フランクな僕たち

和泉なつき

第1話 お母様とのお約束

事の発端は先生を殴った中学の時。

それが大事となって、あたしは退学処分を下されてしまった。


――…が、母が何度も頭を下げてくれたお蔭で帳消しとなり、あたしは無事に卒業を迎えた。




***




卒業して少し経った日の朝。


あたしはいつものように覚束無い足取りで台所に足を運ばせていた。

大きな欠伸を一つ落とし、開かない目を無理やり開かせて手探りにドアノブに手を掛けた。


ガチャリと重力に任せてノブを下ろす。


――…いつもなら、空腹を誘うような匂いが仄かに香り。

――…いつもなら、テレビの明るいニュースがリビングを響き渡らせて。


だから今日も当たり前の日を送るのだろうと思っていた。


思っていたのに…





音沙汰の無いテレビ。

締め切ったままのカーテン。

机の上には何もない。





…――──暗い。


室内も、雰囲気も、何もかもが。


物音がしたと思ったら、そこには椅子に腰掛けた母がいた。


母はテーブルの上に置いた広告から目を外して頭を上げた。鋭い目付きで見て来るもんだから、あたしは激しくビクつく。


「座りなさい」低い声が、リビングを渡る。


あたしは恐る恐る椅子を引いて、母のテーブルの向かいに腰を掛けた。




テーブルの下に指を絡ませ、チラリと母に目をやる。


眉間の皺、歪んだ眉、昔はクリンクリンで大きかったのよと自慢気に話していた目に最早その面影はない。


いつもの怒りとはまた別物。どす黒い雰囲気が何とも言えない。




憤怒の理由を検証すべく、昨日一日の怠惰生活を振り替えってみた。




午後二時に起床。洗面所に向かった後に、リビングへ足を運んだ。


テーブルの上の目玉焼き、サラダ、味噌汁と言った日本独特の和食料理を10分も経たない内に全て平らげた。


それから再放送ドラマを見ている最中に口元が寂しいと思ったあたしは……



「っ、」



そ…うか、分かったぞ。





―──……プリンだ。



あのプリンがマズかったんだ。




口元が寂しいと思ったあたしは冷蔵庫の奥に隠されたプリンを手に取った。きっとそれがマズかったんだ…!ちくしょうバレちまったか……


手のひらを返してキッと母を睨む。


あたしは悪くない。プリンに名前を書かなかった自分が悪いんじゃないか!とでも言うように。




しかし母はそう簡単に動じない。表情を小揺るぎもせず、こちらを見据えている。…こ、怖い。いや怖くない!


