第27話

今回は手を引かれて無事に階段を降りた。

歩いてる間、いろんな人に見られたけれど。


今日は馬の被り物とか、着ぐるみとか演劇をするクラスもあるから普段と違って様々な服装で入り乱れているので浴衣が目立つわけでは無い。


つまり、この手を繋いで歩いてる相手が目立つわけだ。

要くんは、引退したけれどサッカー部のエースストライカー。

しかも、見た目も涼やかなタイプのイケメン。

そんな彼が浴衣で女子と手を繋いで歩けば……。


それは目立つよね! 注目浴びるよね!

なんでこんな簡単なことに気づけなかったの私!!


無事に階段も降りたので私は手を抜こうと動かそうとしたら、要くんが私を見つめて聞いてきた。


「どうした? 手繋ぐの嫌なの?」


その視線は、真っ直ぐでなにかあるわけではなさそうだけれど……。

色々言われてる私は、最近なにかあるとすぐにドキドキしちゃうし、それが顔に出やしないかとヒヤヒヤもする。


「なんか、手を繋いでると周りの視線が……」


徐々に小さくなる声、それでも要くんはしっかり聞いてくれたみたいで返事がくる。


「目立つ訳でもないだろ? 俺たちの前のリア充ふたりの方が目立ってるからな」


その言葉に顔を上げて前を見れば、日菜子と蒼くんがいつも通り仲良くしている。

その二人を見て、周りの声を聞いてみる。


「水木先輩と瀬名先輩は相変わらず仲良しで羨ましいね!」

そんな声だ。


その声にホッと一息つくと、そんな私を見て要くんが柔らかく笑う。


「そんなに周りを気にするなよ。俺たちも多少は言われるだろうけど。有紗にとっては、逆に他の男に寄られなくなるからいいんじゃないか?」

そんな言葉を聞いて、確かにと思う。


毎年この時期は手紙やら呼び出しやらでそんな告白を受けたりしていて。

毎回断るのが大変だった。


気持ちはありがたいけれど、私は恋をしたくなかった。

だって、私には無理だもの……。


気持ちが少し沈んだのを見てとったのか、要くんが繋いでいた手を優しく引く。


「これだけ仲良くしてたら、今年は大丈夫だろ。ほら、クレープ食べるんだろ?」


会話していた私達は足を止めていたので、先にクレープ屋に着いていた日菜子と蒼くんにも呼ばれてしまった。


「有紗! 要! 早く、頼んで食べよう!!」

「はーい、今行く!」


そうして、私達はクレープ屋さんで、チョコバナナ生クリームとカスタードイチゴ生クリームを頼んだ。


「めっちゃ甘い!」


日菜子のチョコバナナ生クリームを食べた蒼くんは、そんな感想を言う。

私もカスタードイチゴ生クリームというのを要くんに一口あげる。


「甘いな」


どうやら男子ふたりには甘過ぎたらしい。

美味しいんだけどな。


「蒼、フランクと焼きそば食べないか?」

「いいね! 俺もそれ食べたい」


そんな会話をしてふたりは食べ物系の出店へと買いに行った。


ふたりが買いに行ってる間、私と日菜子は中庭の片隅に移動して買ったクレープを食べながら待っていたら、下級生の集団に声をかけられた。


「瀬名先輩、汐月先輩! おふたり良かったら俺らと回りませんか?」


そんな誘いを掛けてくる、下級生たちはなんだか軽そうな感じの子達。

私と日菜子は目を合わせてうなずくと、日菜子が口を開いた。


「いや、連れがいるし。君らとは回らないよ。今、私ら食べてるからここから動かないし、連れ待ちだよ?」


サラッと誘いを断る日菜子に、下級生達はそれでもにこやかに食いつてくる。


「え? だって先輩方今ふたりでしょ? いいじゃないですか!俺らと遊びましょうよ」


なかなか諦めの悪い子達だ。

どうしたものかと思いつつ私からも断ろうと口を開きかけた時、下級生達の後ろに蒼くんと要くんが見えた。


