【8】勇者の子どもと悪役令嬢(3)

「あぁ?!何だお前ェ!」

「もう1人ガキがいやがったのか!コイツも消せ!」


国境壁の前にいた亜人達は、宮藤迅オレも始末しようと、襲いかかる。

俺は奴らの攻撃を躱して、タクト達を捕まえている魔人の顔めがけて殴りかかった。

すると魔人は怯み、その隙にタクト達はその場を離れて、俺と亜人達の様子を眺めていた。


亜人達は4人がかりで俺に殴りかかるも、奴らの拳が俺に当たることはなかった。

一方、俺は奴らの頭・みぞおち・金的を狙って殴りまくる。

しかし、亜人達は思ったより頑丈で、殴っても怯むだけで倒れない。


「クッソ固いな、テメェら。」


おかしい。

前世じゃ、こんな奴らワンパンで吹っ飛ばせたのに。

....もしかして姿が変わっただけで、腕力は元のまま、なのか?


だとしたら、魔法で力を強くすればいいだけじゃねーか。

ついでに相手の攻撃が当たってもダメージを受けないようにしとくか。

俺は魔法で力を強くし、ダメージを無効化した。


すると、さっきまで倒れなかった亜人達が、たった1発殴っただけで、あっけなく倒れた。

....この世界の魔法って、ホントに何でもアリだな。


「大人4人相手に、凄い...!」

カタリーナは関心して声を漏らす。


「あ、ありがとうございます!」

「宮藤迅さん、ですよね?また助けてくださって、ありがとうございます!」

ライラが礼を言うと、それに倣うかのようにカタリーナもお礼を言った。


「えっ、クドージン、さん?!」

「嘘だろ?だって、前と全然姿が違うじゃんか!」

「じゃあ、ライラちゃん達が会ったクドージンさんとは別人ってこと...?」

「それじゃあ、蘇生魔法が使えるクドージンさんは、2人いるってこと?」

.....なんか、話がややこしいことになってるな。


「あー.....コレでOK?」

説明するのもかったるい俺は、手っ取り早く厄災の魔王の姿に変身してみせた。


「ウソっ?!」

「お前っ!魔王だったのか!」

タクトとライラは驚きつつも、理解してくれたようだ。


「えっ?....えっ?」

一方のカタリーナは、混乱して『え』という言葉しか出なくなっていた。

そんなカタリーナを無視して、俺は再び人間の方の前世の姿に戻った。


「クドージンさん、その姿は一体...?」

「あ?この姿?前世の姿パート2だけど?」

「パート2??」

「まぁ、そんなことより。」


さっきの亜人達、ちゃんとトドメを刺していなかったな。

意識を取り戻す前に、サクッと首でも斬っとくか。

俺は剣を取り出し、寝転がっている亜人の首目掛けて、剣を振りかざそうとした。


「ダメッ!」

そんな俺を止めたのは、ライラだった。


「そんなことしたら、その人たち、死んじゃうよ!」

「そりゃ、そーだろうな。」

「いくら何でも、それはやり過ぎだろ、お前!」

はぁ?何言ってんだ、コイツら??

ここで殺しとかないと、殺されるのは自分達だって分かってないのか?


「さっきまでお前らを殺そうとしてた奴らだぞ?捨て置く義理はねーだろ?」

「それでも、命まで奪うのは、いくらなんでもヒドイよ。それに、私たちを襲ったのだって、きっと逃げるのに必死だったからだよ。確かに悪い人たちだけど、死んでもいいとは思えないよ!」

うわぁ。The・偽善者理論。

自分を殺そうとした相手の事情に配慮するとか、脳みそが沸いているとしか思えない。


「『命を奪う』って、意味、分かって言ってるの?」

突然、さっきまで『え』としか喋れなくなっていたカタリーナが、口を開いた。


「『命を奪う』って、要するに殺人だよ?人一人の人生を奪うってことよ?虫を殺すのとはワケが違うのよ?今横たわっているその人たちが、二度と動かない『物』になるのよ?それに何より、人を殺したら、一生その罪を背負って生きるのよ?