あたしは負けじと睨み続けた。


数秒間母と見詰め合っている、という形だ。端から見るとなんだこの親子は、そう思うだろう。




チクタクと時計の秒針が音を奏でる。


沈黙を破るのにどれほどの時間が経っただろうか。






「これからは普通の女の子として、大人しくいて頂戴」




身体と思考が止まって「……おん?」と顰め顔にポロリと出た。


母の言葉を何度も頭の中で繰り返す。


意味がよく分からないが、一つだけ分かったことがある。




プリンじゃ…ないのか。




そこに関してはホッとしたが、母の話はまだ終わらない。





「もし約束を破れば即刻絶縁とさせていただきます。」


「…っ」




それはマズい……


掃除・洗濯・自炊の家事全般何一つ出来ず、お金はせいぜいもって1日分。…いや、朝の時点で底が見える。


あたしにとって母は必要不可欠であり、生命維持するためのサポーター。


こんな奴が一人で暮らしていける筈がないのだ。




何も言えないあたしに母はこうも付け足した。




「髪は真っ黒にして眼鏡を掛けてなさい。決して中学校の時の自分を明かさないこと。」




あたし、橘幸たちばなゆきは男勝りな所がある。


売られた喧嘩は買うもんだから、歯向かう野郎が増える一方。いつしかあたしは北中のトップの座に立っていた。


男を引き連れる女なんてそうそういない。『たちばな』の名はそこらの不良なら大概知ってる、と思う。


野郎があたしを探して学校に殴り込みに来るのではないか、と母は心配してそう提案したのだろう。


だけどどうしても納得のいかないあたしは、ガタン‼︎と椅子が倒れる勢いで立ち上がり母に捲し立てた。




「悪いけどそんな約束は守れない。あたしを誰だと思ってるの?あの北中のトップに立った『たちばな』…大人しくなんていられるわけないでしょ!!!!」




なんてことは言えるはずもなく「母上、承知致しました。」と深く深くお辞儀して逃げるように自室へ戻ったのであった。


絶縁なんてされてしまえばあたしの命は尽きてしまうのだから。







****


そして入学して早1ヶ月、あたしは素性を隠し続け平凡な日々を送っている。


厚い丸底ビンのような眼鏡に胸まで流した三つ編み、膝下の長いスカート。いるようでいないスタイルがここに生まれていた。






「───…きちゃん、ゆきちゃん!」



その声に、はっと我に返る。



「どうしたの?」



今日も女らしく、女らしく、女らしく…。




そう唱えるのも毎日のこと。一ヶ月を経った今でも、言葉や行動はなかなか慣れないものだ。


中学校の時は周りは男子ばっかだったからね。そりゃあ、もう男っぽく仕上がっちゃいましたよ。




「お昼だよっ?」




顔を傾けて嬉しそうにお弁当箱を見せたこの子の名前は、桜井優菜(さくらいゆうな)。


一つに縛った真っ黒な髪・着崩さない制服・丸い眼鏡、この三点セットは外せない。若干今のあたしと被ってる気もする。


あたしは横に掛けてあったランチバッグを手に取ると、優菜は嬉しそうに前にあった椅子の向きを変えた。



良い子なんだけどねー。


こう…何と言うか、男集団に囲まれてたあたしにとっては女子心がいまいち分からず、これで正解なのかと不安に思う時もある。




「幸ちゃんのお弁当はいつも美味しそうだね!自分で作ってるの?」


「まさか、お母さんだよー。優菜もいつも美味しそうだけど誰が作ってるの?」


「一人で弁当を作るのは大変だから効率重視でこのブロッコリーはお兄ちゃんで唐揚げはお母さん、ウインナーは私で卵焼きはお父さんが作ってるんだよ!」


逆に効率悪くないんだろうか。




中学時代を思い出すと大人しくなったなあー…、とは思うものの、この生活が嫌って訳でもない。前みたいに馬鹿騒ぎするのも好きだけど、こうやってゆっくり穏やかな日を過ごすのも良いなって最近思う。


おっとりとした優菜、一緒にいると落ち着くし和む。


前にはなかった感情、て訳だ。


もしかしたら自分はこっちの性が合っていたのかもしれない、なんて考えたりもする。


しかしこの格好になって、一つ欠点がある。残念な事に、あたしは根っからの喧嘩好きの女に仕上げられていた。


だからあたしは、




「……暴れ足りねぇ」



そう、暴れ足りない。




唯一得意としていたスポーツがなくなってしまったのだ。それはレギュラーから補欠にされた気分。


ここ一ヶ月間部活をサボったみたいな、そんな感覚を覚えさせられる。




「ぶっ潰してやる」



母を潰せば早い話。


しかしそういう訳にはいかないんだよ。


世間体的によろしくもなければ、その後とんでもなく恐ろしい結末が待っている。

怒り狂った母の顔を脳裏を過り、ブルリと身体が震えた。




──…ん?そう言えば、あたしはさっきから誰の言葉に同調して……


声のする方へ目を向けると




「見てんじゃねぇよ!!ブス!!」



地味女という肩書きを忘れて、一瞬立ち上がりそうになった。


危ない、危ない…。ここで殴ってしまえば絶縁決定だ。




ふう、と一息置く。勢い余って殴り掛からないように左手で右手を抑えた。


そいつが目を反らすと、あたしは上から下までじいっと奴を観察。




ツンツンに跳ね上がった金髪に耳には無数のピアス、学ランの中には真っ赤なシャツ、腰下にずらしすぎだズボン。とんでもない身なりであった。


遠くから見ても目立ちそうな奴なのに、あたしは初めて拝見する。


こんな奴、学校にいたっけ?




