキンヘッドとモヒカンって……!



「ああ、むちゃくちゃ美人だな。胸も大きいぞ!」

「ヤっちまえ!!」



 金髪のエルフを押し倒し、服をビリビリ破いていた。



「きゃあ! やめて……やめてください……!」



 だが、大男の力に成す術なくエルフは無理やり服を剥ぎ取られていく。……ヤツ等、なんてことを!



「きゃあ、だって! 可愛いなオイ!」

「兄貴! コイツをヤっちまったら奴隷どれいとして売りましょうや!」


「名案だな!」



 邪悪に笑う二人組。

 俺は怒りの頂点に達した。


 理不尽だ。あまりに理不尽だ。なんの落ち度もないあのエルフがなぜ、あんなことをされなきゃいけない――!



「やめろおおおおお!!」



「「!?」」



 販売用のアイテムだったが、あのエルフを助ける為なら惜しくはない。

 消耗タイプの魔法スクロール、それを使った。



「くらえッ! ファイアーボルト!!」



 スクロールが赤く光ると、なにもハズの空から炎が連続して落ちてきた。それはあの男たちに激突して炎上した。



「「ぐおおおおおおおおおおお!」」



 二人組だけを燃やし尽くし、けれど丁度近くにあった沼地に彼らは飛び込んだ。……ジュゥっと肉のげるような音がした。


 スキンヘッドもモヒカン野郎も沈黙。


 俺はその間にエルフの少女を助けた。



「逃げるぞ!」

「……えっと」


「いいから!」



 恐怖で動けないのだろう。ならばと俺は少女を背負って走った。これでも商人だからな、力仕事だって出来るのさ!


 ダッシュで魔女の森を駆けていく。


 大樹が見えてきて、そこで彼女を降ろした。



「……助けていただき、ありがとうございました」

「いいさ」


「あの、わたしはエルフの郷アヴァロンの住人でエルナと申します」



 エルナか。可愛い名前だなと俺は思った。



「俺はカインだ。商人さ……って」



 よく見るとエルナの服はボロボロで、ほとんど半裸だった。あの男共が破ったからだ。――いかん、目のやり場に困る。


 エルフの白肌は神々しく光り、胸も大きくて……見ちゃだめだ。


 くるりと背を向け、俺はアイテムボックスから『アクアドレス』を取り出した。



「こ、これは?」

「君にプレゼントだ。ほら、服がボロボロだろ」

「でも、こんな高そうなの……いいのですか?」



 もともとはフィリスにプレゼントするつもりだった。でも、もうその必要はなくなったからな。とても残念だけど。



「ああ、いいんだ。緊急事態だからね」

「ありがとうございます……!」



 エルナは泣きそうな表情を浮かべながらも、嬉しそうにドレスを着ていた。しばらくして振り向いて良いと言われたので、俺は彼女の方へ。



「…………」



 あまりに綺麗で見惚みとれてしまった。

 金髪のエルフが着るとここまで映えるものなのか。絵画にしたいくらいだ。



「あ、あのぅ」

「す、すまん」


「いえ。そのカインさん」

「ん?」


「エルフの郷アヴァロンへ来ませんか」

「エルフの郷へ?」


 確か、エルフの郷は滅多に入れないって聞いた。特に人間は忌避きひされていると噂されているほどだ。恐らく戦争のせいだろうな。


 俺はうなずいた。

 どうせ行くアテもなかったからな。


 目を閉じるように言われ、俺は腕を引っ張られていく。……なるほど、行き方は内緒ってワケか。


 しばらくして足が止まった。



「到着しました」

「もう?」



 目を開けると、そこには大きな街並みがあった。こ、これがエルフの郷? もっと村みたいなものを想像していたが、予想以上だ。

 建物は全て『煉瓦レンガ』だった。

 帝国にあるような立派な建物と、ほとんど変わらないな。


 そして、丁度そこには多くのエルフが農作業をしていた。一人の老人エルフが俺たちに気づいてこちらに歩いてきた。



「お~、エルナではないか。それと……人間ですな。珍しい」



 フサフサの白髭をとぎながらエルナと俺を見つめた。


 エルナは「村長! この方がわたしを助けて下さったのです」と説明してくれて、村長は「そうじゃったか。ワシからも礼を言おう……えっと」と視線を向けた。



「申し遅れました。俺はカインで商人です」

「ほぉ~、商人。……フム、気に入った! お主にこのアヴァロンの領地拡大をお願いしたい」


「え……」


「なぁに、領地拡大といっても戦争する必要はない。領地のレベルアップを頼みたいのじゃ」



 というか――そもそも、ここはどこの領地なんだ?



「レベルアップって……」

「大丈夫。ここはラグナレア王国の領地なので、王も寛容かんようなのですじゃ」



 こ、ここがラグナレア王国ぅ!?


 ――って、思ったより近かった。


 そうか。帝国とそう離れていない場所だったんだな、ここ。

 けど、領地をねぇ……面白そうだけどな。商人としても。


「お願いします、カイン様」

「……解かったよ、エルナ」


 エルナのお願いもあって断れなかった。

 しかし、なにをどうしようか。

 この領地をどうやってレベルアップすりゃいいんだ……?

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