そういうのを、全部分かった上で言ってるの?」


「えらく長いお説教だな。罪を背負うだか何だか知らねぇが、ヒト一人死ぬくらいでごちゃごちゃ考えすぎなんだよ、お前。」

そう言い返すと、カタリーナは、まるで化け物でも見るかのような目で俺を見つめた。


「それに人殺すのって、案外楽しいぞ?生前どんだけ偉かった奴も、最期はギャーギャーうるさく騒ぎながら、を撒き散らしてダンマリになんの。間抜けすぎて笑える。」

奴らのアホな死に様は、今思い出しても笑いが込み上げてくる。


「あなた、本当に、それでも.......」

カタリーナは半分うわ言のように、俺に言葉を投げかける。


「第一、これは親切でもあるんだぜ?クソみたいな人生終わらせて、さっさと来世に生まれ変われるんだからな。」

「クソみたいな人生かどうかなんて、お前に分かるワケねーじゃん!」

「フツーにわかるだろ。人間のこの国で亜人として生まれた時点で、人生詰んでる。」

「そんなの、生きてみないと分からないよ!」


「お前ら、ホント甘ちゃんだな。生まれる種族失敗している時点で、どうあがいても幸せになれねぇんだよ。種族がクソ。国がクソ。親がクソ。そういうハズレを引いた時点で、負け犬人生は確定してんの。絶対に幸せになれない宿命なの。分かる?」

「どんな国や種族に生まれたって、誰にでも幸せになる権利はあるよ!」

世間知らずなガキ共を諭そうとするも、コイツらには何一つ響いていなかった。


「だったら仮に、百歩譲ってコイツらを殺さなかったとして、コイツらに未来があると思うか?俺が殺さなくても、他の奴に見つかった時点で通報されて、逃げ出した罰としてもっと酷い扱いを受けるか、殺されるかのどっちかがオチだ。」

「それは....」

3人は一斉に口を閉ざした。

根性論ではどうにもならないことを、ようやく察したようだ。


「じゃあ、10秒数える間に、コイツらの人生に希望があるか、教えてくれよ。もしそんなものがあったら、殺すのやめてやるよ。」

とってもとっても慈悲深い俺は、10秒間の猶予を与えてやった。

まぁ、10秒考えたところで、希望なんかあるワケないけど。


「10、9、8.......」

ライラ達はお通夜みたいな雰囲気で、俯いて考える。

だが、考えたところで希望が見出せるはずもなく、刻一刻と時間が過ぎていく。


「4、3、2....」

「待って!あるよ、希望!」

時間切れを宣告しようとした瞬間、ライラに遮られた。

苦し紛れにも程がある。


「何だ、言ってみろ!」

「亜人さん達が、無事にキメイラ帝国へ逃げ切るの!それで、キメイラ帝国で幸せに暮らすの!」

「はぁ?お前、自分で何言ってるか、分かってんのか?ソレ逃亡犯の手助けするってことだぞ?いい子ちゃんのお前が、そんなことしていいのかよ?」

第一、反則だろ、そんな回答!


「あら。私達、別に逃亡犯の手助けなんかしてないわよ?『隣国へ逃げようとしている凶悪な逃亡犯を見つけたものの、子供の私達じゃ止められなかった』ってだけよ。ね?二人とも」

ライラの反則的な答えに、カタリーナが悪ノリしてきた。


「そうそう!子供の私達じゃ、止めるどころか身を守るので精一杯だよ。」

「それに、逃亡犯を捕まえるのは衛兵の仕事でしょ!私達に逃亡犯を捕まえる義務はないわ。」

「あぁ?!小賢しい屁理屈言いやがって!」


「それより、ちゃんと私たちは証明したんだから、約束は守ってよ。」

「ふざけんな!こんな回答は無効に決まってんだろ!ナシナシ!」

「うわー!思い通りにならないからって、約束破るとか、超だっせー!」

「あ゛?」

「ホントホント。こんな一瞬で約束破るくらいなら、最初からしなきゃいいのに。超ダッサ!」


コイツら調子に乗りやがって!ぶっ殺す!

って思ったが、ここで殺したら、コイツらに負けた気がする。

かといって、コイツらの思い通りになるのも気に食わねぇ!


「~~~~~っ!!......仕方ねぇな。」


熟考した結果、渋々、亜人どもを逃がすことにした。

手に持っていた剣をしまうと、ライラ達の表情は一気に明るくなった。

...タクトとカタリーナは、いつか100回シバく!