「幸ちゃんっ」



ちょんちょんと服を引っ張られる。


首を傾げたあたしに気づいたのか、優菜は金髪野郎について小声で教えてくれた。




平川和成ひらかわかずなり、この学校のトップに立つ男。


男だろうが女だろうが容赦なし。先生の手にはもう負えない問題児であり、今まで学校をサボっていたと言う。




「何で優菜知ってるの?」


「ここ、小中高一貫校でエスカレーター式なんだよ?編入でもしない限りは……って幸ちゃん知らなかったの?」



知らなかった…。




お母さんが進めてきた学校だからね。学校については何も聞かされなかったし、大して知ろうとも思わなかった。


問題児で有名なあたしを入学許可したのだから、とんでもなく荒れた学校かと思ったらそうでもなくて。


外観内観、学校はとても綺麗。敷地自体が凄く広くて何処かの豪邸かと疑うくらい。


学校規定を守る子が多く、勤勉で目立った生徒も少ない。


不良なんて見た限りゼロだ。





…いや、違うな。



「おいおい、俺様の前でなに無断に喋ってんだ」



ここにいた。




背後から怖気が走る低い声。


あたしと優菜は同時に心臓を飛び出した。そして、もしやと二人で顔を見合わせ、恐る恐る振り返る。


やはりこの声は平川。


いつの間にか背後に回って、にやりと気味の悪い笑みを見せる。




気付けば教室はしんと静まり、みんなこちらに注目。少し口を開いたあたしたちが、平川の癇に障ったのであろう。




鋭い目付きで睨む平川。




しかしあたしにとってソレは、怖くもなんともなかった。見慣れてる。――…とは言え地味女が胆に座った態度を取ってどうするよ。絶対怪しまれる。


現に平川は「何でお前びびってねぇんだよ」って顔してる。申し訳ない。あんたみたいなのをしょっちゅう相手してたから。




どうする。…どうするあたし。



なんて戸惑っていると、微かに聞こえる嗚咽が耳とどまった。


あたしはふっと横目で捕らえる。


潤んだ瞳、小刻みに揺れる肩、唇が震え、太股辺りのスカートをギュッと握った優菜…。


――…そう、か。


ここで泣けば簡単に済む話。


早急にあたしは目を閉じて『涙を見せればさすがに殴ってこないでしょう』作戦に取り掛かる。


肩を揺らし、スカートを握る。優菜みたいに優菜みたいに…ここで涙!クワッと目を開けた。




「…っんの野郎てっめぇ!!何笑ってんだよ!!!」



あ、や…ちがっ



平川さんは酷くブチ切れなさっていた。



再度挑戦するが一向に涙は出ない。濡れるどころか乾いてしまうと言う優れもの。


平川に目をやる。おおうっ、完璧に怒ってらっしゃる。これ以上火に油を注がないようにとあたしはバッと背けた。




どうする、どうする…これはまさかまさかの絶体絶命。出だしからこんな展開で後は続くのか…?


