第3話side 要

side 要


朝、掲示板の前に立ち俺は今年のクラスを確認する。


「お!要。はよ!」

さらっと後ろから声を掛けてきたのは同じサッカー部で部長をしている蒼。

かれこれ、入学から同じ部活でクラスも一緒な俺たちは三年目の付き合いだ。


「おう、蒼。今年も同じクラスだ」


「マジか!?ラッキー♪」


弾む声の調子から本当に喜んでいるのがわかる。

俺は割と日々平坦なので、蒼こそ分かってくれるが周りからはクールだの言われている。

ただ単に起伏が少なくて面倒くさがりなだけなのだが……。

「でもな、蒼。担任、三浦だぞ?」


「げっ、始っちが担任なのかよ!?俺、課題から逃げらんねぇじゃん!」

蒼は明るく元気の良いタイプで、明るい髪と見た目も良いし、背も高いしで女子に人気だ。

よく告白されるし、手紙も貰ってたり、部活に差し入れも貰ったりする。

告白は好きな人が居るからと、断ってるらしい。

その想い人が誰か知っているので、お前そろそろ頑張れよと俺は内心思っている。


クラスに入れば黄色い声が上がる。

蒼と一緒に居ると大体そんなもんで、三年同じクラスにいれば慣れているとはいえ少し面倒でつい、顔に出てしまう。

すると、名簿をしっかり見ていなかったが今年は久しぶりに幼なじみの瀬名日菜子と同じクラスになったようだ。

クラスの真ん中あたりで机に突っ伏してる日菜子が見えた。

そんな日菜子に気付いたらしい、蒼が小声で耳打ちしてくる。

「おい!担任より何より瀬名さんと同じクラスって教えといてくれよ!やっぱり今年はラッキーだ!」

小声だけれど喜びに弾む声が、蒼のテンションの高さを教える。

高校に入ってすぐ幼なじみの日菜子との仲を騒がれて、そんな感情のない俺と日菜子は互いに面倒に思い距離を置いた。

勝手知ったる幼なじみは、前の席の女子と仲良さそうに話して抱き着いていた。


あいつにも仲のいい友達が出来てたんだな。

兄のような心持ちで少し安心して見つめていると、横から驚きの声が聞こえた。

「お!瀬名さんと一緒に居るの、家庭科部のマドンナじゃん!」

ん?その言葉に俺が疑問顔になると、蒼が教えてくれる。

「お前、その辺疎いもんな!家庭科部のマドンナ、汐月有紗!穏やかで優しい性格で、ほんわかした雰囲気とその清楚な見た目で校内の男子人気ナンバーワンだぞ?」

そう言うと、俺の肩を抱いてまた耳打ちしてくる。

「因みに、どんな男がアタックしても玉砕の高嶺の花だ。瀬名さんとは去年から同じクラスで二人は仲良しだ!要、マドンナと仲良くなるチャンスだぞ」

蒼の顔を見れば、楽しそうにニヤニヤしている。

俺が日菜子と一緒に居た、そのマドンナと言われる彼女を気にしていたのを見抜いたらしい。

蒼は人の恋愛事には鋭いのに、本人の恋愛はかなりのヘタレである。

「つまり、お前は俺に日菜子への橋渡しをしろと?」

ジト目で言ってやると、蒼は両手を合わせて拝む様にして言う。

「今年こそ、瀬名さんとお近付きになりたいんだ!頼むよ、要」


情けない声を出すヘタレな俺の親友に、俺は溜息をつきつつ返事をしてやる。


「仕方ないな。でもお前、ほんとに頑張れよ?」


「高校最後の夏、しっかりカレカノで過ごしてやる!」


ある意味健全男子な思考回路を口にする蒼の肩をポンポン叩きつつ、仲良さそうに話している日菜子と汐月さんを見て俺はまず、日菜子へと声を掛けに行く事にした。


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