俺は拳に最大限まで力を入れると、国境壁へ向かって正拳突きをした。

すると、国境壁は大きな音を立てて粉々に吹っ飛んだ。

そして威力が強すぎたのか、隣国の森が、まるで道ができたかのように、直進方向に木々が倒れていた。

その光景に、ライラ達は口をぽかんと開けて呆然する。


「え、何で...?」

「『何で』って、コイツら逃がすために決まってんだろ?」

「そこまで、してくれるんだ...。」

「あ?」

「私、てっきり......」

「シッ!」

ライラが何かを言おうとしたのを、カタリーナが何故か止めた。


「なんか文句あんのか?」

「いいのいいの、宮藤くん、続けて。」


なにか引っ掛かる感じはあるものの、俺は気にせず、寝転がっている亜人どもを起こした。


「...っ。」

「お。やっと起きた。」

「あっ、お前っ!」

最初に起きたのは尻尾の生えた亜人だった。

亜人は俺の顔を見るなり、怪訝な目で睨んできた。


「まーまー、そう睨むなって。お前らが用があんのは向こうだろ?」

俺は壊した国境壁の方を指さした。

亜人は、壁がなくなって丸裸になったキメイラ帝国の森を見た途端、唖然とした。


「壁が......ない...!」


そして亜人は、しばらく固まったのちに、口角をあげて笑った。


「やった!自由だ...!これで、やっと、自由だ!」

亜人は、雄たけびのように叫びながらガッツポーズをする。


「お前ら、起きろよ!キメイラ帝国はすぐそこだ!もう俺達は自由だ!」

他の亜人達も目覚めて起き上がり、キメイラ帝国を見る。

そしてその光景に、一同は驚き、やがて歓喜の声をあげた。


亜人達は駆け足でキメイラ帝国へ入ると空を見上げて、まるで勝利宣言をするかのように、雄叫びをした。

すると、さっき起こした尻尾のある亜人がこっちに戻ってくるなり、俺に話しかけてきた。


「あの壁を壊してくれたのって、もしかしてアンタか?」

「あ?まぁ、一応そうだけど?」

「ありがとう!」

「礼ならコイツらに言え。お前らを助けてくれ!って命乞いしたのはコイツらだからな。」


「俺ら『助けて』って言ったっけ?」

「シッ!そういう事にしておきましょ!」

....ん?

タクトとカタリーナが、何か話していた気がする。

ま、気のせいか。


尻尾の生えた亜人は、タクト達の方を向いて、深々と頭を下げた。

「君たち、本当にありがとう!」

「いえいえ、そんな...」


「それと、君たちに襲いかかって悪かった。それにアンタもだ。殴りかかってすまなかったな。」

「いいって!別に気にしてねーし!」

何でタクトおまえが偉そうに言うんだよ!

コイツ、俺がいなかったらヤバかったという自覚はないのか?


「人間にも、君たちみたいな良い奴がいるんだな。俺はデニスって言うんだ。もしキメイラ帝国に来ることがあったら尋ねに来てくれ。その時は今日の礼をするから。」

そう言い残して、亜人はキメイラ帝国へ戻っていった。


.....あ!

そういえば、「宮藤迅オレはキメイラ帝国に住んでいる」っていう設定を、タクト達に説明しなきゃいけねぇんだった!

何か忘れていると思っていたが、コレのことだったのか?

.....いや、違う気がする。


とにかく、今が「宮藤迅オレはキメイラ帝国に住んでいる」って伝えるチャンスじゃね?

その事に気づいた俺は、タクト達に「じゃあな」と言って亜人達の後を追うようにキメイラ帝国へ行った。


「えっ?」

「宮藤くん、どこに行くの?」

「どこって....自分ン家に帰るに決まってんだろ。」

「お前、キメイラ帝国に住んでたのか?!」

「あぁ?悪いか?」

「いえ、別に....」

「だったら帰る。お前ら、もう面倒ごとを起こすんじゃねえぞ。またライトニング領に遊びに来てる時に、お前らのお守りをするのは、もう懲り懲りだからな。じゃあな。」


言い終えると、俺は国境壁を元通りに修復した。

コレでタクト達は「宮藤迅オレはキメイラ帝国に住んでいる」って思ったハズだ。

あとは元の姿に戻って.....。


「あぁ!!!!!」


思い出した!

何でこんな大事なことを、忘れていたんだ!

思わず、大きい声で叫んでしまった。


元の姿フレイのアリバイを作るのを忘れていた!

前の時も、前の前の時も、俺がその場にいなかったせいで、怪しまれたんだった。


俺はアリバイを考えながら、元の姿でタクト達と合流した。

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