平川は凄みある威圧を放っていて、今殴られたって可笑しくない状態。


確か平川は男女関係なく殴るって言ってたっけな。……うん、男女平等とは良い心掛けだよ平川くん。


あたしは平川の言葉を待っている間に視線が増えていることに気付いた。野次馬が続出。是非とも見物料を頂きたい。


ヤバいって、目立った行動はするなって言われてるのに…。





「おい、ブス」


「……」


「……」


「……」




「無視とは良い度胸だ。誉めてやる」





どうやらあたしのことみたい。なにもしていないが誉められた。ブスに関しては聞かなかったことにしてやる。




「…そういやあ、見かけねぇ顔だな」


「あ、編入」



してきたので、



と言う前に平川はハッと何かに気付き眉を潜めた。じいっとあたしの顔を覗き見る。




近くから見て分かったこと。


目の色は茶色で一重瞼、頬には痛々しい傷が一つか二つ、八重歯がチラリ。


外見に気を取られて気付かなかったが、意外にも可愛らしい顔立ちをしている。横暴な態度でなければ普通にモテるんじゃないだろうか。




平川は「やはりそうか」と洩らした。やはりそうか?と顔を顰めるあたしに




「お前、───…このトップの座を奪おうとしてんだろ。」



バカなことを言いおった。




「………はい?」


「知ってる。俺は知っている。その地味な格好は素性を隠すために変装していることをな!」



変に当たってる。



心臓が大きく跳ねた。速まる鼓動を胸に隠して、平然を装う。


平川は真剣な眼差しで続ける。




「お前、最近姿をくらませた…もしやあの有名な……」


「…っ」



やばい…不良だからさすがに知られているのか。あたしが『たちばな』だってことをこいつは──




「北条だろ」


いや、誰だよ。



一気に肩を撫で下ろした。『たちばな』かと思った自分が恥ずかしい。




「俺はムシャクシャしてんだ。丁度良い、相手してやるよ」



うおーっと、まさかの展開。




「北条、俺が勝ったらアレを返せ」



だから北条って誰。そして北条は何を取った。



平川は完全に戦闘モード。


教室の真ん中にはあたしと平川、そして優菜も。それを取り囲む野次馬たち。


どどどどうしてこうなった!?あたしは何をどう間違えた…っ!


どうもこうもこの問題は平川の思い違いからに過ぎなかった。結局のところあたしは何もしていない、何も悪くない。




「ほうじょおおおお!!!!!」



だから違いますけど!!




平川は体を大きく見せるようにして腕を振りかぶった。拳が威力を増し、あたしとの距離を縮める。


避けるのは簡単だった。


しかし今のあたしは地味女なんだ。避けたら可笑しいって。平川がキレるのが目に見える。いや、既にキレてる。




じゃあどうする。


受ける?…でも、痛いのはヤダ。




え、まさかの選択肢なし?