ホッと息を吐き出した時、蒼くんが彼らのうちのひとりの肩に手を置いて口を開いた。


「悪いね。そこの子達俺らの彼女なのよ? だから、おとといきやがれ?」


口調も去ることながら、その笑顔で冷気を漂わせてるのがすごくて。

男の子達は一歩引きつつ、返事をした。


「あ、先輩方……。すんませんでした!!」

蒼くんと要くんが来たらあっさり去っていったのでホッとした。


「全く。油断も隙もないな」

その声は少し呆れている。


「有紗、大丈夫だったか?」

さっきまでは睨むような視線を向けていた要くんも、今は気遣うように優しい顔をしている。


「日菜子が断ってくれてたんだけど、引いてくれなくて困ってたの。ふたりが戻ってきてくれて良かったよ」

私がニッコリ笑って言えば、ふたりも笑ってホッとしたような顔をした。


「まったく、私が蒼と付き合ってるのはかなり有名だと思うのに」


ため息つきつつ、日菜子が言うのを蒼くんと要くんも聞いて苦笑いだ。


「それに、有紗はいま要がアプローチ中で離さないってのも噂になってるのにね。チャレンジャーな下級生達だったわ」

実にサラッと言われたが、私はとある所を聞いて目を丸くしてしまう。

なにか今すごいこと言ってたような……。


「要くんが誰にアプローチ中なのが噂になってるの?」

私の問いに、日菜子と蒼くんがいい笑顔で答えてくれた。


「もちろん。要が、有紗に、アプローチ中なのは三年生の間では共通認識よ」

「下級生にもだいぶ噂はまわってるはずなんだけどな」


ねー! なんて顔を見合わせつつ仲良く言うカップルのふたりに、私は口ポカーンの間抜けな顔になってしまう。


そんな私にトドメのように要くんは言った。


「まぁ、俺も好意は隠してないしな。アプローチしてるし、外野から狙ってくる奴には牽制もしてる」

そんなの、気づいてなかったよ!?


驚く私の顔を見て、三人はそれぞれに笑いながらも日菜子が一言で締めくくった。


「有紗はその辺鈍いから、気づかなくても仕方ないね! でもそろそろ要が不憫だから気にかけてやってよ」


こうして、少しの波乱を起こしつつプレ文化祭を過ごしたのだった。


翌日、土曜日。

今日が文化祭本番。一般公開日だ。


近隣の他校の生徒や受験を控えた中学生、さらにはご近所の方々に保護者など様々な人が来る我が校の文化祭。


十五時で一般公開が終わると軽く片付けたあとに生徒達の後夜祭だ。

大きなベニヤ板やら紙くずらやでキャンプファイヤー状態になる。

その周りでミス、ミスターコンテストの結果発表がある。


ちなみに登録は自選、他薦問わず。

エントリーは三年生のみ。

投票は全学年の生徒となっており、紙が配られ投票は各学年の廊下やメインステージたる、体育館などに箱が置かれている。


私は関係ないと思っていたら、気づけば他薦でエントリーされていて唖然とした。

辞退を申し入れたがコンテスト運営の二年生以下の下級生たちに他薦多数なので、お願いします!! とかなりの勢いで頭を下げられてしまい諦めた。


日菜子もエントリーしているし、蒼くん、要くんもエントリーしている。

他には男子なら軽音楽部のボーカルの男子。


女子だと前生徒会副会長さんなどがエントリーされている。

どの人達も目立つ人気者なイケメン、美人達なので私は大丈夫だろうとこっそり胸をなでおろしていた。


私は目立つタイプではないし、問題ないよねと今日は一般公開もあり忙しく立ち回っていた。

そして、自分の票は日菜子と蒼くんでこっそり投票しておいたのでそれで満足していたのがいけなかった。

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