第28話

お昼すぎ、休憩の為に控え室でお昼を食べていた私たち四人の元へ茜が駆け込んできた!


「みんな! 見た?!」


その問いがなんなのか分からず首をかしげる私たちに、茜がニッコリ笑って爆弾投下してくれた。


「ミス、ミスターコンテストの中間結果! ダントツで有紗と要くんが首位独走だよ!」

その言葉に食べていたご飯でむせて咳き込む私の背中を、隣にいた要くんが撫でてくれる。


「はぁ!? なんで私と要くん? 知名度的には日菜子と蒼くんだと思ってたのに!!」


私の叫びに、日菜子、茜、蒼くんがニヤニヤとした顔をしているので私はジトっと目で睨んで返せば蒼くんが言った。


「俺、サッカー部の面々に要が頑張ってるから、有紗ちゃんとの後押しよろしく! って頼んでたんだよな」


ドヤと胸を張って言う蒼くん、私の顔はピキピキと音を立てるごとく険しくなっていく。


「あ、私もね。テニス部の面々にうちの有紗と要をよろしくしておいたのよね」

「もちろん、家庭科部も」


日菜子と茜もサラリと言う。


まさか、身内が部活権力を駆使して票集めしてるなんて……。予想外にも程がある。

私はブチッと何かのキレる音とともに、静かに一言口を開いた。


「日菜子、茜、蒼くん? ふ、ざ、け、る、な?」

その時私の顔を見た四人は、いつにない私の本気の怒りに顔色を一気に悪くした。


「私が目立つの嫌いなのは知ってるはずよね? 嫌がるの分かってるのに。むしろ辞退する気だったのを断念したのも知ってるくせに、どうしてそんなことをしたの?」


私の静かなままの一言一言に、四人は顔を見合わせてから要くんが口を開く。


「有紗、ごめん。俺知ってたけど止めなかった。ちょっと憧れてたんだよ。好きな子とこういうイベントで並べたら、良い思い出になると思ってたから……」

反省と、気恥しさがあるのだろう。

要くんは視線を下向きにしつつ言った。


「こんなこと言うと普段の俺とはかけ離れてるだろ? だから都合良く周りに流されてた。有紗に嫌な思いさせるってところに考えが至らなかった。本当にごめん……」


普段はしっかり者で落ち着いてる要くんも、年相応の男の子だったんだとこんな状況でやっと気づいた。

私との思い出だと思ってくれたこと。

じわりと怒りが溶けて胸が温かくなってくる。


「これ以上は広めないで。とりあえず参加しちゃってるものは仕方ないから、出た結果はちゃんと受け止めるから」


ため息混じりに返事をすれば、四人はホッと一息ついて肩の力を抜いた。


「普段怒らない有紗を怒らせちゃったね。本当にごめんなさい」

日菜子と蒼くん、茜も謝ってくれて。

とりあえずこの件はもう言わないことにした。


楽しいはずの文化祭、嫌な気持ちで過ごしたくないからね。


私は少し家庭科部を覗いたあとは、午後は自由時間になっていたのでいつものメンバー四人で校内を回っていた。


午後はメインステージの体育館で軽音楽部のライブがある。

今年はミスターコンテスト出場者がボーカルのバンドがあるので、体育館は人がいっぱいだった。


「ハルト!!」


ワーッと歓声があがり、バンドが登場した。


制服を着崩し、ちょっと軽い感じのメンバーが並ぶとボーカルとギターの子が掛け合いながらバンド紹介を始めた。


体育館の中のテンションがどんどん上がっていく。

そうして演奏が始まれば会場の空気が一気に湧いた。


コピーしている演奏だけれど、どのメンバーの演奏も上手く、ボーカルの声は力強くよく伸びる、耳に心地よい歌声。


聴かせてくる、バラードから一気にアップテンポのノリのいいナンバー。

どれも演奏して歌ってるメンバーが楽しそうで、惹き込まれた。


「実は最後の曲はある人とセッションしたいんだ。人気の曲だからいきなり振っても受けてさえくれれば大丈夫だと思うんだよね」


そんな言葉を発した後、チラリと目線がこちらに向いて目が合うとニコッと笑って言った。


「ね、学園のマドンナ! 汐月有紗さん! ぜひステージに上がってよ!」

なんで?!


驚いていると、このグループの前に演奏してた子が私を迎えに来る。


「先輩、お願いします。俺らは放課後の歌姫のファンなんですよ」


そんな、意味深なことを言う。


「放課後の歌姫?」

私の疑問に、彼は笑いながら言った。


「ごく稀に、放課後の音楽室でピアノに合わせて歌ってる人の歌声を、近い視聴覚室で活動してる僕らは聴いてたんですよ」


その言葉に驚いた。

私は彼の顔をマジマジと見返す。


「ある日、どうしても気になって音楽室を覗いたらピアノを弾いてるのは保健室の田中先生で、歌ってるのは先輩でした」


そう、私のたまのストレス発散。

実は中学までは合唱部だった私は、歌うことが好きだった。


しかし、入学した高校には合唱部が無かった。


なので、ピアノが弾ける叔母が空いている時にたまに弾いてもらい思いっきりのびのびと歌うのが私のストレス発散だった。


まさか、聞かれているとは知らなかったので驚いたのだ。

それを近くで聞いてた三人は、驚いた顔をしてこちらを見る。


「あの、時々聞こえる噂の放課後の歌姫って有紗だったの!」

その日菜子の声に私もびっくりする。


「え? なに? 日菜子も知ってるの?」

すると、興奮した日菜子がまくして立てるように答える。


「私らが入学した年からたまに部活中に聞こえてくる歌声が、それはそれは綺麗でいつからか不定期に聞こえてくる歌声に放課後の歌姫ってあだ名が付けられたの!」

私の肩を掴んで、前後に振りつつ日菜子はさらに続ける。


「その、正体はなかなか知られないし。歌うのも一~二曲だから誰もわからなくて。しかも不定期! まさか有紗だったとは!」


「外で活動してる運動部の人間はみんな聞いたことがあるよ! 有紗ちゃんだったんだね!」

蒼くんの言葉に要くんもうなずく。


まさか、校庭まで聞こえてるとは思わなかった。

そこに校内巡回中らしい、叔母が顔を出す。


「あらあら、とうとうバレちゃったのね。まぁ、有紗の声量はオペラ歌手並みだもの。校内どこでも届くわよ」


どうやら事の次第を聞いていたらしい叔母は、クスクス笑いながら言う。


「田中先生! あれ? いつもは汐月さんって言ってなかった?」


叔母の声掛けに不思議そうに聞いたのは蒼くん。

よく知ってるなとちょっとその場は口をつぐんでいると、叔母が答えた。


「ふふ。身内贔屓とかにはならないだろうとは思うけど、一応養護教諭だからね。先生達以外には黙ってたんだけど、私はこの子の叔母なのよ。この子のお母さんが私の姉」


その言葉にへぇーって周りは関心の声。


「ま、これは逃げられないから歌ってらっしゃいな」

そんな叔母に私は言った。


「ピアノ伴奏で歌う曲とバンドじゃ全然違うじゃない」


ため息混じりに呟けば、叔母は背中をポンポンと叩くと言った。


「カラオケも大好きなんだから大丈夫でしょ! いい思い出になるわよ、行ってらっしゃい」


そうして身内にまで行けと言われて逃げられる訳もなく、私は軽音楽部のバンドに飛び入り参加する事になった。


あぁ、目立ちたくないのに。

最後の文化祭、目立ちまくりだよ……。

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