数秒間でここまで考えられるのは経験上からに過ぎない。良案が出ないまま、止まる事のない右拳がもう目の前に来ていた。




…ええい、受けちゃえ。


平川に目付けられるのだけは勘弁だよ。後々がめんどくさい。



痛いのはヤダ。


だけど沢山痛い思いはしてきた。こいつもそこらの野郎と体格は変わりない。きっと力だって並みより上、てとこだ。


あたしは高をくくり、目を閉じた。











「平川くん、ストーップ」



その言葉に、空気が一瞬にして変わった。




目をゆっくりと開ける。


見渡すが限り沢山の人で溢れかえっていたが、みんなが避けていくその間を、颯爽と此方に歩み寄る一人の男に目が付いた。




……きっとこいつだ。




明るいブラウンの無造作ヘアー、くっきりとした二重瞼に優しい目付き、綺麗で整った鼻筋、確実に180は越えている長身。


シャツや学ランが多いこの中に一人だけベージュのカーディガンが輝かしく見える。


痩身な体から到底喧嘩も出来そうにない。平川とやり合っても、負けんのが目に見える。


見たことのないその顔につい見入って、優菜の耳打ちに我に返った。


この男の名前は酒井あきら。唯一の平川の連れらしい。




ぱちりと酒井と目が合うと、酒井は口角をうっすらと上げて目を細めた。



苦手なタイプだ…。



視線を戻すと未だ拳は目の前に。早く下ろせよ、その思いが通じたのか拳はすっと下がった。平川は「……あきらかよ」と億劫そうに口を開ける。


酒井は「なんで殴ろうとしたの?」と屈託のない笑顔で平川に問い掛けた。




「こいつは北条だ」


だから違うて。



口に出して否定する気力さえない。



すると酒井の目線はあたしを捉えて前のめりに腰を曲げる。いきなりの顔と顔との距離が急接近で戸惑いながらあたしは「なん、です、か」と一歩二歩後退り。


やっぱり苦手なタイプ…


なんでも見透すかすようなその目が凄く嫌だ。『生理的に受け付けないタイプ』をプラスしよう。


曲げた腰をスクッと立たせる。


酒井の顔がようやく離れて、あたしはホッと安堵の色を洩らす。


「北条は男だよ」と一言平川に向けた。顔を近付けなくともスカート見りゃ分んだろ、とあたしは酒井を忍び目に睨んだ。




「ちげぇよ、こいつは化けてやがる」



確かに化けているが、北条ではない!…と言ってしまいたい。


疑いを課せられた被告人が「やっていない!」と叫ぶ情景が浮かぶ。被告人が何を言ようとも、平川は耳を鬱ぐだろう。




「あ、あの…っ」




ずっと隣にいた優菜。


小さな声を息と共に洩らす。平川、酒井、あたし…野次馬の視線は優菜に集中する。


優菜は少しびくんと肩を上下して、目線をずらした。震えている。肩も唇も足も。




「ゆ…幸ちゃんは北条さんじゃないです。編入したばかりで…だ、だから…あの」



「………」




…嬉しかった。あたしの疑いを晴らそうとする優菜の必死な姿に。


「あ゙あ゙?」と平川は眉を歪めて、啖呵を切る。


当然のこと、優菜は怯えている。




拳をグ、と固める。


最初っから、気に入らなかった。その傲慢な態度も、偉そうな口調も、見下したその目も…全てが気に入らなかった。


それで学校のトップ?笑っちゃうよ。


人より少し力があるだけで、そんな態度を取れるあんたは凄い。喧嘩も何も出来ない子に平気でやれちゃうんだね。



平川を睨んだ。と同時に、




「かず行こうよ。今のかず、何するか分かんない」



酒井が口を開けた。『かず』とはどうやら平川のことみたい。「暴走したら、俺止めれないよ」と酒井は付け足した。




「無理だな。こいつは俺に歯向かった。そして北条を見つけた。ただで帰す訳には…っておい!」




酒井は無理やり平川の背中を押して、廊下へ誘導する。野次馬たちは二人の行く道を阻めないよう、避ける。


平川の乱暴な声が次第に小さくなっていく。二人がいなくなると、静けさが増した。まさにそれは嵐が去ったよう。


いや、あれは嵐前の静けさに過ぎない。本場はこれからだ。




「「「きゃー!!!!」」」




心臓が異常な跳ねを見せた。なななな、何…、と発信源にぎこちなく目を向けると




「やっぱ酒井きゅん格好いい」

「いや、平川くんでしょおっ」

「ぜーたい酒井きゅん」

「平川くん」のエンドレス。




クラスの女子が真っ二つに別れて、甘い声を上げていた。完全に男子の立場がなくなっている。え、可哀想…!


戸惑いながらもその集団を指で差し、目で優菜に訴えた。


優菜は「ああ、これ?」と平然とした顔。さっきの泣きそうな顔はどこへやら。




「平川くんは喧嘩が強いし、酒井くんはルックスがいいでしょ?だから人気良くって」




待て待て待てーい


酒井はまだ分かる。


分かりたくないが奴はイケメン部類に属する。百歩譲ってソレは認める。




問題は平川。


どこがいい…っ!?暴力的なあいつのどこがいいっ!顔は良いかもしれないけど、殴るんだぞう!




「いいなぁ~橘さんと桜井さんは!二人に絡まれるなんて羨ましい!」




あたしに近付いた女の子が、口元に手を当てておっとりとした目で話す。


ぎょっとした。


そこにいたのは女の子一人だけではなく、あたしと優菜は沢山の女の子に囲まれていたのだ。おおうっ、嬢さん方の目が怖いぜ。


「ずるい」「羨ましい」「いいな」とみんな決まって同じ言葉を繰り返す。










帰りたい…。




窓の外に目をやった。空は綺麗。羅列な雲が途切れなく流れていたがあたしの中ではプツンと何かが切れた。

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